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真希とユイ

【テーマ:夕暮れと猫】


黒猫のユイと画家の真希。描けなくなった真希がユイのちょっとした仕草でスランプを抜け出した。ユイは真希にとっていい相棒だった。


*****************************

NolaノベルさんのBAYFM放送部が募集していた「猫にまつわるショートストーリー」で書いたSSです。

落選してたのでこちらにも載せておきますね!

 開け放たれた窓から、茜色の光が部屋に差し込んでいた。埃の粒子が舞う中、年季の入った木製の床に一匹の猫が伸びをしている。名前はユイ。毛並みは艶やかな黒で、夕暮れの光を吸い込んでその姿は輪郭を失いそうに見えた。


 ユイの飼い主は絵描きである真希。キャンバスに向かい筆を走らせていたが、今日の筆致はどこか鈍い。描きかけの絵は抽象的な夕焼けの風景。燃えるような赤と深い青が混じり合う混沌とした色彩だった。




「ねえ、ユイ。今日の夕焼けは何色だと思う?」




 筆を置き窓の外に目をやった。空は刻一刻と表情を変え、日中の鮮やかさを失いつつあった。ユイは目を細めゆっくりと尻尾を揺らしている。


 真希は最近スランプに陥っていた。描きたいものはあるのに、キャンバスに向かうと描けないのだ。絵の具はただの色の塊に見え意味をなさなかった。


 ふとユイが立ち上がり窓辺へと歩み寄る。器用に窓枠に飛び乗ると、景色に溶け込むようにじっと外を眺め始めた。真希もユイの隣に座り同じ方向を見る。沈みゆく太陽がビル群の隙間から最後の光を放っていた。空は様々な色が混じり、まるで巨大なパレットの上で絵の具を混ぜているようだ。その光景は真希の心に染みてゆっくりと思考を動かし始めた。




「そうか」




 真希は小さく呟いた。




「夕焼けは、混沌の中にこそ美しさがあるんだ」




 真希は立ち上がり再びキャンバスに向かう。今度は迷いがなかった。筆は滑らかに動き次々と色を重ねていく。燃えるような赤、深い青、その中に息づく微かな希望の光。それは真希が心の奥底で感じていた感情そのものだった。


 描き終えたとき部屋はすっかり夜の闇に包まれていた。ユイが窓辺から降り真希の足元に擦り寄る。真希は完成した絵を眺めユイの頭を撫でた。




「ありがとう、ユイ。おかげでまた描けるようになったよ」




 ユイは「ニャア」と小さく鳴き、真希の膝の上で丸くなった。窓の外には満月が静かに輝き、夜空を淡く照らしていた。




おわり

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