6話-2 夢の国と案内役
とりあえず、本物のミズキママが見つかっても、私が殺されるようなことになりませんように。
考え事をしていると長い廊下も階段も知らないうちに通り過ぎてしまう。それでもまだ歩くみたい。なんて広いお城なんだろう。
どこまでが不思議空間でどこまでが本来の大きさなのか見当もつかない。
「ねぇ、リュカ。結構歩いたけど、あとどれくらいなの?」
「わかんない。けど、もう一階につくよ。お部屋は地下だって‥‥。あとどのくらいだろ?」
それを聞いて少しほっとする。起きてからもう2時間は歩いた気がするんだもん。同じようなとこをぐるぐるしてさ。地下室がゴールなら、一階につけばもうあと少しじゃない?
階段を降り、次の廊下はカーペットの質感が変わった。
カーペットは床にびっしり敷かれていなくて、廊下の真ん中にだけひかれている。壁の装飾もちょっと変わって、絵画じゃなくて動物の剥製になった。鹿の首が飾ってある。
窓の外も相変わらず壁に囲まれてるけど、リュカのいう通り地面が見える。
「それにしても、ほんとに誰にも会わないね。メイドさんだって一度もすれ違わなかった」
「うん」
「ねぇ、お城の中ってこんなに静かなものなのかなぁ。衛兵ってお城の中を見まわったりしないの?」
「ワールドエンドが誰にも会わないように案内してくれてるんだよ。それに長い廊下を歩いてきたでしょ? 普通の泥棒さんじゃあの廊下からは出られないから、きっと衛兵は少なくってもいいんだと思う」
なるほどなぁ、と思う。
ワールドエンドさん、安全なナビをありがとう。
「ちなみに、どこに向かってるの?」
「儀式をしてた部屋」
「えっ」
みんなを探していたはずが、いつの間にか人を殺していた部屋に向かっていたのかとぎょっとする。
「‥‥大丈夫なの? そんなところ行って」
「けど、そこを通らないとみんながつかまってる牢屋に行けないみたい」
そういうことか。
そっか、そうだよね。怪しい儀式なんて地上でできないだろうし、その生贄にされる人たちだってまさかさっき通り過ぎたようなホテル並みの部屋に寝泊まりさせてもらえるわけもない。
儀式ですぐに連れていけるように、儀式の部屋に近いところ‥‥牢屋に監禁されているんだ。
牢屋‥‥か。見たことないけど、檻みたいなやつかな。地下で檻で怪しい部屋の近くだなんて、可哀想に。
ミズキママをはやく出してあげなきゃね。同級生や他の乗客と一緒に。
「それなら‥‥仕方ないか」
「大丈夫。今、その部屋にもそこまでにも誰もいないって」
ワールドエンドさん情報、ありがたいしとても便利だ。というか、それならいっそのことワールドエンドさんが来てくれたら良かったのでは?
私はリュカの背中をじっと見つめてそう考えた。すると、タイミングよくリュカが振り返る。
「チトセ、僕じゃなくてワールドエンドの方が頼りになるって思ってるでしょ」
「いやいや、そんなことは‥‥」
心を読まれた気がして一応否定はしたけれど、事実なので否定しきれなかったかもしれない。リュカはむくれて「僕だって頼りになるんだって、ちゃんと証明するからね」なんて言う。
拗ねられても困るので、私はリュカをじっと見つめて真剣に言った。
「もちろん。頼りにしてるよ」
「ほんとう?」
人形が首を傾げて私の顔を覗き込んでくる。こわい。
「ほ、本当にゃよ!」
「えへ‥‥」
人形の圧に負けて噛んだけど、単純なリュカはそれでも良いらしく嬉しそうに納得してくれた。
それから私たちはワールドエンドさんの言う通り、指定された道を行った。ワールドエンドさんのおかげなのか、夢の都合なのか、本当に誰にも会わず驚くほどスムーズに進めた。
なんというか、あっさりしすぎていて山のない夢だなと思うものの、現実には山も谷もない方がいい。というか、見つかったらそこでゲームオーバーなんだからこれでいいはずなのに、私は一体何を考えているんだろう?
もしかして、もうすぐゴールについて夢が覚めそうだからちょっと残念に思ってるのかも? こんなにファンタジーな夢ってなかなかみないしね。少し楽しんでいるのかもしれない。
夢から覚めたら、魔法や呪術の出てくる映画とか観てみようかな。小説や漫画でもいいよね。
‥‥私、怖いと思ってたけどこの夢を忘れたくないな。だってなんだかんだリュカは可愛いし、冒険みたいで面白いと思うもの。
なんて考えながら歩いていると、いつのまにか大きなホールへやってきていた。2階への階段の下に大きな入り口が開いていて、中は真っ暗。奥からは生臭い風がふいてきていた。正直地獄の釜が開いているようにしか見えないし、お化け屋敷に入るよりずっと怖い雰囲気を感じる。
「‥‥この先?」
「うん」
前言撤回。やっぱり早く目覚めたいかも。