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7話-1 林の中で作戦会議

 リュカの案内で入った村はずれの林の奥。そこに魔人はいた。

 楽しそうなにんまり顔を見ると安心するが、同時に腹も立つ。私がどんな目にあったのかなんて知りもしないんだと。


 今のところピンチの時に助けてくれるのは契約してる人外じゃなくて、リュカだ。湖の時もさっきも、いつもいつも肝心な時にいない。

 そう思ったものの、怒りはほんの一瞬で消えてった。


 今日のことは私の油断と警戒心のなさが招いた結果。浮かれて後先考えず、近づいてはいけない人たちに近づいた私の自業自得。

 私に人を見る目があれば起きなかった。


 経験不足が招いたトラブル。契約してるとはいえ、こんなことまで助けてなんて言えない気がした。


 言ったとして、きっと魔人は私をからかうだろう。自分の至らなさを自覚して自己嫌悪に陥っている上、さらに追い打ちをかけられたんじゃどうにかなってしまいそうだ。


 言いたくない。言われたくない。


 今日の事は全部後悔しかない。

 今までの生き方だったらあんな人たちには絶対に近寄らなかったのに、なんでか挑戦してしまった。してみたくなった。


 こんな危険な場所でそんな勇気出さなくたっていいのに、なんでか頑張ってしまった。

 魔人は強いし、リュカもいるからと、強気だったのかもしれない。私自身は何ひとつできないままなのに、調子に乗っていた。


 気持ちが苦い。

 これ以上自分を責めたくなくて、他の話題を探す。


 目の前の魔人は今日一日何をしていたんだっけ。そうだ、観測所だ。直ったからもう行けるって話だった。


「おじいちゃ‥‥伯父さん、こんなところにいたんだ。観測所が直ったって本当? もう行けるの?」

「直ったとは言っておらん。こやつめ、やはりちゃんと聞いておらんかったな」

「ひゃん、ごめんなさい」


 乱暴に撫でられているのに、リュカは笑顔を浮かべ嬉しそうに身をよじっている。


「なんだ、そうなんだ。でもじゃあなんで呼んだの?」

「騎士団の狙いがのぅ」

「やっぱり、私たちだったの?」


 ヘリオン城の一件で、やはり私たちは追われているのだろうか。しかし、魔人は「いや?」と否定した。


「なんだ、よかった‥‥。じゃあ、なに?」

「行き先が同じでのぅ。その上魔法陣修正の手伝いまですることになりそうでな」

「行先? ヘリオンの領地外ってこと?」

「違う。奴らの目的は怠惰の魔人なる、この山脈に住まう魔女だったのよ。わしらもそ奴に会いに行こうかと思うておったじゃろう。騎士団の奴らもそこに向かうと言っておってのぅ」


 山脈には怠惰の魔人が住んでいる、とノイは言っていた。セリナはこの山には魔女が住んでいると。

 それらは別人だと思っていたが、魔人が言うには同一人物らしい。


 というか、私は会いたかったけど、まさか魔人も同じことを考えていたなんて知らなかった。いつの間にそういうことになっていたんだろう。


「どうして怠惰のま‥‥魔女? に伯父さんが会いたがるのよ。私はその方が嬉しいけどさ」

「勇者の小僧が言っておったろう。そ奴が主と同じく召喚されてきたと。貴様が元の世界へ戻る手掛かりが何かあるかと思うての。それに長く生きとるならば天使について何か知っているやも知れん。山を下る術もな」

「おじいちゃん」


 ノイはこっそり教えてくれたけど、あの大きな耳にもしっかり聞こえていたらしい。

 それよりも、元の世界へ帰る方法についてちゃんと考えてくれていたなんて。契約してるんだから当たり前のはずなのに、嬉しい。


 魔人が「伯父じゃ」と言うので言い直す。


「けどそれの何が問題なの? 魔法陣、伯父さんならきっと簡単に直せるでしょ?」

「奴らも奴らで急いでおっての。ほぼ確実に騎士団と共に山を登ることになりそうじゃ。するとわしらは表向き観測所まで、という話をしておるから、魔女の住処まで行くとなると奴らに理由を説明せねばならんくなる。主の希望通り平和的に進むのならばな」

「あ‥‥。そっか」

「それから、魔法陣の修正が簡単じゃと? 無知め。わしは魔術はそう得意ではないからの。転移魔法など複雑なもんはわからん。それに長く奴らと居れば正体が暴かれる可能性もある。騎士団には魔力耐性が高いものがおるだろうからの。この変身魔術も見破られるかもしれん。正体がバレた時、貴様の望み通りになるかわからんぞ。奴らが剣を抜けばわしは奴らを喰うからな。覚悟せよ」


 今のところ、まだ魔人の姿は人に見えている。

 私はポケットの中を覗き込んだ。ポケットの中で魔法陣が白い光を放っている。


 魔人の正体がバレて、私たちの嘘もバレたら。魔人ですか嘘ですかどうぞお行きなさい、なんて事になるわけない。


 騎士団が私たちを生かしておけないと判断し、戦うことになってしまったら。魔人のいう通り、もはや衝突は免れない。私には双方を説得できる力もない。


 したくはないけど、戦う覚悟も決めておかなければならない。つまりは、魔人に殺人を許す覚悟。


 言葉は物騒でも、人外は穏やかな表情を浮かべている。人間に見えていても、その表情は4本腕の時と何も変わらない。


「ピンチじゃない」

「村の長を騙すためわしが使った名前も悪かったのぅ。ヘリオンにしょっちゅう出入りしておったヘイエム男爵の名を借りたんじゃが。ヘリオン僻地の領主でのぅ、顔は知られておらんかったが、それでもあの場にいた者の生き残りということになってしもうた」

「生き残り? そっか、そのヘイエム男爵って人もあの時お城にいたんだ?」

「おったぞ。しかし話は城だけではなくてなぁ」

「どういうこと?」

「騎士団の話じゃと、どうもわしらが出立した後、ヘリオンは何者かに襲われて城も街もすべて破壊されたというのよ。街人は全員皆殺しじゃと。騎士団はそれが魔女の仕業と睨んでおるようじゃ。じゃからこうしてここに来た」

「襲われた? すべて破壊‥‥って」


 おかげでわしらがしたことも知られずにすんでいるがなと魔人はからから笑った。全く笑えない。


「の、ノイさんとキャットさんは!?」


 2人はあの後一旦ギルドへ戻ると話していたから、もしかしたら騒動に巻き込まれている可能性がある。別れてから少なくとも一週間は経っているけど、街はいつ襲われたんだろう?


 2人は無事だろうか‥‥。


「冒険者のことなど知るものか。だが奴らなら無事じゃろうて。獣は知らんが、小僧は勇者じゃぞ。簡単には死なんだろうよ」


 そうであってほしい。私を助けて、心配してくれた2人がどうか無事でありますように。


 祈りながら、気持ちを切り替える。

 今は先に進まなければ。魔女が帰る方法を知っているかもしれないのだから。

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