第11章 月光の下の想い
城の廊下は、夜の静寂に包まれていた。
窓から差し込む月光が大理石の床を淡く照らし、長い影を伸ばす。
その静けさの中で、アリシア・ルミエールは軽やかに歩いていた。
誰もいないはずの廊下に、なぜか気配を感じる。
「……誰か、いるのかしら?」
アリシアは少し身をすくめるが、振り返る勇気は持てなかった。
その瞬間、優しく温かい声が心に届く。
「そんなに緊張しなくても大丈夫だ、アリシア」
第一王子、レオニス・アルディアの声だった。
その声には自然と安心感が宿り、聞くだけで心が穏やかになる。
背筋の伸びた姿、穏やかな笑み、そして気品を備えたその立ち居振る舞いは、まさに王道の王子そのものだった。
レオニスは目を細め、無邪気に笑うアリシアを見つめる。
無理に言葉にせずとも、その視線の優しさだけで、彼女は温かさを感じる。
「月夜に散歩……気持ちいいですね」
アリシアが微笑むと、レオニスも微かに肩を揺らして笑った。
その笑顔は、太陽のように明るく、でも柔らかく、誰も傷つけない光だった。
◆
廊下の陰に、ひっそりと影がひとつ。
カイル・アルディアは壁にもたれ、二人の様子を見守っていた。
胸の奥に小さな嫉妬の炎が揺れる。
兄の優しさがあまりに完璧で、眩しくて、胸がざわつくのを抑えられない。
(……兄上は、何でこんなに……)
カイルは拳を握り、気持ちを押し込める。
優しく、誰にでも安心感を与えるレオニス。
その隣で無邪気に笑うアリシア。
二人の間に漂う空気の温度に、自分だけが入り込む余地はないのだと、わかっている。
「……でも、兄上の幸せが最優先だ」
自分に言い聞かせるたび、胸の奥の痛みが増す。
けれど、それでも目の端で二人を追い続ける自分がいる。
嫉妬と、守りたい気持ち。
◆
廊下の空気はひんやりとしているが、三人の心はほんのり温かい。
アリシアの笑顔は周囲を柔らかく照らし、レオニスの穏やかな視線が安心感を与え、カイルはその光景を押し殺しながらも心で感じる。
「……俺は、兄上のために……」
カイルは壁に手をつき、静かに息をつく。
だが、胸の奥の小さな炎は、まだ消えてはいなかった。
嫉妬。興味。守りたい想い。
すべてが静かに、でも確実に心の中で揺れている。
月光の下、三者三様の想いが交錯する。
声に出さずとも、心の距離は確かに縮まっていることを、それぞれが感じていた。
カイルは気持ちを抑えられないかもしれない。




