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人間を止められるスイッチ

 ある日、インターホンが鳴った。今日届く荷物はなかったはずなので、疑問に思ったがとりあえず取りに行くことにした。ドアを開けると二十代後半くらいの男がドアの前に立ち、あくびをしていた。突然のことに彼は目を見開く――しかし、平然と言った。


「ここにサインお願いしゃーす」


 彼から受け取ったただの段ボール。けれども、コーティングされているのか、つるつるしていた。手で開けようとしても開きそうにない。しぶしぶカッターナイフを取り出して、段ボールに突き刺す。


――刃が折れた。バキッと音を鳴らして折れた。おちょくられているようで、無性にイライラしてくる。段ボールの癖になめるなよ。慎重にガムテープだけに突き刺し、やっと開封できた。


 中身はなんの変哲もないスイッチボタン――オンオフを切り替えられる奴、それとA4の紙が一枚入っていた。


:説明書

 本製品をご購入いただき、誠にありがとうございます。私たちホーミネス・プロイベ株式会社が十年の歳月をかけ、世界に一点しかない『人間を止めれるスイッチ』を開発しました。ご利用は計画的にお願いします。


 ゴミか……俺はゴミをつかまされたらしい。男子大学生の生活など知っても仕方がないのに、盗聴器でも仕掛けられているのだろうか。手のひらに収まる大きさのスイッチをつまんでみてみるが、ねじ穴や接合面も見当たらない。


 ユーチューブショートで、するっと入る金属は見たことがあるが、上下に揺らしても落ちないのだから、違うみたいだ。


 それにしても『人間を止められるスイッチ』か、面白そうだし押してみたい。本物だったら不安だが、全員止まってたら俺に責任はない――よっし。


――カチッ。カチ。

一瞬目が真っ白になって、口につけていたお茶を、こぼしてしまったみたいだ。これから友達が来るってのに、はぁ、くそダリい。応急措置に台拭きでシャツを拭いて洗濯籠に投げ込む。ちょうど着替え終わった時にチャイムが鳴った。


「お、服買ったのか? にしてもほっせーな、お前の体」


「買ったよ。本当はお前に見せる気なんてなかったけどな」


「初めては彼女に見せたいってか。彼女いない歴=年齢の俺にとっては夢もまた夢――庭園に咲く一凛の鼻のよう」


「鼻になってんぞ」


「おぬし、同じ発音で分かるわけなかろうに」


「ギクッ。ばれてしまったか、もはやこれまで」


俺たちにしか分からない時代劇ネタを挟みつつ、彼を部屋に上げた。一体何キロあるのか分からないが、少なくとも三桁近くはありそうだ。床が軋んで悲鳴を上げている。


 今日はゲームをするつもりだったが、一番旬のスイッチのことを話した。首と一体になっている頭を動かして、彼は頷いていた。話し終えた後、こいつの目は子犬のように輝き、まるで大型犬のようだ。


「それ押してもいいか」


「どうしよっかなー俺に届いたものだしなー」


「そこを何とか、何とかお願いしますよ、お代官様ー」


「一回だけ許してあげよう」


俺が許した瞬間、図体に似合わないほど素早く動き、手のひらにあったスイッチは取られていた。満面の笑みを浮かべて彼は押す。


――カチッ。      カチ。ドタ。


「おい、よっかかってくんじゃねえ。自分の体重分かってんだろ!」


「え、マジでごめん」


彼は体を上げ、やっと俺は呼吸ができるようになった。

どうやらこのスイッチは何もないらしい。二回も押したが、何かが変化しているわけでも、ものが移動したりするわけでもない。一瞬身構えたのが馬鹿みたいだ。

俺はスイッチを机に投げてゲームをすることにした。


 スイッチはきれいな弧を描いて空を舞う。一回、二回、三回転。スイッチ部分が下になって机に転がった。――カチっ、と音を鳴らしてスイッチがオンになる。

部屋の中では、太っちょとひょろがりがゲームに向かって歩き、前に倒れ込む。まったく受け身を取ろうとしない。あれは痛そうだ。


一方スイッチは机の上を滑って、端から落ちた。運がいいのかスイッチの部分が下になり、もう一度押される。――カチ。


「うわっ」


 つまずいたのか、体が前のめりになって倒れていた。受け身を取る暇もなく床に激突、鼻が折れてるんじゃないかと思うほど痛い。フローリングでつまずくとは年寄りみたいだ。


俺は体を上げようと足を前に出し、落ちてきたスイッチを踏んでしまった。スイッチの部分に当たって……カチ。

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