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生贄少女の異世界探索紀行 〜友達ゼロの私にも親友ができました〜  作者: 清水谷
二章・旅のはじまり、冒険とダンジョン
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2-8-1話 夜食

 ノイ達と別れたあと、一時間も経たないうちに寝坊助リュカは突然起き上がった。開口一番に「ごめんねチトセ~!」と縋り付いてくるので、馬車が木に突っ込みかける。


 てんやわんやしたあと、荷台から御者台に移動したリュカは運転を変わってくれた。


「ワールドエンドが行くな起きるなここにいろって僕を夢の中に閉じ込めたんだ」


 そう言って、リュカはしょんぼりとする。


「また怒られたの?」

「ううん。ただ、僕がノイに夢の国のことをたくさんしゃべりそうだからって」

「喋っちゃいけなかったの? 私、全部話しちゃった‥‥。どうしよう‥‥」


 魔法のせいかもしれないが、私は昨夜気分よく起きたこと全部話してしまっている。


 理由はわからないが、夢の国のことは他人に話してはいけなかったのだろうか。もし次ワールドエンドさんに会うことがあれば、私もあの鋭い瞳に睨まれて、嫌味を交えたお叱りを受けるのだろうか‥‥。


「ごめんね。僕起きるって言ったのに、約束やぶっちゃった。チトセ大丈夫だった? こわい思いしてない?」


 相変わらずリュカは私の心配をする。


「それは大丈夫。ノイさん達とってもいい人だったよ。リュカも話せたらよかったのにね」


 きっと、人懐こいリュカのことだから二人ともすぐに仲良くなれるんだろうな。そんなことを想像していると、落ち込んだような暗い声でリュカが「ううん」と言った。


「僕、あのノイって人こわい。最初はかっこいいって思ったけど、目が合ったとき、凄く嫌な気がしたの。だから、夢から出れなくて嫌だったけど、ノイに会わなくてよかったなって」

「どうして‥‥?」

「わかんないよ。でも、あの人すごく眩しくて、目が合うとここがぎゅって捕まれるみたいになる‥‥」


 そう言って片手で心臓のあたりを抑えた。


 確かにノイにじっと見られると怖いような気がするときがあったけど、それは多分まだ信用しきれてなかったとか、出会いがしら受けた殺気のせいだと思う。

 打ち解けた後は始終優しくて頼りになるお兄さんだった。


「それはリュカ。お主が魔物に近い魂を持つからよ」


 馬車の荷台を振り返ると、魔人が私たちをみてにっと笑っていた。いつのまにか仮面を取っている。


「またそんな意地悪言って。リュカが真に受けたらどうするのよ」

「事実じゃ」

「僕、悪い子なの?」


 さらに落ち込むリュカがかわいそうで魔人を睨む。

 私の視線など歯にもかけないにやけ面のまま、しかし魔人はしょぼくれる頭に手を置いた。そのままぽんぽんと叩く。


「そういうことではない。魂が人間離れした者などごろごろおるわ。ただ、あのノイとかいう小僧は勇者じゃからの。魂の性質が貴様とは真逆なのだ。じゃから相容れんだけよ。恐れるでないわ」


 リュカはなんだか嬉しそうに肩をすくめて笑顔になった。魔人の言葉に安心したというよりは、頭を撫でられたことが嬉しかったらしい。


 おじいちゃんって、リュカに優しいよね? なんとなくそう思う。


「とか言って、おじいちゃんも仮面で顔隠してたくせに」

「こわかったの?」

「阿呆。あやつに顔を見られとうなかったんじゃ。仕方なかろう」

「どうして?」

「知らんでいい」


 それきり、魔人はまたそっぽを向いてしまった。


 そのあと私とリュカは日が暮れるまで交代で馬車を走らせたが、一向に森を抜けられる気配はない。


 日が落ちるとどこまでも続く森は行く先が真っ暗になってしまった。ノイさんからもらった肩掛けバッグの中にはランタンが入っていたけれど、その小さな明かりでは足元くらいしか照らせず、さすがにこれ以上は進めなくなった。


「僕が運転しようか? 僕、まだ見えるよ」


 夜目の効くリュカはまだ進む気でいるものの、正直言って私は少し寝たかった。昨夜ポーションで体力が回復したとはいえ、やはり徹夜はきつい。


 走る馬車の荷台で寝るというのも振動が強すぎて無理だろう。それを伝えるとリュカは納得してくれた。


 とはいえ、馬車を停める場所がない。誰も通らないだろうし、この際この道の上でも構わないか、とその場で馬車を停める。


「ねぇ、ここで休んでいいかな?」

「いいと思うよ」

「よかろう」


 私はため息をついて手綱を下ろした。ようやく一休みできる‥‥と思いながら馬車から降りる。


 ふと森の茂みからウサギが飛び出して来やしないかと想像をしたが、傍に魔人がいるからかそれほどこわくなかった。


 荷台を見ると、魔人が乗っているだけで他に物もなくすっきりしている。ノイさんがくれたバッグがとても役に立っているのだ。大概の荷物は全部この中に入っている。


「あ、おじいちゃんのご飯出し忘れてた」


 常に何か口にしている魔人が、そういえば何も言わなかったなと思ったら、魔人はその手に小さな袋を持っていた。今まさにそこから光る何かを取り出して口に入れている。


「おじいちゃん、それ何?」

「魔石じゃよ」

「魔石‥‥? どうしたのそれ」

「ダンジョンでとってきた」


 そういえばダンジョンに行っていたとかなんとか。

 ダンジョンってなんだろう?


 それよりも。


「なんでそんなもの食べてるの」

「魔力効率が良いんじゃよ。魔石は魔力の塊じゃと言うたろう」

「そういえば‥‥。ねぇ、おじいちゃんって魔法を使うじゃない。壁とか一瞬で消すやつ。あれってどうなってるの? なんの魔法なの?」

「あれか? あれは喰っておるのよ」

「食べてる?」

「そうじゃ。視界に収めたものをわしの胃の中に転移させておる」

「ええ!?」


 それって、すごくない?

 そうか。ローベルトの魔術も、フードの男たちも、お城の壁も全部魔人の胃の中に瞬間移動していたのか。


 生きたまま胃液の中か‥‥。


「おじいちゃんの魔法、強すぎない? 敵なしじゃん」

「そうでもない。魔法を弾く相手には通用せんし、他の魔法に比べれば少ないとはいえ、かなり魔力を消費するしのぅ。一口で使った分の魔力を回収できなければ大損じゃ。まぁしかし、わしの魔法を弾き返せる者など指折り数えるくらいじゃわ。大概の奴には負けんだろうよ」


 そう言って私と入れ替わりに馬車を降りた。

 魔人が降りると私とリュカが横になれるくらいの広さが確保できる。だから降りてくれたんだと振り返る。


「おじいちゃんは寝ないの?」

「前に言うたがの。わしは寝ん。睡眠欲とやらも食欲に代わっとるでの。‥‥しかし、魔石は飽きるのぅ。肉が食いたい。肉が」


 さんざんダンジョンとやらで食べてきたのでは。


「しかし、ここは薄いとはいえ魔獣除けがあるのぅ。馬にもかかっとる。チトセ、ちょっとあたりを歩いてきてええか」

「ちょっ、‥‥ダメ! 絶対だめ!」


 魔人が行ってしまったら、また魔獣に襲われたらと恐怖にかられて全力で止めにかかる。


「しかしのぅ。肉が喰いたいんじゃ。ここらには雑魚しかおらんからわしに気圧されてどこぞに逃げ隠れしとる。ああ、腹が減る」


 次の瞬間、真っ暗だった森の景色が突然開けた。


 左右に鬱蒼と茂っていた背の高い木々が姿を消し、バサバサと木の枝や幹が落ちてくる。おとなしかった馬もさすがに驚き声を上げてその場で足踏みをしたが、リュカが手綱を引いて落ち着かせてくれた。


 大量の枝や葉が視界一面を敷き詰めたが、それも瞬きの間に消える。魔人を見ると、不満足そうな顔だ。


 お腹すいたって、何も木なんて食べなくても。


 魔人はすぐににんまり笑う。


「リュカ、お主呪術で魔獣を呼べんか」

「呼ぶだけならできるけど、それ悪いことだよ」

「他なら知らんがわしの前では悪いことではない。そうか。昨日もそうすればよかったの」


 魔獣を呼ぶ? とても危険な話をしている気がする。


「待ってよ。魔獣を呼ぶってなに?」

「おらんものを探しにすら行けんのだ。呼ぶしかあるまいて」

「‥‥そんな。やめてよ。こんなところで呼んだら‥‥いろんな方向から集まってきちゃったらどうするのよ。袋のネズミじゃない」

「意味が分からん。まぁ、しかしそうだの。今のままだとちと狭いか」


 そして背後でまた森が落ちる音がした。馬がまた鳴く。


 さっきまで真っ暗だった景色は、森が消え、地面が軽くえぐられ、殺風景になった。おかげで月明りはよく通りさきほどよりは断然明るい。


「これでよい。さぁ、貴様らは馬車に乗れ」


 魔人にせかされ、私たちは馬車に乗り込んだ。

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