8話-1 騎士団のキャンプへ
林を出て真っ直ぐ騎士団の元へ向かうかと思ったら、この方角は納屋の方だ。気がついて足が止まるが、2人に置いていかれたくなくて仕方なく着いていく。
「納屋に戻るの?」
「騎士団のキャンプへ向かっとる。納屋は通り道じゃが、どうした。やはり先に戻って寝るか」
「絶対いや‥‥っ! わ、私もキャンプに行く」
「どうした。何かあったか」
「なにもない‥‥よ」
納屋でのことは思い出したくないから、口にもしたくない。魔人に言ったって今更何があるわけでもないし。変にいじられたくないし。
「リュカ。こやつを迎えに行った際何があった」
「んと、あの女の子達に意地悪されてた」
「ほう。達、とな。女子どもと仲良くできんかったか、チトセ」
魔人がにやぁりと意地悪く笑うので、私はそっぽを向いた。
やっぱりからかう。その事ではからかわれたくない。
私の様子を察したのかすぐにリュカが魔人の腕を引っ張って気を逸らしてくれる。
「違うよ。男の人だよ。チトセに意地悪してたのは、男の人! 僕がやっつけたの」
フォローになってない。言いたくなかったことを代わりに言ってくれただけだ。
もはやそれを聞くのも嫌で、私は2人と少し距離を取って歩いた。
ランタンがなくても、2人は暗い道をなんなく歩く。
「ふむ」
魔人が立ち止まって振り返る。リュカの話を聞いて私に何があったのかなんとなく察したようだ。
私を見る目が笑ったまま細められる。今度はからかう感じじゃないから、私も足を止めて魔人を見上げた。
「そうか。チトセよ、大事ないか」
「見た通り、平気だってば。‥‥もうその話、しないで」
酷いことにはならなかったけど、あんなことがあったってこと自体がトラウマになりそうだから、これ以上掘り返さないでほしい。
本当にこわかったし、気持ち悪かったから二度と思い出したくない。忘れたいのに、その話をされるたびに悔しさと情けなさと無力感に埋もれて、己の愚かさに苛まれて叫び出したくなる。
「ふむ。しかし、それはあれと関係あるかのぅ。その納屋の方に人が集まっとるようだぞ」
「え?」
「あ、本当だ。みんないるねぇ」
2人が見つめる先は納屋の方だ。そこには確かに沢山の火が集まっている場所があった。
「リュカよ。どういう風にやっつけたのだ。まさか殺してはおるまいな」
「眠らせただけだよ。女の子はサーカスに連れてったから、壊れちゃったかもしれないけど。あ、でも僕、呪術解いてない。まだ寝てるんだった」
「貴様の話はよく分からんが、若者が数人倒れておるということか。ならばそのせいだの。全くめんどうなことをしてくれたものだな。その眠りというのは解けるのか」
「うん。解く?」
「めんどうじゃから今はまだ眠らせておけ。いいか、それを村人の前でも騎士の奴らの前でも口に出すでないぞ」
「わかったぁ」
「チトセ、貴様も何か聞かれたらば知らんと言え。まぁ、わしがおって貴様に話を聞く者もおらんだろうが」
「うん」
様々な不安を感じながらも2人の後に続いてそのまま歩いて行く。村長の家の周辺には納屋の方まで、2人が言った通り沢山の人が集まって騒ぎになっていた。
集まっていたのは村人だけじゃなくて、中には甲冑みたいな、鎧を着た人もいる。あれはきっと騎士団の人だろう。
騒ぎを避けて真っすぐ騎士団の元へ行くかと思ったが、魔人は村長の方へ近づいて行った。村長は数人に囲まれて話をしているところで、私もリュカも魔人のあとを黙ってついていく。
2人がいれば大丈夫だと思ったけど、納屋が近づくと足がすくんだ。私の手をリュカがそっと握ってくれる。
「大丈夫? まだこわい?」
「うん、少し。ここから先は、行きたくないかも」
「じゃあここで待とうよ。おじいちゃんの声、ここからでも聞こえるよ」
「そうだね。‥‥ありがと、リュカ」
前を見ると、人だかりの中で姿勢よく立つ魔人の声がちょうど聞こえてきた。
「村長よ。どうした。なんの騒ぎじゃ」
「ああ! 男爵様! それが、うちの娘と村の男衆の様子がおかしく‥‥。夜になっても戻らないので探しに来ましたら、納屋の前で4人が倒れておりまして」
村長達は私たちには目もくれず魔人を囲んでああだこうだと報告しあう。
「ほう? 倒れたと。騎士団まで来ているとなると、山の魔女の仕業か?」
「かもしれない、という話ですが、確証は‥‥。それから魔女の事はどうかご内密に。魔女はこの村とほとんどかかわりがありませんので」
「そうじゃったか。で、他には」
「それからその‥‥男爵様のお連れのお二人の姿もなく」
「それは心配せんでよい。そこにおる」
一瞥くれると、村長は心底安堵したように深いため息をついた。騎士団が来ている手前、私たちに何かありでもしたらと思ったんだろうか。
あなたの娘さんとそのお友達には何かされそうになったけどね。
人を殺してもお咎めなしの村らしいのに、騎士団がいるからっていい子ぶって。白々しい村長にも、村の人たちに対してもかなり不信感が募る。
「で? 倒れた者共はどんな状態なのじゃ」
「それが‥‥。娘は意識はあるのですが正気を失っておりまして、とても話せる状態では‥‥。男衆は眠ったまま起きないのです。今、騎士団の方が見てくれたのですが、魔術の形跡はないということでした。命にも別状はなさそうだと」
「そうか。妙じゃが、ひとまずは様子を見ることじゃな。では、わしらはその騎士団の元へ行く途中じゃからのぅ。また何かあれば話せ」
「あ、はぁ」
魔人が村長達の集団から離れたその時、騎士の一人がこちらへやってきた。




