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3話-2 村の案内へ

 協会を出て、一旦村長の家の前を通り過ぎる。もう魔人もリュカも出かけたんだろうと思うけど、気になってじっと見てしまった。


「どうしたの? 忘れ物?」

「ううん。違うの」

「ふぅん」


 それっきり、無言。


 セリナは私とおしゃべりがしたいって言っていた割には村の説明以外でほとんど話しかけてこない。それだって本当に観光案内程度で、会話がもっているとは思えない。

 昨日会ったばかりだし、緊張してるのかなぁと思うけど口調はため口でいいと判断されている。


 この子の距離感とか、本心がよくわからなくなってきた。


 それとも私が無口すぎるのかな。だって何を話したらいいのか分からないんだもの。さっきみたいに変なことを聞いて、引かれるのも嫌だしさ。


 リュカを連れて来れれば、きっと賑やかでもっと楽しくできたんだろうな。


 こんな私とせっかく友達になろうとしてくれたって言うのに、私がこんなんじゃだめだよね。きっとセリナは今つまらないって思ってるだろうな。

 今日明日には出ていく場所だけど、友達になってくれた手前、少しでも良い時間を過ごしてもらいたい気持ちが湧く。


 というか、この微妙な沈黙がつらくて必死に話題を探した。


「えっとさ、魔女ってなんなの?」

「うそでしょ? 魔女もわからないの?」


 口調にどこか馬鹿にしたような響きを感じ、委縮しかける。


「や、魔女は知ってるけど‥‥。魔女はもういないの?」

「まだいるよ? 見たことはないけど、ほら、あの山のてっぺんに住んでるって。だから、観測所を使う時は気を付けた方がいいよ。もし魔女に会うと氷漬けにされるって聞くから」

「氷漬けに‥‥? なった人がいるの?」

「まさか。この村の人は皆山になんか登らないよ。魔女もいるし魔物も出るし。観測所の入り口だってあそこには誰も近づかないよ。山に登ったって雪以外何もないしね。でも、魔女かぁ」


 セリナが言うには、昔この村が人の住める環境として完成した後、魔女は山の上に行ってしまってそれっきり降りてこなくなったという。いつの間にかハーフドワーフもいなくなってしまったらしい。


 山には魔女がかけた迷いの魔術がかかっているし、フロストドラゴンというのが出るので誰も登ったりはしないそうだ。


 なら、魔女はもうこの村とは無縁の存在かというとそうでもないらしい。魔女のおかげでこの村は魔獣にも魔物にも脅かされることなく平和に暮らせているんだとか。


 なのに銅像一つ立てないのはやっぱり変じゃないかと思うけど、もう聞かないことにする。


 私は見上げきれないくらい高い山を見上げた。やっぱりここを通っていくなんて普通に考えて無謀すぎる。今日帰ったらもう一度魔人に掛け合ってみよう。


 それにしても。

 怠惰の魔人が住んでいると言われていたり、魔女が住んでいたり、険しい場所って言うのは伝説が多いみたいだ。


「セリナちゃんは魔人って聞いたことある?」

「魔人? 聞いたことくらいはある‥‥かな。でもそれがどうしたの」

「あの山に魔人がいるって聞いたことがあって」


 すると、セリナは立ち止まり首を傾げた。


「んーん。知らないよ。あの山には魔女がいるとしか聞いたことない」

「そうなの?」

「うん。それ、誰から聞いたの?」

「旅人、から」

「騙されたんだよ、それ」


 そう言ってあははと笑った。


 ノイが嘘をついていたとは思えないけれど、ここにずっと住んでいるセリナが言うならきっと魔人はいないんだろう。


 怠惰の魔人はいないが、代わりに魔女がいる。それはそれで警戒するに越したことはないけれど、話を聞くに村の守り神みたいな立場らしいし、危険ではなさそう。


 でも魔女っていうと怖いイメージしかないな。黒い帽子に大きなツボに、大きな鼻の老婆。なんてのはおとぎ話すぎるだろうか。

 けどハーフドワーフがあんなんだったしなぁ。


 実際、どんな魔女なんだろう。ちょっと興味ある。


「あ、ねぇ。あの人たちがさっき話してた子たち。一緒に行っていいんだよね?」

「え? あ、うん」


 そう言ってセリナは道の端に立っている巨木の影に向かって手を振った。


 今日は私とセリナの2人だと思っていたけど、実は他の子も一緒に回る予定になっていたらしい。先ほど、教会に行く時にそう伝えられた。


 女の子はあんまりいないと言っていたけど、どんな子たちなんだろう? というより、私とも仲良くしてくれるだろうか。

 女の子の集団なんて慣れてなさ過ぎて不安しかない。飛行機で座席を譲った時のことを思い出しながら、セリナのあとについて行く。


 巨木の影で話すセリナに近づいて、私は足を止めた。


「あ、チトセ! 紹介するね? この人はポルフェン。そっちがラダーで、後ろがユニアン。みんな私の友達なの」

「おっ! 君がうわさの。よろしくね~」

「なかなか可愛いじゃん。結構タイプかも」

「ラダー、そんなんよせよ。引いてるって」


 彼らの姿を見て、私はショックを受けた。なぜなら紹介された3人は全員、年の離れた男性だったから。しかも笑顔も態度も仕草も全部、軽薄そう。


 年齢はノイよりは上。魔人よりは下くらい。だけどノイのような親近感はまるでない。なんだかノリがチャラくてこわそうに見える。


「チトセ? もしかして嫌だった?」

「え? あ、ううん! 違うの! てっきり女の子だと思ってたから」


 つい咄嗟にうそをついた。


 こういうノリの男の人って苦手で、正直言って今すぐ帰りたいくらいだけど、せっかくできた友達が紹介してくれてるんだもん。


 そうだよ、こういう場面で逃げてばかりじゃだめなんだ。苦手な人とでも接していかないと、私はいつまで経っても独りぼっちのまんま。成長だってしないよね。


 いつか元の世界に戻れた時、私は生まれ変わったように社交的な人間になりたい。そうしたら、きっと。


 頭を振る。

 今は目の前の4人に集中!


 セリナは「そっか、言ってなかったねごめんねー」と軽い調子で笑う。彼らと合流したからか、セリナの雰囲気はさらにくだけている。


「おいおい、セリナにまだ女の友達なんていたのかよ? どこに隠してたんだよ」

「ポルフェンうっさい! だからチトセを紹介してるんでしょ」


 セリナが男の人を肘でつく。その勢いが容赦なくて、初対面の時のぽわぽわしたイメージが今完全に崩れた。あれが完璧な演技だったと知ってショックを受ける。騙された気さえする。


 まぁ、そんなものは教会の時すでに予感していたんだけど。

 でも今のは‥‥うん。あれはきっと、あんなことができるくらい2人は仲が良いんだってことなんだろう。


 ポルフェンと呼ばれた彼は肘打ちされた箇所を抑え、セリナを睨みつつ私には笑顔を向けてきた。


「セリナが暴力女だからさぁ、君みたいにおしとやかっぽい子すごく新鮮だわ。貴族なんだっけ? 箱入りってやつ?」

「いつまでいるの? 今夜一緒に星見に行かない?」

「ユニアン抜け駆けやめろって。でもマジで肌とか超白いよな。セリナがババアに見えるわ」

「ちょっとラダー?」

「ねぇ、いくつ?」


 彼らは次々話しかけてきて、いつの間にか囲まれてしまった。段々と質問が赤裸々になっていくのを、なんとか苦笑いでやりすごす。


 頑張って仲良くなろうと思ったばかりだけど、そんな気持ちすぐに小さくなってった。


 だって、普段人と話さないどころか友達すらいないのに、いきなりこんな人たちとどう接したらいいって言うの!?


 まさか私も肘でどつけばいいのだろうか。出会ったばかりでそんなことできるわけもない。


 苦笑いをしながらやっぱりリュカに来てもらえばよかったなと思ったけれど、一日はまだはじまったばかりだった。

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