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生贄少女の異世界探索紀行 〜友達ゼロの私にも親友ができました〜  作者: 清水谷
二章・旅のはじまり、冒険とダンジョン
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2-10-15話 はじめてのダンジョン(ミミックじゃない、宝箱)

 着替え用にメイド服を何枚ももらってきておいて本当に良かった。靴はさすがにないけれど、どこかで手に入れるまでの辛抱だ。


 戻ると、リュカももう着替え終わっている。そういえばリュカはその服をどこから出したんだろう。四次元の服の中だろうか。


 そんなことより魔人だ。


 そう思って視線を向けると、魔人はなんと全裸になっていた。残っていた服もなくなっている。

 なのに至って普通に立っているものだから思わず叫びそうになった。


 服の一枚も身に着けていないのに、堂々と。この魔人こそ恥じらいというものがないのだろうか。


 私はできるだけ全裸の男を視界に入れないようにしてバッグから毛布を取り出すと、あっちを向いて差し出した。


「おじいちゃん、とりあえずこれを着ててよ‥‥。腰に巻くだけでもいいからさ。投げるよ、いい?」

「でかい。重たい。嫌じゃ」


 予想もしなかった返答に目を見張る。もちろん魔人が視界に入らないようにしながら。


 視界に入れないように片手で男の全身を隠し、配慮しながらそっちを見る。


 しながら、なんで私が露出魔に配慮しないといけないんだろうか? と疑問を抱いた。


 まぁ、私が見たくないんだからこの配慮は私のためなんだけど。


「全裸よりマシでしょぉ!?」

「重たいくらいなら全裸のがマシじゃ」

「うそぉ!」


 信じられない。本当に信じられないこの人外。


 じゃあ一体どうするつもりなんだろう。ずっと全裸で一緒にいる気なのだろうか。

 ダンジョンを出た後も?


 そんなの‥‥。


「絶っ対にいや!! 着てちょうだい!!」

「嫌じゃ」


 頑なな魔人に段々と腹が立ってきた。ずかずか歩み寄る。

 もはや何が目に入っても気にしていられなかった。


 これから先、どこかで服を手に入れるまで、隣に露出狂がいるなんてそんなのまっぴらごめんだ。


「お願いだから!! 着て!! 私を助けると思って、着て!!」

「はぁ‥‥」


 そう叫ぶとようやく、しぶしぶといった感じで毛布を受け取る。なんとか腰から下を隠してもらい、私はようやくため息をついた。


 そこでようやく魔人の腕に気づいた。毛布を普通に受け取ったよね、と。私たちを受け止めもしたし。


 見れば、取れた腕はまるで何事もなかったかのように胴体にくっついている。それだけじゃなくて、貫かれていた体にも傷は残っていない。


「なんじゃ今度は人の体をじろじろと。物好きめ」

「ば‥‥! 違う! 腕よ! 腕!」

「腕ぇ?」


 なんで伝わらないんだろう。腕、取れてたじゃない。


「おじいちゃんの腕、大丈夫だったのね、って。取れてたしさ。体もさ、あんなに刺さってたのに」

「阿呆。あの程度すぐ治るわ。だのに貴様ときたら喚き騒ぎおってからに。挙句の果てには捕まりおって。そのせいで使いとうなかった魔法を使うことになったのじゃぞ。これは高くつくからの。覚悟しておけ」


 やはり、魔人は相当怒っているようだ。


 でも仕方ないじゃん。あんな風になった人をみたら、誰だってパニックになるでしょ、普通。自分も殺されかけてたわけだしさ。


 言い訳のようにそう考えながら、同時に反省もする。


 魔人にはあの状態でもちゃんと勝算があったんだと。だとしたらやっぱり私のしたことはただの邪魔で、足手まといで‥‥。


 だから使わざるを得なくなった魔法。それってあの黒いやつだよね。


「魔法、ってあれだよね。黒い、穴みたいな‥‥」

「僕も知りたい!」


 するといつの間に隣にいたのか、リュカが魔人に向かって行く。


「ねぇ、ねぇおじいちゃんのあれってなに? 呪術? 奈落みたいに真っ黒だったねぇ?」


 なぜだか興奮気味だ。戦い好き(観戦)のリュカにとってはあの謎の黒い穴が気になるのだろうか。


「じゃから魔法じゃ。あれはわしの口の中よ。胃に直結しとる。奈落なぞではないわ。大口を開けることになるでのぅ、魔力消費が過ぎるんじゃ。あれしきの魔物相手に使いとうなかったが、主らがああなってはな」


 そう言ってリュカの頭を少し強めにばふばふ叩いたが、リュカは楽しそうに悲鳴をあげ喜んでいる。


 やっぱり、あの黒い穴は魔力が相当必要になるやつだった。それを使わざるを得なくしたのはどう考えても私のせいだ。


「ごめんなさい‥‥」


 謝ると、魔人は私の頭にも手を乗せてくる。けど、リュカみたいに叩くわけじゃない。ただ乗せるだけ。


「貴様に心配されるほどわしは弱くも脆くもないわ。いい加減覚えろ、チトセよ」


 そうは言っても、貫かれて腕が落ちて、魔人の攻撃はまともに効いてるようには見えなくて、こわかったし。いつもの魔法も使わなかったし、なんだか変だと思って、不安になってしまったんだ。


 だから仕方ない、とはもう言わないけど。


 再度くっついた腕を見てみる。どこにも怪我はなくて、きれいなものだった。


「そうだよね、おじいちゃんは凄く強いもん。取れた腕がこんな風にくっついちゃうくらいだもんね。‥‥本当にごめんなさい」

「くっついたのではなく生えたというた方が正しいんじゃが、まぁ分かればよい」


 え、生えてきた?


「腕‥‥生えるの? それも魔法?」

「魔法‥‥に近いか。言うなれば自己再生じゃの。腕も足も首ですら、魔力さえあれば再生できるぞ。首なぞ落とせば戻すのに魔力を大分使うがな。それでも悪食なる舌を使うよりはずっと魔力消費を抑えられよう」


 顔を上げ魔人の体を再度見る。まるでトカゲのしっぽのよう、と思ったが言わない。


 首すら、と見つめると魔人がにやぁとした。


「試しにこの首落として見せようか。さすれば貴様も真に理解出来ような。わしがそう簡単に死なんと」

「い、いいっ!」


 首をぶんぶんと振る私を見て、魔人は愉快そうに笑った。


「しかし、あのスライム。それなりに腹は膨れたが魔法を使ったせいでまるで足りん。やはり悪食なる舌は使わん方がいいのぅ。チトセ、ドラゴンの魔石を出せ。魔力が足りん」

「うん‥‥」


 バッグをごそごそしていると、いつの間に移動したのか、部屋の奥でリュカが歓喜の声を上げた。


「すごぉい! 二人ともこっちこっち! はやくこっちに来て見てよ! 宝箱が沢山あるよ!」

「おお、ダンジョンを攻略したからのぅ。チトセよ見てこい。貴様の求めていた金銀財宝じゃぞ」


 にんまり笑う魔人はもう呆れても怒ってもいない様だった。ほっとして、私は頷く。


 手招くリュカの元へ走っていくと、そこには小さな小部屋があった。中は松明で明るく、部屋の中央には大きな三つの宝箱が置いてある。


「すごいよ! 宝箱がいち、にい‥‥三個も! はやく開けようよ!」


 はしゃぐリュカを横目に、私は舌切り雀を思い出していた。大きなつづらと小さなつづらがあって、どちらか一方をお土産に貰えるってやつ。


 大きい方を選ぶと欲深さから自滅して、小さい方を選ぶと慎ましさが評価されて大金持ちになる‥‥んじゃなかったっけ。花咲じいさんとかもそんなお話だったような。


 とにかくこういう時って欲を出したらいけないのよね。

 でも宝箱はどれも同じ大きさだし、なら、このうちの一個だけ選んで開ける感じだろうか。


 アラジンみたいに、持って帰れるのは一つだけ、みたいな。

 そうかもしれない。もしくは、二つ目以降は全部ミミックだったりさ。

 いやむしろ、このうちの一つが当たりで残り二つがミミックで、最初から一か八かみたいなやつかも‥‥。


 宝箱を疑っていると、魔人に背を押される。


「なにをしておる? さっさと開ければよかろう」

「でも、ミミックかもって」

「ダンジョンボスを倒したのじゃぞ。もはやミミックもおらん」

「そうなの‥‥?」

「そうじゃ。あとはこの宝箱を開け、財宝をいただけば終わりよ。このダンジョンはまたレベルを下げて地中で眠るじゃろうな」


 そんな、宝くじのロトシックスみたいな感じなの?


 けど‥‥普通に開けていいのか。なら、どれを開けようかな。


 よくよく吟味していると、魔人がまた首を傾げた。


「なにをしておる?」

「あ、いやその。どれを開けようかなって」


 すると、何を言ってるんだこいつは、という顔をされる。


「まさか‥‥全部、開けていいの?」

「さっきからなにを言うとる? そういうものじゃろう」

「それって‥‥、すごい」


 そうなんだ。全部開けていいものなんだ。


 なら、ならさ。一人一個ずつ開けるのはどうだろうか?

 せっかく宝箱が三つあるんだし。その方がきっと楽しいし。そうだそうしよう。


「ねぇせっかくだし皆で一個ずつ開けようよ。リュカ、好きなの選んで?」

「いいのぉ!? じゃあ僕これ!」

「じゃあ、私これ!」


 つまらなさそうに私たちを見る魔人にも手招きすると、ため息をつきながらも残りの宝箱に手を掛けてくれた。


「ダンジョンのお宝って、なんだろう?」


 やっぱり金貨とか、宝石とか、光物?

 それともすんごい豪華なドレスとか、装飾がすごい食器とか?


 もしかしたらなんでも斬れる剣とか、なんでも防げる盾とかかも。

 ‥‥それはあんまり要らないけど。


 あ、魔法のロッドとか!


 なんて、こういうことを考えている時が一番楽しいかもしれない。


 色んな想像をしていると、リュカが宝箱に寄りかかりながら私の顔を覗き込んできた。


「チトセの欲しいものが入ってるといいねぇ。ねぇ、チトセの欲しいものってなに?」

「私の、欲しいもの‥‥。うーん」


 そう言われると、なんだろう。

 さっき思い浮かべたものはどれも想像すればわくわくはするけど、本当にほしいってわけじゃない。


 でもそうだなぁ、改めて何が欲しいか。


 クラスとか社会で浮いたりしない人間性。

 ‥‥なんてね。そんなもの宝箱に入ってるわけもないし、入ってたってこんなことで手に入れる物じゃない。


 現実的なことを考えれば、それこそ私が元の世界に戻れる手がかりとか、その魔法が書かれた本とか、むしろその方法自体かな。けどさすがにそれがここから出てくるわけがない。

 ‥‥よね?


 そもそも、この宝箱ってどのくらいの物が入ってるんだろう。アイテムのスケール的な意味で。

 世界を揺るがすようなアイテムとかが出てきたりもするのかな。だとしたら私が帰る方法とかも入ってそうだけど。


「ねぇ、ここから私が帰る方法とか出てきたりしないかな?」

「だといいがな。そんなものが出てくるとしたら余程力のあるダンジョンだろうが、‥‥まずありえん。貴様の求めるところの送喚などそれこそ賢者でもない限り知らんだろうからな」

「そうだろうとは思った」

「世界との紐付けもない者の送喚がどれほど複雑か、城で説明したろうに。わかっとらんな」

「わかんないよ、そんなの」

「こんな宝箱なぞに期待しすぎるでない。もっと楽に考えよ」


 そうね、魔人の言う通り。もっと現実寄りで考えよう。

 となると、私が欲しいものって、なんだろう‥‥。


「欲しいもの、かぁ‥‥。それなら普通に靴が欲しいんだけど、でもここまで頑張ったのに、ただの靴が入っててもそれはそれで嫌かなぁ。なんか、私が思いつかないくらい凄いものが入っていたら嬉しいかな。リュカは?」

「え、僕?」


 リュカは自分が聞かれるとは思っていなかったようで、驚いた顔をした。じっと私を見たまま頭を捻る。魔人にも視線をうつすが、また私を見て、答えはなかなか出てこない。


 私も相当悩んだけど、そもそもリュカって欲がなさそうだからなぁ。まず金銀財宝とは言わなそう。


 リュカが欲しいものってなんだろう。

 キルターンと仲直りできるアイテムとか?


「お主ら、いい加減にせよ。さっさと開けろ。何が入っていて欲しいかなど考えたところで中身は変わらんぞ。それに、馬が心配なんじゃなかったのか?」

「あ‥‥。そ、そうだね。じゃあ、開けようか」

「うん!」


 いざ! 宝箱!

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