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24話-4 幕間/冒険者の話

 ギルドから出るなり、キャットは怒り出した。


「なんだよあいつら! あれで冒険者を名乗れるのか!?」

「うーん。どうにもきな臭いよねぇ‥‥。あのギルド長からは魔力をほとんど感じなかった。魔術師でもなさそうだ。ギルド長って、冒険者上りがなるものだと思ってたけど、普通の人がやるってこともあるのかな?」

「そんなわけあるか! お役所じゃねーんだからさ! これも金なんか払われないって気がしてきたぞ。ただ働きか!? いやだぁー!」


 叫ぶキャットをすれ違う街の人は一瞥するが、やはりすぐに視線をそらして去っていく。


「けど、キャットも俺と同じでギルドにはそんなに詳しくないだろ? ここはそういうとこなのかもしれない」

「‥‥確かにそうだけどさぁ」

「前、どこかで研究職の人とかも受付にいたことあったろ? でもあのギルド長は多分そうじゃない。本当にお役所仕事なのかもしれない」


 目的地は街の奥に堂々と聳えているので見失うことはないが、それにしても街のギルドの様子が気になる。

 商人の男もギルド長も城にかかわりたくないという様子だった。それどころか、彼らの態度は他人と距離を取りすぎているように感じる。


 城どころか、面倒ごといっさいにかかわりたくないのだろう。それだけなら冷たい人たちが住む土地だと割り切れそうだが‥‥。


「噂が本当な気がしてこない?」

「‥‥これから行くのに、こわいこというなよ」


 無事たどり着いた城の門をくぐる。商人が来ることがわかっていたからか、防犯魔術はかかっていないようだった。


 城の正面出口は当たり前だが施錠されていたので、勝手口を探すことにした。厩が見えたのでそちらへ行くと、確かに馬も馬車もない。

 商人が置いて行ったと思われる荷物を見つけ、近くの扉から中へ入る。そこから正面玄関の方へ歩いて行ったが、話の通り本当に城の中はがらんどうだった。


 ここは使用人の多い屋敷の裏方なので壁や廊下に装飾品がないのはわかるが、カーテン一つないのはさすがに不思議に思うしかない。

 木製の扉をすぎると、屋敷の表側‥‥つまり客が出入りするだろうメインの廊下へ出る。やはりそこにも絵画はおろかカーテンも絨毯すらないのだった。


「‥‥夜逃げってレベルじゃないぞ。というか、屋敷の奥からなんか臭いしてこないか?」

「俺にはわからないけど、キャットはなにか臭ってるんだ? どんな臭い?」

「‥‥すえた感じの‥‥。多分、死体の臭い‥‥」


 その臭いをたどって二人は大理石の玄関ホールへ出た。たくさんの来客があったであろうこの玄関も、やはり何一つ飾り立てられておらず、燭台やシャンデリアすらもなかった。


「これは‥‥」


 城の正面玄関口の目の前に、堂々と開け放たれた地下への入り口があった。

 もうすでにそこからの悪臭であたりは満ちている。汚水と血と腐臭がまざったような嫌な臭いが鼻をつく。

 ノイは剣を構えた。


「キャットはここで待機して。わずかだけど、魔力の痕跡がある。これは噂が本当だったみたいだね」

「いやいやいや! 一緒に行った方がいいだろどう考えても! おいら一人でいるときにもし誰かが来ちゃったらどうしたらいいんだよ! ノイといた方が安全じゃんか」

「鎧を着せるし盾をつけておくから大丈夫だよ」


 そう言って、ノイは勇者の鎧を展開した。光る鎧は最初はノイの胴回りに適したサイズだったが、キャットにあわせて縮んでいって、やがてぴったりフィットする。

 続いて盾が出現し、キャットの周りをくるくると回る。これはある程度の攻撃なら自動ではじいてくれる。


 それでもキャットは首をぶんぶんと振った。


「わかったよ。ならついてきてもいいけど‥‥。噂が本当ならこの先ってすごくやばい光景が広がってると思わない? 悪臭の根源があるわけだしね」

「あ、悪魔崇拝の‥‥儀式‥‥」

「そう。人っ子一人いない城、それにこの臭いだ。‥‥死体の山かもしれない」


 さぁっと血の気が引くキャットに、やっぱりここにいなよと言うと、今度はすんなりうなずいた。


 それから、一人残されたキャットはそわそわとノイの帰りを待っていた。臭いもきついが、何より静まり返った城が怖かった。


 置かれているようなものは何もないが、そもそも立派な城だけあって、佇まいがすでに荘厳。しかもカーテンがないわりに室内は暗い。無機質な石の床はとても冷たくて、地下からも床からも冷気が漂ってくるようだった。


 しかし、見送ってから1時間も経たないうちにノイは出てきた。案外平気な顔をして戻ってきた彼を見て、キャットはほっと胸をなでおろす。


「死体とかはなかったんだな?」

「うん」

「なぁんだ! おいらてっきり噂を‥‥」

「儀式の会場はあったから、噂自体は真実だと思う」


 ノイは神妙な顔をして地下を見た。キャットはごくりと唾をのむ。


「かなり強い戦闘の跡‥‥。魔法を使った痕跡があった。でも、死体もその一部もなにもなかったよ。臭気と死の気配はあったのに、不思議だ。血痕一つないんだよ。残ってたのはこれだけ」


 ノイの手には暗く光を反射する石があった。それは魔石と呼ばれるものがその力を使い果たしたものだったが、どこかいつも見ている魔石とは違う気がする。


「魔石の滓じゃん」

「治癒の魔石だよ、これ。多分、人工の」

「治癒? 人工?」


 治癒の魔石はとても高価なものだ。


 使えば、魔石が光り輝いているうちは胴体が切断されいても死を免れるほどの延命の効果がある。さらに強い力を持つものなら、切断された胴体同士がくっついたり、なくなった腕がはえたりもする。

 ただしその採取量は極めて低く、滅多に市場に出回らない。


 だから通常、治癒の魔石は治療のつなぎに使うことが一般的だった。

 魔石が輝いている間に神官など治癒の奇跡を持つものを呼んできて、彼らがメインの治療を行う。治癒の魔石はそうやって節約して使うことが一般的なのだった。


 ただ、高価とはいえ大概のギルドや教会には常にいくつか置いてある。討伐などで重傷を負った者が運び込まれれば、治療の補助として使用するために。


 けれどそれは良い使い方というもので、一般的ではないが治癒の魔石を拷問に使う場合がある。地下の様子から、おそらく後者の使い方をしていたとノイは考えた。


「これを使えば長い間人を苦しめることができる。ここには少なくない魔物の気配も残ってた。‥‥悪評そのに、城の地下室では魔物と人間の交配実験が行われていて、その結果生まれてきたキメラが森へ放たれている‥‥」


 それを聞いて、キャットは身震いした。


「‥‥ノイ、帰らない?」

「帰れるわけない。‥‥ほかの部屋も確認しよう」


 こうなったノイをとめられる方法はないので、キャットは恐る恐るついていくしかなかった。


 二人はその後もいろんな痕跡を見つけた。

 石の分厚い壁に開いた大きな穴の道。地面が大きくえぐれた中庭。床一面に魔法陣が描かれた部屋‥‥。


 どれも痕跡というだけで何があったのか、何が起きたのか想像するには乏しいものばかりだったが、それらを見つけるたびにノイは悪評を一つ一つ口に出しては真実を確信していく。


 城の裏口で草原へ向かったと思われる馬車の跡が見つかったのは、日が暮れる少し前だった。


「城の裏手には魔獣の多い森が‥‥って、じゃあ、城の連中は森に逃げたのか!?」

「いや、蹄と車輪の跡から、馬車はそこまで大きくないね。この大きさじゃ10人も乗れない。けど、森へ行った人がいるのは確かだ。‥‥追いかけよう」

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