表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
生贄少女の異世界探索紀行 〜友達ゼロの私にも親友ができました〜  作者: 清水谷
二章・旅のはじまり、冒険とダンジョン
51/134

2-3話 森の中へ

 魔人はどこに行ったのかわからないし、馬車は壊れた。

 リュカはいてくれているけど、次あんな大きな生き物と遭遇してしまったら私たちは逃げ切れるんだろうか。


 湖畔は開けていてとても明るかったのに、森の中は鬱蒼としていて昼間なのに薄暗い。


 恐竜から離れ、三十分は歩いた頃だろうか。段々と私の耳は聴力を取り戻していった。


「チトセ、まだ聞こえない?」

「ちょっとずつ聞こえるようになってるみたい。すごく遠くでぼんやり聞こえる感じ」

「よかった。‥‥さっきのあれ、なんだろう? 魔獣かな、魔物かな。凄く大きかったね。それにこわかった!」


 リュカは少し楽しそうにしていて、その様子を見ていると私の心にも不思議と余裕がうまれる。


「リュカも見たことないの?」

「うん。あんまりない」

「夢の国にはいなそうだもんね」


 魔獣、魔物。いよいよゲームの世界っぽい。


 私はゲームもしないし、ファンタジーな小説も読まないから、そういう知識がない。たまに金曜ロードショーとかで見る映画くらいだ。

 魔法物の映画でこういう森のシーンに大きな蜘蛛が出たのを思い出す。ああいうやつがたくさんいるんだろうか。


 蜘蛛はでませんように。


 他にも、お城の地下にいた犬、ゴリラ、子供みたいな、そうじゃないやつみたいな、見たこともない怖い生き物が、この森にも‥‥。

 急に背筋がぞくりとした。うまれた余裕が途端に消える。


「‥‥おじいちゃん、探さないとね」

「さっきから探してるんだけどね。この森、なんだかすごいのがたくさんいてどれかわかんないの。でも多分どれもおじいちゃんじゃない」

「リュカそんなことできるの?」


 そういえば、リュカはさきほどから人形をいじっている。


「うん。魔獣は力を隠したりしないから居場所がわかりやすいんだ。おじいちゃんは隠れるのが上手。目の前にいるとすごく怖いんだけど、姿が見えてないとほんとにわかんない。‥‥それに本当にいろんなものがたくさんいて探しにくい」

「さっきの恐竜みたいなのが、たくさん‥‥?」

「うん、多分」


 あっさり肯定され、私の不安はさらに増した。


「あ、でもどれもすっごく遠いから大丈夫だよ。おじいちゃんが帰ってくるまでどこかで隠れてようよ」

「湖からすごく離れちゃったけど、ちゃんと合流できるかな」

「できると思うよ。チトセはおじいちゃんと契約したんでしょ? 契約って多分、お互いの位置とか、生きてるかどうかとか、そういうのわかるはずだよ」

「そうなの?」

「うん。ワールドエンドとお嬢様がそうだから。だから三人でかくれんぼするといつも僕が一番最後なの」


 たしかに、リュカは呪術もあるし隠れるのが得意そうだ。


「そっか。位置がね‥‥」


 試しに、目を閉じて集中してみる。心の中で魔人を探すイメージをしてみる。


 が、何も変わったことは感じない。全然わからない。


「なにしてるの?」

「おじいちゃんを探せるのかなって」

「チトセは魔力がないから無理だよ」

「‥‥はやく言ってよ」


 この世界って、なんでも魔力で片付きそう。私の普通で言うと、電波とか、インターネットみたいな感じだろうか。


 不安な二人ぼっちの冒険はリュカが安全な道を案内してくれるので、日が暮れるまでほかの生き物と遭遇することなくなんとかなった。


 日が暮れる前、私たちは崖のそばに小さな岩屋を見つけることができた。中を覗くと何もなく、誰もいない。ほかに休める場所もないので、そこで夜を明かすことにする。


「よかった入れそう」


 岩屋は奥行きもあまりなく、雨が降ったらしのげそうだが、風がふいたら吹き込んできそうだ。それでも私たちが入ってもまだ少し余裕があるくらいには広い。


 岩屋へ入ってしばらくすると、夕日は完全に沈み夜が来た。


 この世界の月は太陽が沈むとすぐに昇るらしい。出てくるところは見れなかったが、太陽の光とバトンタッチで辺りを照らし始めた感じがした。まるで電気のオンオフのようなスムーズさだ。

 月は空から森を照らし、岩屋の前の岩場も照らし、岩屋の中も半分くらいは照らしてくれる。明かりがあるだけでほっとできる。


 ふと視界に入ったリュカの横顔はとても眠たそうだった。


「リュカ、大丈夫? 眠たい?」

「大丈夫。ちょっと疲れただけ‥‥」

「私が見張ってるから、寝ていいよ」


 しかしリュカは大丈夫だと首を振る。


 呪術がどういうものかわからないけど、負担がないはずがない‥‥と思う。魔人は魔力が減るものだと言っていた。ならきっと、呪術だって魔力みたいなものが減っていったりするんじゃないか。


 リュカは昼過ぎから今まで、きっとずっと呪術を使い続けている。


 呪術だけじゃない。私たちは長距離をずっと歩いてきた。私の足はぱんぱんで、しばらくは動きたくない。それに、危険が潜んでいるだろう森の中をさまよい続けて、精神的にも疲れている。


 リュカの後ろをただ歩いていただけの私ですらこんなにへとへとなのだ。無力な私を気遣って気を張っていたリュカは私以上に疲れているはずだった。


 少しくらい休んでくれても、文句なんて言わないのに。


「けど、すごく眠たそうだよ。少しだけでも寝たら?」


 それでも頑なに人形を手に首を振る。うとうとしていて、いつ寝落ちてもおかしくない顔をしているというのにだ。


「ほらおいで。膝枕してあげるから」

「ほんと?」


 少し嬉しそうな顔をして私を見る、その目がしょぼしょぼしていて本当に眠たそうだった。

 膝を崩して手招くと、リュカは迷うそぶりを見せたが結局首を振った。それから森の方へ視線を向ける。


「なんかね、夜になったからかもしれないけど、変なんだ」

「変?」

「うん。明るい時にはいなかった小さいのとかがたくさん‥‥それがなんだか、こっちに来てるような、僕らを見てるような気がして」


 大きなあくびをしながら言った。


 岩屋は森から離れた高台にあるため見晴らしがいい。私は岩屋から少し顔を出して森を見下ろした。けど、どんなに目を凝らしてみても私の目にはなんの生き物も見えない。あるのは真っ黒な森だけだ。


「見えないんだけど、いるのがわかるから‥‥。多分、むこうも僕があっちに気が付いてるのをわかってて、だからこれ以上こないんだって気がするの。僕が術をといたら、来ちゃうかもしれない」


 つまり牽制しあっているということだろうか。


「でも、私たちの姿も見えてないんでしょう? その間に寝たって‥‥」

「僕が寝ちゃったら術がとけちゃう。それに、もし探されたら、声もにおいも隠せてないから、どっちみち見つかっちゃう」


 リュカは困ったように笑う。あきらかに疲れた顔をしながらもさらに笑顔をつくった。


「でも大丈夫だよ。僕がこうしてれば、こっちには来ないと思うから」

「そんな‥‥」


 リュカはそういうが、つまりは私のために眠ることも術を解くこともできないのだ。またこの子にばかり負担を強いている。


 魔力も力もない、私にできることはなにかないだろうか。

 私にできること‥‥。


「じゃあ、朝まで二人で起きてよう。おしゃべりしてたら、きっと眠気も吹っ飛ぶし!」

「それ、とっても楽しそう。僕おしゃべり大好き」


 リュカの目は相変わらずとろんと眠たそうだけど、その声は少し元気を取り戻したように聞こえた。


 風が木を揺らす音しかしない静かな夜の中、何を話そうか考えていると突然、爆発音のような轟音があたり一面に鳴り響いた。


「なに!?」


 私もリュカも立ち上がって音がした森の方を見た。暗い塊のように見える森の、遠くで煙が上がっている。


「あそこにすごい大きなのがいる! さっきまでいなかったのに!」

「ええ!?」


 とはいえ、まだ距離がある。


 私たちは緊張しながらその方向を見つめることしかできなかった。逃げようにも、岩屋を出てどこへ向かったらいいのかわからないのだ。リュカも迷っている。


 また、大きな爆発が起きた。今度は爆発だと一目でわかった。


 森の向こうで黒い影のような煙と赤い炎が舞う。それはさきほどよりずっとこちらへ近づいていた。


「ここ危ないかも。出よう、チトセ。行ける?」

「いつでも!」

「じゃあ、こっち!」


 私たちは岩屋を出て、爆発とは別方向へ逃げ出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ