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生贄少女の異世界探索紀行 〜友達ゼロの私にも親友ができました〜  作者: 清水谷
二章・旅のはじまり、冒険とダンジョン
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2-9-2話 幕間/リュカの困惑

「起こすでない」


 チトセを起こそうと思って手を伸ばすと、おじいちゃんに遮られた。


 おじいちゃんの手は僕とチトセを離れさす。


「眠れんのならこっちへ来い」

「うん‥‥」


 おじいちゃんの隣に座る。でもやっぱり落ち着かなくてチトセを見ると、大きな手が僕のほっぺたを掴んで捻る。


 おじいちゃんのぎざぎざの歯が見える。


「眠る者をそうじっと見つめてやるな。どうしても気になるならば、明日起きてからにせよ」


 言われて思い出した。


 そうだ。あんまりじっと見つめちゃダメなんだ

 お嬢様にもエルダーにも言われたことがある。


 チトセは言わないからいいと思ってた。やっぱり、だめなのかな。

 それもチトセには今聞いちゃだめだから、聞けない。

 でも、やっぱり聞きたい。


 代わりにおじいちゃんは教えてくれるかな。


「おじいちゃんは僕の事好き?」 

「貴様そればかりだのぅ。そんなに不安か、他人の心が」


 不安だよ。おじいちゃんは不安にならないの?


「うん。ねぇ、僕のこと好き?」


 チトセは起こしちゃだめなら、おじいちゃんが僕を好きって言ってよ。


 好きって言われたい。じゃないと僕がここにいるのってなんで? って思うから。

 それはとてもこわいことだから、嫌。


 でもおじいちゃんは意地悪に笑うだけ。


「子供は好かんと言うたろう。もう忘れたか?」

「けど、おじいちゃん、自分の事自分でできるようになったら好きになるって言ったよ? 僕ちゃんとお風呂のあとは自分で拭けるし着替えも一人でできるよ。ね? 前よりも好きになってくれるんでしょう?」


 おじいちゃんの腕を掴むと嫌そうな顔をしたから、また押されちゃうかなって思ったけど、そうならなかった。代わりに頭を撫でてくれた。


「そうじゃな。前よりはな。その煩わしさがなければもっと良いがな」

「どの煩わしさ?」

「その何度も好きかと聞くそれじゃ。鬱陶しくてかなわん」


 おじいちゃんは頬杖をついて僕を睨むから、なんだか頭を撫でられているのに怒られた気持ちになる。


「‥‥聞いたらダメ?」

「しつこいと言うとるんじゃ」


 しつこいって言われて、なんだかわかった気がしてきた。


 そっか、それかもしれない。


「じゃあ、もしかしたらチトセもそれで怒ったのかな?」

「こやつはそれでは怒らんだろうよ」


 違ったみたい。じゃあ、なんで?


「じゃあ、なんだろう。チトセはお母さんが嫌いなのかな。それとも部活が嫌いなのかな。どっちだと思う?」


 物知りなおじいちゃんなら知っているんだろうか?

 僕よりもチトセの事をわかってるんだろうか。


 おじいちゃんは口をいーってして僕を見てる。


「そう気にするな。女の気分など山の天気より変わりやすいものじゃ。明日起きれば今日の怒りなど忘れておるさ。じゃから貴様ももう寝よ。貴様とて人の子じゃろう。眠らんと病にかかるぞ」


 頭をぽんぽんされるのは好き。おじいちゃんの大きな手も好き。


 けどそれじゃ足りない。


 まだ答えを貰ってない。


「けど、眠れないの。好きって言ってほしいもん」

「‥‥呆れたわ。ほんに子供じゃのう」


 ため息をつかれて、僕はがっかりした。

 おじいちゃんは僕に好きをくれないんだ。


 やっぱり、チトセを起こしたいな。

 そう思ってチトセを見た時、おじいちゃんが急に僕を抱っこしたのでびっくりした。


「なに? なに? おじいちゃん」


 チトセを起こそうとしたからダメって言われる?

 それとも、怒られる?

 どうやって怒られる?


 怒鳴られるのかな? 叱られるのかな? 叩かれるのかな?

 殴られるのかな? 投げられるのかな?

 怒ったあとは?


 嫌われちゃうのかな‥‥。

 嫌なことを想像しちゃって、こわくなって目をつぶった。


「‥‥?」


 けど、こわいことなんか起きなかった。

 ただ、ぎゅって抱きしめられて、背中をとんとんされる。


「‥‥えへ」


 痛くはなくて、あったかくて気持ちがよくて、僕これ好き。


 それになんだか、さっきまでの重たいのがなくなっていく気がする。


 目を開けるとおじいちゃんの口が三日月みたいになってた。ぎざぎざの歯が見える。


「ほれ、寝よ。わしは嘘は好かんからの。貴様の欲しい言葉なぞかけてやらんぞ。じゃが貴様が心底幼いのもわかったわ。幼子はこうしてあやされながら眠るものよ」


 それを聞いてならだめだって思った。

 僕はこうされるのが好きだけど、僕は幼子じゃないもの。


「僕幼子じゃないよ?」

「笑わすでない。まるで満たない子供じゃろうが。その身も、心も」


 そうなの? それならいいのかな。

 いいなら、このままこうしていて欲しいな。


「しかし、チトセの気を引きたいのならもうちっと大人になった方がいいのぅ」

「そうなの?」


 気を引くってわからないけど、チトセがその方がいいって事?

 なら、そうなりたい。


「大人になるって、どうしたらいいの?」

「まずはその甘えた態度を改めよ。ところ構わず抱きつくでない」


 そう言ってまた撫でてくれる。


 抱きつくのがだめなの? ぎゅってできないの?

 それは辛いけど‥‥。チトセがその方がいいなら、頑張ってみる。


「うん‥‥。そうする」

「阿呆ほど可愛いとは言うが、貴様は愚かで愛い子じゃのぅ」

「えへ‥‥」


 悪口みたいでよくわかんないけど、おじいちゃんが褒めてくれる。


 僕、おじいちゃんのことも好き。優しくてあったかくて、こわい時もあるけど大好き。


 おじいちゃんにぎゅってされてると、なんだか眠くなってきた。

 おかしな気持ちもなくなって、僕は目を閉じてみる。


 真っ暗になる頭の中で考える。

 おじいちゃんの言う通りならいいなって。

 チトセと明日、起きたらすぐに仲直りできるといいなって。


「いい夢を見よ、--の子よ」


 おじいちゃんの声が遠くなる。


 夢、夢を見るならチトセの夢がいい。楽しくて嬉しい幸せな夢。チトセがいるなら全部そう。


 けどね、チトセが見る怖い夢も好きなんだ。

 お城の地下とか、儀式とか、チトセの夢の中で死んでる僕を見るのも不思議な感じで楽しくて。


 けど、怖い夢を見るチトセはいつもとってもこわがっていて可哀そうだから、助けてあげるの。

 一緒に歩いて冒険をして、楽しい夢に変えちゃうんだ。

 そうすると、いつの間にかチトセは笑ってくれるんだよ。


 そういう夢がみたいな。

 チトセがたくさん笑っているような、僕を好きって言ってくれるようなそんな夢が。

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