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〜使用人の私が王子も敵国王子も夢中にさせる〜  作者: レノスク


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第4章 城という世界の、中心で

アリシアが十二歳になった頃。


彼女とリオは、本格的に城で働くようになっていた。


「アリシア、次は東棟の回廊ね」

年上の使用人にそう言われ、アリシアは元気よく返事をする。


「はい!」

ほうきを抱えて歩き出すその後ろを、リオが静かについてくる。


「……走らないで」


「大丈夫だってば」

そう言いながら、少しだけ早足になる。


リオは小さくため息をついて、歩調を合わせた。


城の中は、相変わらず広かった。


磨かれた床。


高い天井。


そして、どこか張りつめた空気。

(ここ、やっぱり慣れないなぁ)


アリシアは心の中でそう思いながらも、表には出さない。


仕事は嫌いじゃなかったし、誰かの役に立っている実感もあった。





その日、事件は突然起きた。


回廊の角を曲がった瞬間。


「――あ」

誰かと、ぶつかった。


「きゃっ!」

バランスを崩し、転びそうになる。


次の瞬間、強い腕に支えられた。


「大丈夫?」

聞こえてきたのは、穏やかで落ち着いた声。


アリシアは顔を上げる。


そこにいたのは、年上の青年だった。


整った顔立ち。


柔らかな金色の髪。


気品があって、自然と背筋が伸びる。


「……す、すみません!」

慌てて頭を下げる。


「こちらこそ、前を見ていなかった」

青年はそう言って、優しく微笑んだ。


「怪我はない?」


「は、はい!」

その瞬間。


(……え)

胸の奥が、ふわっと熱くなった。


理由は分からない。


ただ、目を逸らせなくなる。


「……?」

青年は少し不思議そうに首をかしげる。


そこへ、慌てた声が響いた。


「兄上! こんなところで何してるんですか!」

駆け寄ってきたのは、アリシアより少し年下の少年。


明るい声。


活発そうな雰囲気。


「また使用人さんに迷惑かけたんじゃないでしょうね?」


「かけてないよ」

青年は苦笑する。


「彼女が転びそうになったから、支えただけだ」

少年はアリシアを見ると、にっと笑った。


「へえー。君、新しい使用人?」


「は、はい!」


「ふーん」

じっと観察するような視線。


少し落ち着かない。


そのとき、遅れてリオが駆け寄ってきた。


「アリシア!」

アリシアの無事を確認すると、ほっとしたように息を吐く。


青年は二人を見比べて、静かに言った。


「君たち、名前は?」


「えっ」

一瞬戸惑ってから、アリシアは答える。


「アリシア・ルミエールです」


「……リオです」

青年は頷いた。


「僕は、レオニス・アルディア」

(れおにす……?)

聞いたことのある響き。


「こちらは弟の、カイル・アルディア」

その名前を聞いた瞬間、頭の中で何かが繋がった。

(アルディア……王家……)


アリシアは、はっとして背筋を伸ばす。


「だ、第1王子殿下……?」


「そこまで緊張しなくていいよ」

レオニスは穏やかに笑った。


「君たちは城で働く、大切な人たちだ」

その言葉は、まっすぐだった。

(……王子様って、こんな人なんだ)


アリシアは、無意識に頬をかく。


自分の鼓動が、少し早くなっているのを感じた。


一方で。


「へえ、君、面白そうだね!」

カイルがにやりと笑う。


「兄上、こういう子、好きそうだなー」


「カイル」

軽くたしなめる声。


そのやり取りを、リオは少し離れたところで見ていた。


胸の奥に、言葉にできないざわめきが生まれる。

(……遠い)


そんな感覚。


アリシアは、もう“自分だけの世界”にいる存在じゃない。


そう、初めて強く意識した瞬間だった。


この出会いが、

やがて彼女の心を大きく揺らすことになる。


まだ誰も、恋だとは気づいていない。


――けれど、確実に運命の歯車は、回り始めていた。

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