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生贄少女の異世界探索紀行 〜友達ゼロの私にも親友ができました〜  作者: 清水谷
二章・旅のはじまり、冒険とダンジョン
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2-10-5話 はじめてのダンジョン(はじめての宝箱)

 休憩中も、目の前には虫の死体。けど、もはやそんなことどうだっていい。

 見慣れてしまって、恐怖も嫌悪感も消えた。あるのは疲労感だけ。


「お腹すいたね。なにか残ってないかな」


 食べ物がないことなんかわかりきっていたが、それでも空腹からバックを漁る。水筒があるだけで、食べ物はまったくない。


「はぁ、魔石の袋交換しようか。リュカのもいっぱいでしょ」

「うん‥‥。すごいよね、この数。僕なんだか頭がくらくらしてきちゃった」

「私もだよ。疲れたよね‥‥」


 通路は果てしない。サソリの死体も果てしない。この三倍やっても終わりそうにない。


 さすがの魔人も魔石採掘に参加しているが、この調子ではダンジョンを出る前に私たちが疲労と空腹で死ぬかもしれない。


「せめて、食べ物があればなぁ‥‥」


 交換するための空の袋を取り出してみると、なんだかずっしりとしていた。中身を確認していない袋はないと思っていたけど、見落としていたらしい。


「これ、空の袋かと思ったら中になにか入ってるみたい」

「なんだろう?」

「あっ、干し肉だ‥‥」


 袋の中には、キャットがあの晩くれたのと同じ干し肉が何枚か入っていた。リュカと顔を見合わせる。


「お、おいしい‥‥」

「うん。おいしいね」


 固いし塩がきついし、肉自体にちょっと癖があるけど、朝からほとんど何も食べていないからか十分美味しく感じる。


 一枚じゃ満腹には程遠いが、空腹より断然いい。肉の塩味が疲れた体に染み渡り、水を飲んでしばらく休むとなんとか頑張れそうな気がしてきた。


「よし、サソリを一気に片付けよう! それではやくここを出よう!」

「うん! 僕もここ、早く出たい。頑張ろうね」


 食べ物を口にできて元気が出てきた私たちは、もう2時間かけて残るサソリをすべて解体した。

 魔人が解体後のサソリの死体を食べきって、ようやく一区切りつく。


 もうこの階層には敵はいないと二人が言うので、すぐさまその場に座り込んだ。安心してぼうっとする。


 これから階下への階段を見つけなくてはならないが、それはもう少し休んでからでもいいだろう。


 何十、下手したら百匹じゃきかない数のサソリを解体して、もう全身へとへと。


「疲れて、死にそう‥‥」


 解体の疲労のせいで眠たくて、目を閉じてうとうととしているとリュカの声が聞こえてくる。


 リュカは私よりずっと体力があるみたいで、解体をこなしたあとも元気だった。むしろ解体後の方が元気に見えたくらい。


 そんな彼は階段を探しつつ、色んな部屋を見て回っていたはずだ。どうしたのだろうか。


「チトセぇー! こっち来てよー!」


 久々に聞いた喜びの声に目を開ける。声の方を見ると、リュカが私に向かって手を振っていた。そこまでそう距離もないので立ち上がる。


「よっこいしょっと‥‥」


 言ってから、止まる。


 私、今年寄り臭くなかった? 私、女子高生だよね? よっこいしょはないでしょ、と思いながらあたりを見渡すが魔人もいない。誰にも聞こえていないようなのでノーカンとする。


 疲れると、きっと言っちゃうんだと思う。これから先気を付けよう‥‥。


 リュカは私が近づくとはやくはやく、と言いながら近くの小部屋へ入っていった。覗いてみると、そこには綺麗な装飾のついた宝箱が一つ。


 見た瞬間、私は疲れを忘れた。リュカもそんな私の反応を嬉しそうに見守っている。


「チトセ、これ‥‥! 宝箱!」

「すごい‥‥! 本物だ‥‥!」


 宝箱なんてはじめて見たからか、疲れからか、妙なハイテンションになった私とリュカはその場で飛び跳ねてはしゃいだ。


 が、疲れたのですぐやめる。


「ねぇ、開けてみようよ!」


 リュカはまだハイテンションに目を輝かせている。かくゆう私も開けてみたくて仕方ない。


「開けていいんだよね? そうだよね」

「主らやめておけ」


 わくわくと宝箱に手をかけようとした時、水を差したのは魔人だった。


「なんでよ。金銀財宝なんじゃないの?」

「そうじゃがの。宝箱はハズレがあるからのぅ」

「はずれ?」

「ミミックと呼ばれとる魔物じゃ」

「ミミック?」


 聞いたこともない。リュカを見るが、リュカも首を傾げている。


「おじいちゃん、ミミックって何? はずれだとなにが入ってるの?」

「阿呆。ミミックがハズレなんじゃ。ミミックというのは箱に擬態する魔物の総称じゃ。それがミミックかはわからんが、ミミックであれば開けた瞬間食われるぞ。まず上半身は食いちぎられような」


 それを聞いて、リュカが真っ青になる。


「‥‥チトセ、危ないよ」

「うん」


 私たちは宝箱から一歩、また一歩と離れた。


 けれど、惜しい。


「でも、もったいないよね。せっかくこんな大変な思いしてここまできたのにさ」

「なんじゃ。宝が欲しいのか」

「そうじゃないけど‥‥。でも、見てみたいじゃない。当たりなら金銀財宝がこの中に詰まってるんでしょ? 金貨とか宝石とかが山ほどさ。そんなの見てみたいに決まってるじゃん。ねぇリュカ」

「うん! それなら僕も見てみたい!」


 別に、お金が欲しいとか宝石が欲しいわけじゃない。あったところで今のところ使い道がないし。

 なんというか、ロマン? みたいなものを感じたっていうのかな。


 ロマン‥‥憧れ‥‥なんていうのかな。上手く言えないけど、とにかく心躍るものがあるというか。


 というより、こんな辛い思いしてるんだから見たことがないくらい凄いものを見て感動するくらいの体験ができてもいいと思う。

 あんな虫の解体だなんて夢のかけらもないグロテスクな体験だけじゃなく。


「そうか」


 そう言うと魔人はあっさり宝箱を開けた。

 瞬間、宝箱が魔人に襲い掛かってきて、その素早さには悲鳴を上げる間もなかった。


「ああ、ミミックじゃ」


 大きく口を開けた宝箱を、魔人はサソリと同じように一瞬で消す。ばらばらと宝箱の木くずが舞うのを見て、私の心臓は今更ばくばくと鳴りはじめた。


「ふむ。しかしミミックは魔力が高くてよい」


 にんまり笑って魔人は部屋を出ていくが、私たちは呆然として立ち尽くし、動けなかった。


 木くずが散らかる床をみてどちらともなく肩を落とす。


「はぁ」

「なぁんだ」


 ダンジョンって、なんだか疲ればかりが溜まる場所だ。

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