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生贄少女の異世界探索紀行 〜友達ゼロの私にも親友ができました〜  作者: 清水谷
二章・旅のはじまり、冒険とダンジョン
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2-5-1話 同行

 ノイ達と出会ってそう経たないうちに、私はこのまま一晩一緒に過ごさせてもらえないかと願い出た。


 出会って早々、しかもあんな出会いでこんなことをお願いするのもおかしい話だが、たくさんの危険な生き物がいる森の中で、このまま疲れ切ったリュカと何もできない私だけでは無事に朝を迎えられそうにないと思ったのだ。


 当たり前だが彼らも驚いていた。が、私たちに戦う力がないことを知ると快く承諾してくれたのだった。


 今は魔獣の解体をする彼らを岩屋で待っている。


 隣に座ったリュカが背を丸め、頭をぐらぐらさせながら目を擦る。


「リュカ、寝ていいよ。大丈夫。ノイさんは危なくなんかないよ」

「‥‥そうだね、たぶん、そう。けど、ほんとにだいじょうぶ?」


 私を心配してくれる彼の肩に手を乗せ、抱き寄せる。思ったよりもリュカの体は細くて硬く、更に軽くて驚いた。

 男の子にこうやって触れたことなんかなくて、こういうものなのかと思ったけど、そうじゃない。痩せすぎなんだと思った。


 こんなに頼りなさげなのに、さっきはとても頼もしかったなと岩屋を出た時のことを思い出す。


 いや、さっきだけじゃなくて、これまでもずっとリュカは頼もしかったんだけど。


 私がノイ達と同行したいと願い出た理由の半分はリュカを休ませたいという気持ちからだ。私と二人きりでは絶対に眠らない彼を少しでも休ませてあげたい。


「大丈夫。なによ、凄い凄いってノイさんを見てたのはリュカなのに」

「‥‥えへ、だってあの人本当に凄く強いんだよ。早いし、それに、なんだか‥‥」


 何か言いたげにじっとノイの方を見つめるものの、その目はもうほとんど閉じかけている。


「もういいから寝なよ。やばくなったら起こすから、そしたら起きてくれるでしょ?」

「うん、すぐ起きるよ。‥‥なら、ちょっとだけ寝るね。やばくなったら起こしてね」


 リュカはもう限界のようで、目をつむるなり私によりかかって眠ってしまった。


 肉を切る音がする以外はなんの音もない夜を、生臭い風がかけていく。

 しばらくすると小さな人影が近づいてきた。ノイの友達のキャットだ。


「おい、チトセ! 解体が終わったから、移動するぞ! なんだその道化師は眠っちまったのか」


 夜色のフードを身に着けた幼稚園児くらいの身長の彼。

 最初名前を聞いたときは猫? と思ったけど、世界の終わりみたいな名前の人もいたことを考えると、そういった名前もこの世界ではおかしいことではないのかもしれない。


 キャットは眠るリュカを覗き込んでふんふんと‥‥鼻を鳴らしているのかな? ‥‥何かしていた。


 声も高いし背も小さいので、子供かと思ったがこれでも大人だとさっき怒鳴られた。


「しっかたねぇなぁ! ノイにおぶってもらえよ!」


 キャットはそう言って、私に立ち上がるよう促し、手を差し出してきた。

 座った私よりずっと背の低いキャットに手を差し出されても、引っ張り上げられるということはない気がする。それに今立ち上がったらリュカが倒れてしまう。


 頭ではそう考えていたのに、勢いよく差し出された手をついついとってしまった。

 軽く握って、ん? と思う。


 小さくて、ふわふわで、ぬいぐるみのよう‥‥。

 手袋‥‥?


 雲が晴れて、一瞬見えたその手は、毛だらけのように見えた。


「ん!?」

「なんだ? 立てないのか? じゃあノイを呼んでくるからな!」


 キャットは手をひっこめて、ずんずん歩いていく。私の中で一つの疑惑‥‥いや、期待が膨らんでいく。


 考えながら、眠るリュカを持ち上げるように立ち上がる。いくらリュカが軽いとはいえ、人ひとり抱えるのは難しく、私はよろついた。


「チトセ。解体が終わったからもう出発しよう。リュカは俺が背負うよ」


 そう言ってノイはリュカに手を伸ばす。

 リュカのことまで頼むのは気が引けたけど、さっきの感じだと私が背負えばきっと支えきれず転んでリュカに怪我をさせてしまうだろう。素直に甘えることにした。


「ありがとう。今日無理させちゃったから、疲れてるの、リュカ」

「昼間とは言え、この森を二人だけでここまで来たんだろ? すごいよ。そりゃ疲れるよね。‥‥この子軽くない? キャットほどとは言わないけどさ」


 解体した魔獣の死体をその場に置いて、私たちは出発する。

 それから一時間も行かない、少し開けた場所を見つけるとそこで腰を下ろした。


 焚き木を集め火をつけると、そのあたたかさと明かるさにようやく人心地ついた気がする。


「干し肉食べるか?」

「ありがとう」


 干し肉を差し出したキャットの手は、確かに猫のようだった。やはりさっきのは見間違いではなかったみたいだ。


 あ、フードの下からしっぽが見える‥‥!

 もう間違いない。あれは、猫の‥‥!


 今私はこの世界に来てから一番わくわくしている。固い干し肉をかじりながら、視線はちらり、ちらりとキャットを見てしまう。


 それに気づいたノイがにやりと笑ってキャットを小突いた。


「キャット、チトセは君の姿が気になってるみたいだよ。フード取って見せてやりなよ」

「うえ?」

「え、あ、ごめんなさい。そんなつもりじゃ‥‥」


 とはいったものの、正直見たくてたまらない。

 すると、キャットが両足をばたつかせて怒り出した。


「おいらは見世物じゃないやい!」

「いいじゃん。減るもんじゃないし。俺はチトセと話がしたいのに、このままじゃ君にばかり気がいって、俺の話聞いてくれないよ」

「あ、いや私は‥‥」

「ったく! チトセ! 獣人なんかめずらしくないんだからな!」


 キャットは叫ぶと勢いよくフードをとる。フードの下からは、やはりというかなんというか、想像していた通りの生き物が現れた。


 ふわふわと全身を覆う柔らかそうな体毛。頭の上で尖った耳。口元から真横に伸びる髭。まんまるく黒目の大きな目。

 服を着ているので全身は見えないものの、灰色に黒い模様の入った柄は、アメリカンショートヘアを思わせる。


 完全に猫だ。


 幼稚園児くらいの大きさの子猫が、人間をまねして二足歩行でいるような姿に、たまらずため息が漏れる。


「か、かわいい~‥‥!」


 衝撃的な感動がため息で終わるわけもなく、笑みが溢れ感嘆の言葉もこぼれる。いや、溢れてくる。


 それを聞いてキャットはさらに怒りだした。


「人間の女はいっつも! みんな! おいらをそういう目で見るんだよ! だから嫌なんだ!」

「ご、ごめんね‥‥、でも‥‥とってもかわいいよ」


 もう、かわいい以外の言葉も感情もでてこなかった。口ではごめんといいつつ、怒っている姿を見ても心の底から可愛らしいとしか思えない。


「可愛いが誉め言葉なのは女だけだ! おいらは男なんだから、カッコいいって言え!」


 むきー! と怒るキャットはふかふかの両腕を交互に振り上げる。そうは言っても上から下まで、その姿はどこからどうみても、なにもかもが可愛くて仕方がなかった。

 可愛さのあまりテンションがおかしくなってしまいそうだ。


「撫でさせてあげなよ。好きだろ? 顎の下撫でられるの。俺より上手だと思うよ、彼女」

「‥‥簡単に撫でさせると思うなよ」


 キャットはぎっ! と私を睨み、フードを被りなおした。


「おいらはもう寝る! ふんだ!」

「おやすみ」


 キャットはやはり、猫よろしく丸くなって眠ってしまった。


「キャットはこの通り獣人でさ。こっちじゃあんまり見ないかな」

「はい、はじめて見ました」


 言ってから見たっていうのもなんだか失礼だろうかと思い返す。

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