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3話-1 村の案内へ

 さて翌日。朝食の入っていたバスケットを返したあと、セリナに連れられ村の案内とやらに出発した。

 納屋の中でじっと私を見つめるリュカに苦笑いで手を振るが、手を振り返してくれない。恨みがましい目でこっちを見ている、ように見える。


 帰ったらお土産話でもしてあげよう。


 村長の家を出てまず向かったのが村の教会。

 教会と言っても小さな小屋の入り口に十字架がかかっているだけの簡素な建物だけど。


 礼拝がない時以外は中に入れないらしく、外観だけを見て回る。別段面白いものじゃないけど、セリナが隣にいる緊張からか退屈は感じなかった。


 協会の裏に銅像が一つ置いてあって、見てくれがおかしかったからちょっと気になりその前で立ち止まる。


 像は不気味な見た目をしている。

 人型なんだけど体系が不格好。妙に胴体が丸くて、足が短いせいか腕が足首くらいまであって、顔はお饅頭みたいに大きいのに目は小さい。


 日本画とかに出てくる餓鬼をデフォルメして現代アートっぽくした感じ。


「この像、気になりますか? ちょっと怖いですよね。子供の時、ここすごく怖くて近づけなかったんです」

「わかります。これ、なんの像なんですか? 協会にあるってことは、神様?」


 するとセリナは「こんな神様絶対いないです」と笑った。


「むかーし、この村ができた時に魔女と一緒にいたハーフドワーフの子供の像なんですって。何もなかったこの土地を魔女と一緒に耕して人が住めるようにしたり‥‥、とにかくこの村のために働いてくれたんだって聞いてます。そういう意味では神様かもしれないですね。怖いですけど」


 魔女、なんているんだ。まぁ魔人がいるんだから魔女がいてもなにもおかしいことはない。というか、魔術が使える女の人は全員魔女なんじゃ。


 それよりも。


「ハーフドワーフ? これが?」


 ドワーフって言ったら、白雪姫に出てくる小人がドワーフじゃなかったっけ。物語的にもっとこうメルヘンチックな見た目をしていると思っていたけど、この像からはイメージとかけ離れたものを感じる。


 そもそも実物のドワーフなんて見たことないから、もしかしたら本当はこういう見た目だって可能性も十分あるけどね。にしても、だとしたら夢がなさすぎる。


「なんか、おばけみたい」


 後ろでセリナがくすりと笑う。腹の底が知れない笑い方だった。


「チトセってそんなことも知らないのね? 貴族の人なのにおかしいの」


 あ、貴族って家族の人に聞いたのかな。


 じゃなくて。


 笑われたのと、突然のため口にちょっとドキッとする。見ればさっきまでの慎ましいほほ笑みはもうなく、そこにあるのは年相応の少女然とした素直な笑顔だった。こっちが素なんだろうか。


 そのままあはは、と笑う。


 セリナの態度はそれはそれで嫌な気はしない。けど、何かが気になった。

 言葉遣いもだけど、なんだか態度自体が一転して距離がいきなり縮んだような気がして。体の距離じゃなくて、心の距離が。それもセリナの方から一方的に近づいてきた感じ。


 距離が縮むのは仲良くなれたってことだろうから嬉しいことのはずなのに、妙な違和感を感じるのはなんでだろう。突然すぎて私がまだ追いつけてないだけなのかな。


「ごめん、悪く思わないで。私、チトセのこと誤解してたみたい。貴族の人って言うから、もっと近寄りがたい感じなのかなって思ってたけど、なんだかそんなことなかったね。ねぇ、このままの感じでいいかな。こっちの方が素なんだ」

「うん、いいよ。私も敬語って慣れてないから、その方が楽かも」


 やっぱりそっか、それが素なんだ。だとしたら大分演技派だなぁ、と昨夜を思い出しこわくなる。女子ってこういうの本当器用にやるからさ。

 私ができないだけなんだろうけど。


 本当はまだセリナとは敬語の距離感でいたかったんだけど、多分これが普通の女の子の距離の縮め方なんだろうな。今はそれに倣おう。


 それに、くすくす笑いはあんまり気持ちがいいものじゃない。さっきみたいに普通に笑ってくれた方がずっといい。


 だってくすくすって笑うあの笑い方は仲間の証なんだもん。誰かを笑って親睦を深め合う時のさ。

 昨日もだったけど、セリナといると年が近いからか苦手だったクラスメイト達と似ているからか、なんだか嫌なことばかり考えてしまう。


 私、こういうところがあるんだよね。せっかく楽しく村を案内してくれてるのに。つまんない顔、してないよね。


 けどセリナは私のうかない顔なんて見ていないのか、銅像の説明を続ける。私もその間に笑顔を作る。


「ハーフドワーフっていうのは人間とドワーフの間に生まれた人の事だよ。半分ドワーフだから、人間より寿命が長かったんだって。ここにいた子は200歳以上だったらしいよ。子供にしか見えないのにね」


 笑いながら「っていうか人間にも見えないけど」と小さく言った気がする。口は悪いけど、それには同意。だってこの像を見る限り本当におばけとか、妖怪にしか見えないもの。


「200歳って、すごいね」

「だよね。それだけ生きてるからこんな風にやばい見た目になるんだろうね」


 さっきからセリナの外見への突っ込みがきつい気がする。なんというか、悪意を感じる。話題を変えたくて、なにかないかと頭をひねった。


「そういえば、魔女の銅像はないの?」

「魔女の? どうして?」


 会話のネタ探しを誤ったのか、心の底から意味が分からないというように聞き返されて逆に困ってしまう。


「だってハーフドワーフは魔女と一緒にいたんでしょ?」

「うん」

「だから」

「だから?」


 伝わらない。


 なんていうか、それなら片方だけじゃなくて2人の銅像があってしかるべきじゃないかってことが言いたかったんだけど、私の伝え方ではこれが限界みたいだ。


 もしかしたら魔女はハーフドワーフと比べるとそんなに村とかかわりがなかったのかもしれない。

 少なくともセリナは違和感を感じていないんだ。ならこれ以上聞かなくていい。変なことを言う奴だって、思われたくないし。


「ううん。なんでもない。ごめん、変なこと聞いて」

「そう? じゃあ、次の場所案内するね」

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