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24話-2 幕間/冒険者の話

「噂だと、ヘリオン城主、ローベルトってやつはかなりの腕の魔術師で、領地内外の人間を攫ってきては悪魔崇拝の儀式を開く悪魔崇拝者らしい。ヘリオン領には彼を支持する貴族や金持ちが多くいて、年に何度か彼らを集めて大規模なパーティーを開くんだって。そのパーティーが開かれるのがなんと今! この時期らしい」

「この時期ってだけで、今やってるかわかんないだろ」

「あの色んなものが高かった村で聞いたんだけど、貴族たちの馬車が数日前に通って、ヘリオン城へ向かったんだってさ。もしかしたら、もしかするだろ?」

「人攫いの馬車も向かったって?」

「それは、聞いてないんだけどさ」


 噂では、儀式が行われる時には深夜の街を人攫いの馬車が走るという。


 馬車は中が見えないように罪人を移送するための窓のない頑丈なものが使われ、その中からは老若男女のすすり泣く声や叫び声が聞こえてくるという。しかし、それも十数年前までの話で、最近では滅多に見なくなったと村の人は言った。


「昔はその移送車が走るたび、城付近の森から身元不明の死体が山のように見つかったって話も聞いたけど、今はそれもないらしい」

「‥‥なぁ、ノイ。お前それ確かめに行く必要あるのかよ。今のところ質の悪い噂話ばかりじゃんか。昔はあったけど今はないんだろ? 話の出どころがあやしいんだよな。家族が攫われたって証言だって嘘かもしれないのにさ」

「それでも、悪評が多いのは確かだ。どこへ行ってもヘリオンは悪い話しか聞かない。‥‥いいんだよ、与太話ならそれはそれで。俺がこの目で確かめたいだけなんだから。むしろ嘘だったならその方が安心できるじゃないか。けどねキャット、火のないところに煙は立たないっていうだろ」


 キャットはため息をついて痩せた財布を大切に懐にしまい込んだ。


「じゃあさ、もし噂が本当だったらそれはそれでどうするんだよ。相手は凄腕の魔術師なんだろ? しかも悪魔崇拝の儀式中。もし悪魔の召喚に成功してたらどうすんだよ」

「そりゃ、倒すよ」


 そう言ってノイが腕を掲げると、どこからともなく一振りの剣が現れた。

 先ほどまでなかったそれは日の光の下でもわかる程度には薄い光りをまとっていて、刀身は空気に透けて見える。


 勇者の証である、魔法の剣‥‥勇者の血筋にだけ受け継がれる力だ。


「お前が強いのは知ってるけど、悪魔だぞ? 勝てると思うわけ」

「わからないよ。けど、悪魔だろうと魔王だろうと、悪いやつなら倒さないと。‥‥一応、俺も勇者の端くれなんだろ?」


 勇者、それは伝説の存在だ。

 昔は一族というほどたくさんいたらしいが、今ではもうお伽話の中でしか聞かない。キャットもノイと出会ってどこからともなく現れる剣と盾、そして鎧をみるまでは夢物語と思っていた。


 ノイはある日を境に記憶をなくしてしまったらしく、昔のことは覚えていない。だからどこからともなく現れる剣のことだって、勇者の力だとキャットから言われるまでわかっていなかった。


 実のところ、本当に勇者の力なのかは誰にもわからないことだった。

 お伽話に出てくる話そっくりだというだけで、もしかしたら勇者でも何でもない、マイナーなただの魔法という可能性もある。


「もしその力が勇者の力とは全然違うものだったら、それでもヘリオンへ行くのか?」

「行くよ。‥‥戦ってるとさ、なにかを思い出すような気がするんだ。なくなった記憶を思い出せそうな気がする。それに、もっと強くなっていつか魔王を倒さなくちゃいけないって気がして、立ち止まっていられないんだ」


「それたまに言うけど、魔王なんかいないだろ」

「‥‥そうなんだよなぁ」


 記憶をなくしたことと関係があるのか、ノイはたまに魔王を倒すと口にする。が、実際この世界で魔王なんて聞いたことがない。


 ありもしないものの打倒を夢見ているし、他者に対して世間知らずな慈悲深さがある上に実際冒険者としても強く、救おうと思えば大概の人を救えてしまう実力も備わっている。

 悪人を見わけはするが、あの村のように弱者が扮した詐欺師には騙されないとも言い切れず、そんなところが放っておけないとキャットは彼の旅についてきていた。


 しかし、その無謀ともいえる正義感には頭を抱えさせられることが多い。


「あ、ほら城が見えてきた。この調子なら昼過ぎにはつくんじゃないかな」


 キャットの心配をよそに、草原の向こうを指さしてノイは呑気に笑っている。

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