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7話-2 林の中で作戦会議

「それでどうするの? 騎士団を避けて行けたりしない? ダメもとで魔法陣を伯父さんが直せないかだけでも見に行こうよ。直せるならこっそり直して、さっさと行っちゃうってのはどうかな」

「無理じゃな。やつら、魔法陣のある場所付近で寝泊まりするつもりのようじゃからの。主の言うように魔法陣を探し、直し、知られず行けたとしてじゃ。行き先は同じ。こちらは女子供連れ、向こうは鍛えられた騎士どもじゃ。すぐ見つかるわい。雪崩でも起こせば多少は時間を稼げようが、貴様は嫌がるじゃろう。それに操れん自然を使うのは危険よな。できたとして、顔を知られとるのもなぁ」


 魔人は色々と考えてくれている。


「顔を知られてたって、国を出れば‥‥山脈を超えれば大丈夫なんじゃないの?」

「それは出くわさなければの話じゃ。国を超えて追うことも不可能ではないからな。まぁ、まだわしの姿しか見られとらん。もしかすると逃げ切れるやもしれんがな」

「そもそもなんで会っちゃったのよ、騎士団と」


 魔人がリュカを見るので、私も振り向く。魔人に睨まれ、肩をすくめているところを見るとどうもリュカが何かやらかしたようだ。

 私を見て小さく「ごめんなさい」と言う。


 例えやらかしてたとしても、リュカを責める気にはなれなかった。


 責めるより、どうするかを考えよう。


「待って。考えさせて」

「チトセ、わしに案がある。奴らを一人残さず喰らうという手じゃ。村の者も全てな。そうすればわしらを知る者はこの地におらんくなる。もしかするとそれも魔女のした事とされるやもしれんしのぅ。丁度いい」


 それを聞いて、セリナ達のこともあったからか一瞬いい考えだと思ってしまった。もちろんすぐに考え直す。人を殺すのはだめだ。


 それにヘリオンの一件に加えてここでのことも魔女に擦り付けるなんて、人としていかがなものだろうか。


 ヘリオンの街の事はタイミングよく起きた事件だし、あの場にいなかった人たちを勘違いさせるにはちょうどいいかもしれない。なんの罪もない街人の皆殺しなんて私たち以上に凶悪だと思うし、罪を擦りつけたとしても罪悪感はそこまで芽生えない。


 とはいえ、他人に罪を擦り付けたままそれを利用すると言う行為は褒められたものか。罪悪感がなければしていいのか。


 ダメに決まってる。


 そう言おうとしたけど、魔人は続ける。


「しかし貴様、手荒な真似は嫌だと昨夜も言うておったのぅ。気は変わらんか?」

「なんだ、わかってくれてるんじゃない。変わらないよ。できるなら、人を殺さず進みたい」

「ならば正体を知られる覚悟で奴らに近づき、利用するほかあるまい。貴様の望む正々堂々と言うやつじゃ」

「別にそこまで言ってないけど」

「言うてなくとも望みはしとるじゃろう。でなければもっと楽なのにのぅ」


 魔人はめんどうくさそうに眉を寄せた。楽な道を選ばない事の難しさを、私は魔人に押し付けている。それは分かっているつもりだ。

 それでも、そうしたい。


「なんとかなる?」

「するんじゃよ。じゃから、そうさな。わしは明日にでも魔法陣を直す手助けをするとしよう」


 正直なんの案も出せずにあれをしないで欲しいこれをしないで欲しいと言うだけ言うのは横暴だ。我儘ともいう。


 肉体労働は任されたはずなのに、今こうして動いてるのは私じゃない。実際考えて動いているのは魔人だし、他力本願で申し訳ない。

 何かできればと思うけど、今ここでできそうなことが思い浮かばなかった。


「なら今日はもう戻る?」

「ひとまず騎士団へと向かい、協力を受けると伝えて来よう。ついでにその修正が必要な魔法陣とやらを見せてもらうとするか。わしが見てわかるような代物なら、いちから描けるやもしれんからな。貴様らは先に戻っても良いぞ」


 頭に真っ暗な納屋が浮かぶ。


「い、一緒に行く!」

「僕も!」


 あんなことがあった場所に、魔人なしで帰れるわけがなかった。できることならもう二度と近づきたくない。


「あ、おじいちゃん、耳が戻ってるよ」


 リュカが指す先、魔人の耳がとがりはじめていた。口も裂けてきている。


「ああ、もうそんな時間か。くそぅ、いちいち魔法陣を書くというのもめんどうなものよ」

「僕がみんなにおじいちゃんが人間に見えるよう呪術をかけようか?」

「それには及ばん。そのように迂闊なことをしとるから貴様、あのように見つかりかけるんじゃぞ。反省せんか」

「ごめんなさい。でもね、知ってる人がいたかなって思って、だから」

「たわけ。貴様とてこの世界の人間ではあるまい。貴様の知る者がいるものか。次に騎士団を見てもできるだけ大人しゅうしとれ。いや、黙っておれ。奴らの前で呪術など使うなよ。いいな?」

「はぁい」


 リュカはしょんぼりと私の後ろに隠れて服の裾を握ってくる。


 知ってる人って、どんな人だったんだろう。魔人の言う通り本当にリュカの知ってる人な訳もないけれど。


「ああ、腹が減ったな。さて、騎士共が集まっとる麓へ赴く前に食っておくかの。主らはともかくとして、わしは魔石なぞ人前で喰えんからな」


 ついでに私とリュカもお腹を満たしておこうとバッグの中の食材を引っ張り出した。早めの夕飯にする。


 薄暗い林の中、ランタンを点けて3人座ってご飯を食べる。見上げると晴れた空が見えるけど、あまり光は差し込んでこない。


 小さくしぼんだ魔石袋を手渡すと、魔人は唸った。


「魔石も少ないからのぅ。この山でもダンジョンを見つけるか、魔物を狩るしかないがなぁ。そうなるとやはり騎士団が邪魔だの。ああ、あやつらを喰えるなら楽なんじゃがなぁ」

「冗談でもそれ言うのやめてよ。‥‥伯父さんが魔人だってバレたら、やっぱりだめなんだね」

「ヘリオンの事がなければまだよいがな。全く、鬱陶しいことこの上ない。さっさと山を越えたいもんじゃ」

「うん」


 山を越えたい。それは今の私の第一目標でもある。

 この先へ行ければ、何かもっと他の希望が見える気がする。何かが変わってくれる気がする。


 少しずつ暗くなっていく空を見ながら、私は漠然とそう考えていた。

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