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生贄少女の異世界探索紀行 〜友達ゼロの私にも親友ができました〜  作者: 清水谷
二章・旅のはじまり、冒険とダンジョン
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2-10-3話 はじめてのダンジョン

 このダンジョンにはカエルとか蛇とか、爬虫類しかいないのだろうか?


 ながぁい大きな蛇をバリバリ食べる魔人を見ながら、私はうんざりしていた。


「ふむ。そろそろ魔力も戻ってきたのぅ。魔石を貯めておくか‥‥」

「魔石?」

「魔獣から採れるのじゃ。あれは肉と違って腐らんからのぅ。旅の間の非常食にちょうどいい」

「ああ、そっか」


 魔石についてはノイも言っていたなと思い出す。魔獣とかの中にあるって。


 魔人は森の中でダンジョンへ潜った時、魔石を袋一杯に手に入れていた。数日のうちはそれで食いつないでいたが、なければまたリュカを振り回すほど暴れ、果ては馬車や私たちを食べてしまうかもしれない。


 ぜひここでも沢山手に入れてもらいたい。


「その鞄の中に剣や、刃物はあるか?」

「えっと、あったと思う」


 魔石採取に使うんだろうかと取り出して、魔人に差し出す。すると魔人は受け取らずににんまり笑った。


「ではの。貴様らには魔石を取り出してもらうとするかのぅ」

「おじいちゃん! 後ろ!」


 リュカが叫ぶと同時に背後から飛びついてきた巨大な蛇。それを振り向きもせず引っ掴む魔人の腕。


 体に巻き付く巨大な蛇を、絞められる前に顎を上下に引き裂いて殺し、死体をぶら下げたまま人外は笑んだ。


「小さいのぅ。ま、手習いには丁度よかろう」


 そう言って死体を私たちの方へ放って寄こすので思わず叫ぶ。

 筋肉か神経の反応かはわからないが、蛇はまだびくんびくんと動いていて、とても触れられない。


「牙には触れるでないぞ。毒があるからのぅ。そんな毒でも貴様らが触れればひとたまりもない」


 それを聞いてぎょっとする。


 スズメバチも、死体の針に触れちゃだめっていうもんね、と思い出すがそれとはきっと比べ物にならないほどの毒だろう。


「そ、そんなもの投げないでよ!」

「さぁ、その短剣で蛇の心臓を探せ。そこに魔石がある」


 突然そう言われても、びくびくと跳ねる死体を前にして唖然とするほかない。


「できるわけないでしょ‥‥」


 まさか本気で私にこの死体を解剖して、魔石を取り出せっていうのだろうか?


 しかし魔人はじっと私を見下ろして黙っている。


 ああ、そう言ってるんだ、この人外は‥‥。


 魔石がなければ困ることはわかる。けれど解剖なんてしたくない。できるわけもない。


 心臓の位置がわからないとか、気持ちが悪いとか、毒があって危ないとか色々理由はあるけれど、そんな理由を全部ひっくるめて単純に、やりたくない。


 魔人を睨んでじっとしていると、諦めたのかやがて視線がリュカに移る。


「リュカ、お主はどうじゃ」

「ひ‥‥。僕も、嫌だ‥‥」

「はぁ‥‥。貴様らは、まったく‥‥」


 魔人は蛇を拾い上げると尻尾からバリバリ食べはじめた。


「おじいちゃんが食べながら取り出せばいいでしょ」

「そうなんじゃが、ついつい魔石も何もかも食ってしまうでのぅ。魔石のみ取り出す、これがなかなか難しいのよ」


 確かに、魔人は骨も内臓も構わず、なんでもがぶがぶと勢いよく食べる。

 特に蛇は形態からして食べやすいのか、まるで水でも飲むみたいにするする喉の奥へ入っていく。


 前に見た魔人の口の中が歯だらけだったのを思い出した。

 自分の舌すら嚙みちぎりそうなくらい沢山の歯があって、その歯すべてで咀嚼するからああやって大きなものもあっという間になくなるのだろう。


 その食べっぷりを見つめていると、確かに魔石を気にする余裕はなさそうに思えた。というか、そんなことをいちいち気にしていたら、一体の魔獣を食べるのにもっとゆっくり時間を掛けなきゃいけなくなるんじゃないだろうか。


 そうなると、私たちが困る。だって私たちにはもう食べるものがないんだし、そうでなくてもこんな場所さっさと出たいのだから。


 段々と覚悟をしなければならないのでは、という気持ちになってくる。


 結局のところ、魔人の空腹を紛らわせるだけの魔石がなければ困るのは私なのだ。

 今日のように魔人に空腹で暴れられてはどうにもならないし、確か魔人との契約的にもそういった感じの内容があった気がする。


 やるしか、ないのか‥‥。


 短剣をぎゅっと握る。


「や、やる‥‥」

「ほう!」

「けど、毒はこわいから、心臓だけちょうだい」

「うぅむ。食ってしまわんようにせねば‥‥」


 しかし、蛇の心臓は位置が分かりにくかったらしく気が付いた時には食べてしまっていたらしい。

 ほっとしつつ、失敗したような気持ちにもなる。


 が、蛇はその後次々湧いて来た。

 小さいもの(といっても普通サイズ)がうじゃっと来たときはさすがに魔人の腕だけではすべてを捌ききれず、私とリュカの方まで迫ってきたので悲鳴を上げたが、魔力の戻っていた魔人が魔法で一掃してくれて事なきを得た。


 しかし小さな個体だったためにそのほとんどが全身を一瞬で食われ消えたし、残っていたものもサイズ的に魔石が入っていなかった。

 ある程度大きな魔石を採るには、魔獣もある程度の大きさがなければならないらしい。


 カエルも出てきたが、カエルはあまり魔石が出ないらしく心臓を開いてもなにもなかった。私がカエルの粘液と血まみれになっただけ。


 粘液に意気消沈している私を見兼ね、リュカも採掘に手を上げてくれる。


「僕もやるよ‥‥」


 震えながらそう言うリュカにも短剣を持たせてみたが、ぶるぶる震えていてなかなか上手くいかず、結局私がやることになった。


「ひぃ、ふぅ、‥‥五個。頑張って、カエルにも蛇にも触ったのに、五個だけ‥‥」

「それでは全く足りんな。しかもどれも魔力が小さい。まぁ、まだ一階層じゃ。下に降りればもっと良い魔石が出る獲物もおるじゃろて」


 言われた事実に愕然とする。


 そうか、ここまだ一階層なんだ。


 どのくらい時間が経ったのかわからないけれど、もうずいぶん長いことここにいるような気がする。


 そのあと少ししてから二階層へ続く階段を見つけた。まだ先は長いとため息をつきながら下りる。


「三階くらいまでなんだっけ」

「いいや。もっとあるじゃろうな。出口を消すなどレベルの低いダンジョンにはできん芸当じゃからなぁ」

「そうなんだ。‥‥ああ、お風呂入りたい。手が血でべたべたする。体もなんか液体でべたつく‥‥」

「泣き言ばかり言うでないわ。地上で待っておればいいものを、付いて来たのは主らじゃぞ」

「それはそうだけど‥‥」


 置いてかれて、危険な目にあったり、心細い思いをするのが嫌とは言わない。からかわれるのがオチだ。


 自分からついて行きたいと言ったリュカも次々魔獣に襲われてすっかりテンションが下がりきって、後ろで黙っている。


「さ、二階層はまた趣が違うのぅ」

「本当だ。なんだかお城の壁の中みたい。これって人が作ったんじゃないの?」


 二階層は石壁に囲まれた通路だった。壁にはろうそくがついていて、一階層より明るく進みやすそうに見える。


 あきらかに人工物と思われるろうそくや燭台なんかがあるのに、これらはダンジョンが生成する自然発生物らしい。不思議だ。


「ここならば宝箱などもあるかもしれんな」

「宝箱?」

「中には金銀財宝、魔導書、珍しい薬、スクロールに武器や武具なんかが入っとる。魔力の篭ったものか、込められたものじゃと食いでがあっていいのだがなぁ」


 魔人は食べることしか頭にないみたいだけど、宝箱と聞くとなんだかわくわくしてきた。


「リュカ、宝箱だって。ちょっと見てみたいね」

「うん‥‥」


 さっきからリュカの口数がめっきり少ないのが気になり、彼の顔を覗き込んだ。すると困ったように眉を八の字にして、私の服をぎゅうと握ってくる。


「こわい?」

「うん‥‥。僕、来なきゃよかった‥‥」


 怯えきった様子を見ると、可哀そうになる。

 リュカのためにもはやくここを出なければ。


 でもまだ二階だ。

 一階層で時間を気にしてから、どれくらい時間が経ったのか考えるようにしていたが、当たり前ながら正確な数字はわからない。ただ、体感で言えば最低でも二時間以上は経っていると思った。


 とすると、出られるまであとどれくらいだろう。三階以上あるというなら、ざっくり6時間はかかるんじゃないか。


 それだけ時間がかかると予想すると、森の中でいくら待っても魔人が帰ってこなかったことにも納得がいった。


 時間がかかるなら最初から話してくれればいいものを、大切なことは言ってくれないし。自分が置いて行かないと言ったくせに。それも忘れて置いて行こうとするし。もやっとするなぁ、もう。


 そんなことを考えていたら、魔人がくるりと振り返った。その顔はにんまりと笑んでいたから、まさか心を読まれたのかなと思ったが、そうじゃない。

 魔人は私ではなくリュカを見ていた。

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