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生贄少女の異世界探索紀行 〜友達ゼロの私にも親友ができました〜  作者: 清水谷
二章・旅のはじまり、冒険とダンジョン
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2-10-11話 はじめてのダンジョン

 しかし、突然に魔石は爆ぜてしまう。


「おお、失敗か。まぁ初めてでこれだけできればよい方じゃろう。さて、わしのを寄こせ」


 魔人が描いた魔法陣に魔石をのせると、五秒もしないうちに燃え上がり、真っ赤な炎が出る。


 魔法陣を書いた紙はすぐに燃え尽きたが、紙を置いていたドラゴンの皮の方に魔法陣がうつって光っていた。火はそこから立ち上っている。不思議なことに、火はあるのに煙が出ていない。


「うわぁ、すごい。これが成功? キャンプファイヤーみたい」

「魔石が燃え尽きるまでは燃えるぞ。さぁ短剣を貸せ」


 魔人は短剣を火であぶり、ドラゴンの肉を切り始める。切った肉を短剣の先に突き刺して、火に近づけた。


「焼いて食べたかったの?」


 でもその焼き方では少しずつしか焼けないし、魔人のいつもの喰いっぷりからすると全然足りなくないだろうか。

 どうせならあの塊ごと焼いてしまえばいいのに。


 というか、お腹を壊すとか言っていたのに、血まみれになりながら生の肉を食べていたよね。


「阿保抜かせ。これは貴様らの分じゃ」


 聞き間違いかと思って聞き流してしまったが、隣でリュカが「わぁ! 僕ドラゴン食べたことない!」と叫ぶので聞き間違いじゃなかったことが判明した。


「え!?」


 驚愕している私を無視して、魔人は涎を垂らしながら肉の状態を見ている。

 やがて肉は焼けたらしく、ナイフから抜き取ってバッグから取り出したフォークに突き刺した。それをリュカに手渡す。


 リュカは肉を手に目をきらきらさせる。


「ねぇチトセ、僕先に食べていい?」

「ど‥‥どうぞ」

「わーい!」


 警戒も何もなくドラゴンの肉を頬張ったリュカは、きらきらさせていた目を更に輝かせた。


「美味しい! これ、すっごく美味しい! チトセも食べてみてよ!」

「う、‥‥うん」


 焼けた肉を同じように手渡され、私は目の前の肉をじっと見つめた。


 見た目的にはステーキにしか見えないんだけど、いかんせん食べたことがないものなので口に入れていいか悩む。

 家では牛も豚も羊も鳥も、出先ではワニもくじらも食べたことがあるものの、ドラゴンなんて当たり前だが食べたことがない。


「おじいちゃん、毒とかない‥‥?」

「あったら喰わせんわ。いいから食してみよ。ドラゴンは美味いぞ。それにダンジョンの魔物は食い物が厳選されておって雑味もなく喰いやすいのよ。ここでその味を知ったらば、地上のドラゴンが喰えなくなるかもしれんほどにな」

「大丈夫だよチトセ。凄く美味しいよ。干し肉よりずっと!」

「うん‥‥」


 確かに、いい匂いはするのよね。牛でも豚でもないけど、なんだか焼肉屋さんの前の匂いに近いというか。香ばしくて、食欲をそそる匂い。


 じっと肉を見つめていると、ぐうとお腹が鳴った。


 ここ二日はおなか一杯食べた記憶がないし、朝食べた干し肉一つじゃ全然足りていない。お腹がすいてないわけじゃなかった。


「うぅ!」


 覚悟を決めて、私は肉にかじりついた。


「うん、ん‥‥」


 食感は牛肉って感じで噛み応えがある。けど高級な和牛みたいに簡単に嚙み切れるし、噛み応えがあるのにどんどん溶けていく‥‥。


 もぐもぐと咀嚼を続ける。


「‥‥‥‥」


 肉汁が、すっごい。

 一口齧っただけなのにお肉のほとんどが水分なんじゃないかってくらい口の中一杯に肉から溢れた液体が広がっていく。旨味もちゃんとある。


 独特の味だけど、臭みもなくてとろける肉質。脂がのっていて、空腹の胃に染み渡る美味しさ‥‥。


 あれ? これ、普通にとっても美味しいんじゃ‥‥。


「! ‥‥おいひい!」

「でしょう? すっごく美味しいよね!」


 気が付いてしまえばもうその美味しさの虜になるしかなくて、私とリュカは交互に短剣を使って無我夢中で肉を頬張り続けた。


 その様子を見て、魔人もどこか満足そうにしている。


「そうじゃろう? ドラゴンは美味いのよ。ではの。二人でこの肉を好きなだけ食うといい。足りんかったら取りに来い」


 やがてお腹がいっぱいになった頃、改めて見てみると肉の塊はまだほとんど残っていた。

 大分食べたと思ったんだけど、まぁ、通常もお肉なんてそう何百グラムも食べないし。ハンバーグ屋でも250グラムとライスでお腹いっぱいになるから、たくさん食べていたとしても400グラムくらいだろうか。


 男の子だしリュカはもっと食べるかと思ったけど、私と同じくらいしか食べていないように思える。


「リュカ、もっと食べてもいいんだよ」

「僕もうお腹いっぱい。チトセ食べなよ」

「私ももう満足。残りは、おじいちゃんに持って行こうか」


 魔人の方を見る。肉を焼いている間もたまにドラゴンを見ていたが、その巨体はあまり減っているようには見えなかった。

 魔人は山のようにある蜘蛛も一瞬で食べてしまうのに、ドラゴンには魔法を使わないのだろうか。


「おじいちゃん、まだ食べてるの? うげ」


 ドラゴンの頭を横切ると、そこはまさに解体現場だった。

 こっち側が風下だったおかげで私たちの焼肉会場までこの臭いはこなかったが、ここまで近づくとそのえげつない臭気に嫌でも気づく。

 お城の地下の悪臭に近いような生臭さ。とても長時間いられそうにない。


 魔人は四本の腕でドラゴンの臓物だの肉だの骨だのを掴み、すごい勢いで食べていた。そのスピードは凄まじかったが、肉の量が多くとても追いついていない。


 血まみれの魔人が振り返ると、思わずひぃと声が漏れた。


「なんじゃ。もう食い終えたのか? まだ食うか」

「ううん。もうお腹いっぱいで。お肉まだ残ってるけど、持ってこようか」

「ならば干し肉を作れ。この先もこうやって食える魔物がいるかは分からん。貴様らの食事に時間を取るのもめんどうじゃからな。もっと持っていくがいい。短剣をよこせ」


 言いながらも固そうな骨をばりばりと食べ、中に入っていたゼリーのような物体をずるんと飲み下す。そしてまた骨をばりむしゃ食べる。


 内臓から遠い部位の肉をもう一塊リュカに持たせ、魔人は続きを食べ始めた。


「干し肉ったって、作り方知らないよ。普通はどうするの? 塩とかまぶして干す感じ?」

「紙とペンを持ってこい。魔法陣で風を起こし、当てればよい。塩につければ味もよくなる、保存もきくじゃろうが、持っておらんだろう。熱風で乾かせばよい」


 魔人はさらさらと魔法陣を書いて寄こす。

 今度は火に加えて風もあるので、図形は更に難解で細かく、文字の量と密度が上がっていた。


「いいか。風は緑の魔石じゃぞ。それから炙るでの。赤い魔石も一緒に並べよ。肉は糸を通し吊って干せ」


 焼肉会場へ戻り指示通り魔石を置くと、魔法陣からは熱風が吹き荒れた。風は真上、空に向かって凄い勢いで吹いていて、その辺の草をちぎって投げ入れるとあっというまに天高く上り見えなくなった。


 リュカと一緒に薄く切った肉に糸を通したものを魔法陣の上にかざすと、まるで凧揚げのような具合に肉が青空に伸びてった。


「なんだか楽しいね、これ」

「そう、かな? ‥‥そうかも?」


 私にはシュールな光景にしか思えないが、隣で笑うリュカが楽しめているようで何よりだ。


 青空に舞う肉の景色を眺め、ドラゴンが解体される音を聞きながら、私たちは食後のひと時をのんびり過ごした。

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