5話-1※ 不快感の答え合わせ
暴力的、心理的恐怖の描写が含まれます。
男性に囲まれることに恐怖を感じられる方は5話-1、5話-2を飛ばしてお進みください。
直接的な描写、発禁はもちろんありません。
が、その分心理描写が多くなっています。
規約的にアウトと思われた場合はお手数ですがお知らせいただけますと幸いです。
大きな音で目が覚める。窓から見える空は明るい。
また音が聞こえてきた。それが納屋の戸を叩く音だと気が付いて、飛び起きる。
「やだっ。寝ちゃってた!」
ノックはいつからだろう。どのくらい寝ていたかはわからないけど、ノックの激しさ的に相当待たせてしまったはずだ。
私は急いで納屋の一階に降りて扉を開けた。
「ごめん! セリナちゃん! 待たせた‥‥って、ぽ、ポルフェン、さん?」
扉の先に立っている男を見上げて言葉を失う。その横にはラダーとユニアンもいて、扉の前がぎゅうぎゅう詰めだ。
まさか彼らまで来るとは思っていなかったから、反応に困る。
「あれ? やっぱいんじゃん。てか寝起き? 頭寝癖ついてるよ」
「寝起きもかわいー」
ユニアンが手を伸ばして来るが、思わず避けてしまう。
その一瞬、彼らの隙間からセリナが見えた。納屋から少し離れたところに立っていて、あたりを見回すようにキョロキョロしている。
「あ、セリナちゃ」
声をかけようとしたらポルフェンがずいとでてきて視界を塞ぐ。
「チトセ今一人?」
「え‥‥っと、はい。伯父さんもリュカもいませんが」
答えると3人が顔を見合わせ笑みを浮かべた。それを見てなぜか腰や肩に回された手つきを思い出し、ぞくりとする。
あんまり友達の友達に対してこういうことを思うのも失礼だと思うけど、本当にこの3人は好きになれないかもしれない。
「じゃ、おじゃましまーす」
「あ、ちょっと」
彼らの隙間を縫って納屋から出ようとしたけど、肩を押された。3人が強引に納屋に入ってくる。
凄く嫌な雰囲気を感じていたけど、嫌なことは考えたくなかったから5人でお昼を食べるのかなと考えるよう務めた。
希望を胸に、3人の向こう側、どんどん遠くなるセリナへと視線を送る。けれど彼女は入ってこないようで、その場から一歩も動かない。
嫌な予感と不安がどんどんと増していく。
「セリナちゃん!」
叫ぶと、ようやく彼女と目が合った。
あれ、セリナは手になにも持っていない。
「セリナちゃん‥‥?」
彼女は、笑みを浮かべていた。その笑みには見覚えがあった。
学校で何度も見た大嫌いな笑み。私を貶める時に彼女たちがする嘲笑。
どうして忘れていたんだろう。
セリナから感じた違和感は、これまでさんざん感じてきたことがあるものだったのに。
私は目の前の誰かを押しやって納屋の扉へ向かった。もうここが安全じゃないとさっきの笑みを見てわかったから。
明るい場所へ出ないと。ここから離れないと。彼らから逃げないと。
だけど手首を掴まれてしまった。
振り返ると3人がじっと私を見下ろしている。その視線は優越感に染まっていた。弱い生き物を前にしたサディスティックな視線。
対等な人間に向ける目には見えない。
すぐに掴まれた腕を振り払おうとしたが、痛いくらい掴まれた腕は振り上げることすらできなかった。
「せ、セリナちゃん!」
もう無駄だと分かっている。彼女が原因なのだから。
分かっているのに、それでもそこにいるのが彼女だけだったから、叫んだ。
同時に背後から大きな声が響く。
「セリナ! そこで見張ってろよ」
嫌な予感が的中して、心臓が痛いくらい鳴り始めた。恐怖ですくむ足に力を入れる。逃げようと踏ん張ったけど、捕まれた腕がほどけなくて走れない。
セリナが叫んだ。
「わかってるって! だからはやくやっちゃいなよ!」
今、なんて? 彼女はなんて言ったの?
聞き逃したわけじゃない。頭が理解を拒んだ。けど、わかってしまった。
わかってしまったら、もうだめだった。そこまできていた絶望が一気に押し寄せてくる。
納屋の中が一気に真っ暗になるような気がした。
「は、放して!」
外が眩しいほど明るい。私もそっちへ行きたい。
なのに、納屋の扉は閉ざされた。手首を強く引っ張られる。
「やめてっ!」
戸の閉まった納屋の中は気のせいではなく真っ暗だった。
いつの間にか一階の窓はすべて閉められていて、壁板の隙間から細々入る光だけが周囲を照らしている。それでもなんとか人影は見えた。
「あ、‥‥あの、さ。お昼ご飯食べるんじゃないの? 皆で」
そんなわけないのは分かってる。けどこれから起こることを嘘だと思いたくて、冗談にしたくて、そうならないだろうかと願った。
目の前の男が噴き出した。明るいときに見た位置からして、声からして、ポルフェンだ。
彼が笑い出すと残りの2人も笑う。
「さっすがお嬢様! ここまできてまだそんなん言うんだ?」
「マジに箱入りってやつ? だって見ろってこの腕。マジで村の女と違ってタコもマメもねぇし。白すぎんだろ。死体みてぇな白さ」
「ばーか。暗すぎて見えねぇよ」
「さっき見たろ」
私の片手を誰かがぐっと掴む。
「きゃっ!」
腕を引くけどびくともしない。
「聞いたか? きゃっ!だよ。叫び声までお嬢様! きゃっ! きゃっ! きゃっ!」
声の位置からして、腕を掴んでいるのはラダーだ。人の腕を痛いくらい握りしめながら、ふざけるように何度も私の悲鳴を真似て繰り返す。
「やめろよきめぇ。で、誰にする?」
「もちろん俺だろ」
「いや、俺だね。ポルフェンはこの前ダッチネんとこの女の時譲ったろ」
「じゃあ間を取って、俺」
3人は互いに「ねぇわー!」と笑いあう。
もうここまできたら自意識過剰なんてぬるい言い訳で説明ができない。確実に彼らがしようとしていることは想像できている。
騙されたんだ、嵌められたんだと確信したけどもう遅かった。疑いたくない、信じたいと願ったけど叶わなかった。どうして、なんでと思ったけど理由なんて関係ない。
これからされることを想像して身震いする。
断固として拒否する。そんなことされたくない。したくない。嫌だ!
2人に捕まれた腕が痛い。後ずさると、人にぶつかった。ユニアンだ。
腕は両方とも2人に掴まれていて、背後にはユニアン。
逃げられない。
逃げられないことが悔しかった。
こわくて足がすくんで、私に勇気がないから逃げられないんじゃない。3人に寄ってたかって捕まって、逃げ道を塞がれているから逃げられない。その事実が腹立たしくて、悔しい。
私に彼らを押しやれるだけの力があればこんな気持ちにならないで済むのに。私がこんな事をされない性別だったらこんなことにならないで済むのに。
私が無力な存在じゃなければ。力さえあれば。
この強い気持ち悪さ、この気持ちが私を助けるための力になってくれたらいいのに。




