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1-4話 危険

 夢の中ではあるが、死ぬかもしれないなんて言われたら不安になる。


 足を止めた私を置いてリュカは階段の先の扉をあけて行こうとする。こんなところに置き去りは嫌なので急いで追いかけるが、今は進むより先に疑問に答えてもらいたかった。


「まって。それどういうこと? 死んでるって、どういうこと。生贄って、儀式ってなに? なんのために? リュカ、なんでそんなことまでわかるの。その、さっきから話してる誰かに聞いたの? まって、説明してよ」


 リュカを追いかけて扉をくぐると、そこは正真正銘お城の中だった。


 床に敷かれた分厚い絨毯、窓を飾りたてるカーテン。廊下を彩る生花の活けられた花瓶や、壁に掛けられた絵画。

 廊下自体が薄暗く、よくは見えないけれど窓から差し込んだ月明りはここでも私の視界を照らしてくれた。


 廊下の端々には燭台が備え付けられていて、ほとんどが消えていたけれど廊下の向こうにはぽつぽつと蛍の光程度の明かりが見える。廊下の片側を等間隔で並ぶ木製の扉は一つ一つ彫刻が彫ってあるようだ。


「‥‥わ」


 今まではお城の中といっても装飾のない石の壁が永遠に続くただの廊下や階段を進んでいただけだったので、突然の豪華な景色に私は目を奪われた。


「本当にお城なんだ。なんかすごく、お金持ちのホテルって感じ‥‥」


 お城コンセプトのお高いホテルってこんな感じかなと想像する。行ったことはないので、あくまでも想像。だけどここはコンセプトじゃなくて、本当のお城なんだと思うと感動した。


 廊下は思ったより狭くて、人が二人すれ違うのがやっとなくらいの幅なので、置き型の燭台が置かれたテーブルにぶつからないよう注意して、興味に任せてきょろきょろとしながらリュカの元へ歩いて行った。


「チトセ、前を見て歩かないと危ないよ?」

「あ、うん。こんなところ来たことなかったから、つい」


 謝りながら、ふとあたりを見渡した。誰もいないことを確認してほっとする。


 先ほどまでの冷えた景色とは違って、家具や装飾が増えて生活感が増すと、一気に人の気配というものを身近に感じるようになる。シンプルなんだけど豪華なこの扉一つ一つの向こう側に誰かいる気がした。今まで以上に慎重に進まなければという気持ちになる。


 だというのにリュカは臆せず進んでいく。


「さっきの話だけど、ここってチトセ達を召還する前から儀式をしてたみたい。今までにもたくさんの人を殺してるんだって。それで、チトセ達のことも‥‥」


 説明してくれるのは嬉しいんだけど、さっきと同じ調子で話をするものだから私は焦った。小声でリュカに耳打ちする。


「リュカ、もうちょっと小さな声で話してよ。誰かに見つかったらどうするの」

「大丈夫。今はみんな儀式に行っていて、ここらへんは誰もいないんだって」


 また誰かから聞いたように言う。


「でも、チトセのいう通り。あんまり大きな声はだめだね。じゃあ、こっそりしゃべるよ」


 そう言って歩き出したリュカの背中を追いながら、私も気を引き締める。


 お城の装飾だとかが珍しくて思わず忘れかけていたけれど、見つかったら儀式とかいうのに連れていかれて殺されてしまうんだ。突然追加された思ってもない角度からの命がけ設定に、毒サソリどころじゃなかったな、なんて考える。


 最初にリュカと出会ったときにホラーだと感じたけど、この夢ってやっぱり悪夢なんだと再確認した。


「衛兵に見つかったら、私も殺されるのよね?」

「うん。だから見つかったらだめだよ」

「リュカは、だから私を飛行機から降ろさないようにしてたの?」

「うん。そうだよ」


 リュカは淡々と答えてくれる。


 いやいやいや‥‥。そんなことならもっと早くにその事情を説明してほしかったよ。

 けどまぁ、夢の設定なんかいつ説明されても目が覚めないことにはどうしようもないんだけども。


 仮に飛行機の中でそのことを知ったとして、お嬢様の助けとやらがくるのには時間がかかることは変わらない。助けが来るかも正直わからない。

 飛行機の中でもし百年も待つことになったら、夢の中だって言ってもやっぱりそんなに待てるわけがないって考えていただろう。


 それなら結局私はそのことを知っていても知らなくても、飛行機から降りる選択をしたんじゃないだろうか。

 いつか覚めると思っていても、待っているだけなんてつまらないし、退屈だし。それにあの時は飛行機から出たいなと単純にそう思ったんだよね。だからまぁ、どちらにせよって話だけど。


 でもそうなると、心配なのは‥‥。


「ミズキママは無事かな」


 そう。ミズキママの安否だ。


 私より先に降りた人たちが死んでる可能性が出てきた以上、もしかしたらミズキママだってすでに殺されている可能性がある。もしミズキママを救えず、リュカやお嬢様の目的が達成できなかったら、私の夢って覚めないとかある?


 まさか、そんなことはないか。


「チトセがミズキママだってば」

「だから違うって」


 相変わらず、リュカは私がミズキママだと言い張る。


「ねぇ、儀式って何?」


 生贄にするために殺すってことは、それを対価になにかができるってことだと思う。映画とかなら邪神復活のために生贄にされるとかそういう設定がありそうだけども。

 魔法がある世界だし、ありそうな気がしてきた。多分それだ。


「わかんない」

「わからないの?」

「うん」

「だって‥‥儀式って言ったら邪神復活とか、悪魔召喚とか、なにか目的があるんでしょ?」


 例えば、この夢のゴールが邪神復活阻止とか。そういう可能性もあったりして。


「邪神? なにそれ」

「う‥‥」


 人形の純粋な瞳に本気のトーンで聞き返されると妙に恥ずかしくなってくる。発想が子供っぽくて脈絡なさすぎたかもしれない。

 気を取り直して、話を逸らそうと私は小さく喉を鳴らした。


「なんでリュカはこのお城のこと知ってるの」

「お嬢様がね、前から気にして話してくれてたんだ。みんなこのお城を怖がって悪夢を見るって」

「そのお嬢様ってそもそもなんなの?」

「マリスお嬢様? なにって言われてもなぁ。お嬢様は夢の国のお嬢様だよ。僕はお嬢様の住んでるお屋敷のお庭をきれいにする、庭師ウサギの役をしてるの。あ、今はウサギじゃないよ。リュカ」


 ますます意味が分からなくなってしまった。リュカは夢の国のマリスお嬢様に使えていて、庭師が彼の仕事。それはわかった。


 それにしても庭師ウサギとは? ‥‥謎が深まるだけな気がするので、今はおいておこう。


「ねぇ、マリスお嬢様のこと、知らない?」


 振り返るリュカの横顔は相変わらずビスクドールってやつでこわい。

 暗いお城で人形に道案内されて、見つかったら殺されるなんて、私の頭の中ってどうなっているんだろう。普段こんな夢を見た記憶がないから、きっとこういうのは見たことを忘れてるのね。


「うん。知らない」

「聞いたこともないの?」


 もしかして有名人なのかな? けど、本当に聞いたことがない。

 と真剣に考えて、ばからしいと首を振った。


 これは夢。夢の中の登場人物が現実にいるわけないし、知ってるわけもない。あ、でももしかしたら現実で見たものを無意識に夢に投影してたりはあるかもしれない。


 私はテレビも動画サイトも、動画アプリも見ないから知らないだけで、もしかしたら夢に出てくるくらい現実で有名な誰かなのかも。‥‥いや、そんなわけないか。


 というか、この夢ってもうすでに私の想像を超えてる気がするんだけどね。


「うん。聞いたこともないよ。だからやっぱり、ミズキママって別人だと思うよ」

「ううん。お嬢様はチトセを指さしてたもん」


 ミズキママに関しては平行線だ。

 リュカは話をしていると素直な感じがするくせに、案外頑固なのかもしれない。これはますますミズキママを探し出さなければ、リュカの勘違いを正すことはできそうにない。


読んでくださりありがとうございます。


明日も朝7:40に投稿予定です。

また読んでいただけますと喜びますので、よろしくお願いいたします。

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