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〜使用人の私が王子も敵国王子も夢中にさせる〜  作者: レノスク


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第13章 心で繋がる二人と影から見守る視線

城の奥、誰も気軽に入れない中庭兼小さな研究室。


石畳に囲まれ、古びた書物や魔法器具、錬金薬の瓶が無造作に並ぶ。空気には微かな薬草の香りと魔力の残滓が漂い、静けさの中に緊張感が宿る。


セシル・フェインは宮廷魔道士として、慎重に魔法を操っていた。


光の球が指先で揺れ、微かな振動と共に周囲の空気を揺らす。彼の表情は真剣そのものだが、目の端には時折、アリシアを意識する光が垣間見える。


アリシア・ルミエールは、手元の掃除道具を持ったまま、その光景を見つめていた。


彼女には魔法の理論や結晶の化学反応など、専門的なことは分からない。だが、セシルの肩に少し力が入っていること、呼吸がわずかに荒いこと、眉間のしわや指先の震えといった微細な変化は、敏感に感じ取ることができる。


「……セシルさま、少し休んだ方が……」

アリシアはそっと声をかける。技術的な指摘はできないが、心配や励ましはできる。


セシルは手を止め、振り返ると、少し微笑む。


「君がそう言うなら……ありがとう」

短い言葉だが、その微笑みには温かさと信頼が混ざっている。アリシアはその瞬間、胸の奥がじんわりと熱くなるのを感じた。


ただ隣に立っているだけで、誰かの心を支えられる──そんな感覚が、彼女には新鮮で、居心地のいいものだった。


しかしその距離を影から見つめる者がいた。


リオ・ヴァレンティア――幼馴染であり、アリシアを長く見守ってきた少年。

(……また近すぎる……)


彼の胸の奥で、ざわざわとした感情が渦巻く。嫉妬と、守りたいという気持ちと、焦り。


「仕事だと分かっている……でも、この距離は……」

影に潜むリオの視線は、二人の間に生まれる小さな温もりを追いかける。


セシルは再び魔法器具に手を伸ばすが、アリシアの存在がどこか落ち着きを与えているのも事実だ。


「……大丈夫。君が見てくれているだけで、気持ちが落ち着く」

彼の声には、技術ではなく、精神的な安らぎへの感謝が込められていた。


アリシアは自然と頬を染める。理解できる言葉ではないけれど、心で伝わってくるものがある。


リオはその微妙なやり取りを見守りながら、手を握りしめる。

(……俺は、何もできない……でも……)


心の中で決める。アリシアのそばにいるセシルは、仕事の一環であれ彼女にとって必要な存在だ。邪魔するわけにはいかない。

太陽が傾き、中庭に長い影を落とす。


セシルの光の結晶が静かに揺れ、アリシアは肩越しにそっと手を添える。


手が触れるわけではないが、その距離は、言葉にできない温もりを互いに伝えていた。


「ありがとう、アリシア。君の声があったから落ち着けた」

セシルの言葉に、アリシアは少しだけ胸を高鳴らせる。


研究の道具や魔法理論は理解できないけれど、彼の心の微細な揺れを読み取り、支えることができる自分――その確かさが、彼女に自信を与えていた。


リオは影から目をそらし、胸の奥に残るざわめきを感じる。


嫉妬のような感情もある。しかしそれ以上に、二人の間に生まれた信頼と絆の確かさを感じ、静かな安心を覚える。

(……この距離感なら、俺は見守れる……)


魔法の光が中庭を彩る中、三人の物語は静かに、しかし確実に動き始めていた。


仕事と感情、心と心――その間に生まれる温かい距離が、これからの絆を強くしていく予感に満ちていた。

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