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24話-1 幕間/冒険者の話

 二人の冒険者がヘリオン城近郊最後の簡易関所へ到着したのは早朝のことだった。


 冒険者の一人は二十代前半の若い男で、鎧の類は身に着けず、獣の皮で作られた簡単な胸当てと腰に小さな短剣一つ下げただけの軽装。もう一人はまるで子供のような身長で、真っ黒いローブを頭から被り全身を隠している。


 二人ともそれぞれ肩掛けのかばんは持っているが冒険者というには手荷物が少なかった。

 子供が懐から財布を取り出してため息をつく。


「まぁた検問かよ‥‥。最後に村を出てからもう二回目だぜ。こんな建前だけ立派な門一つくぐるのに、一体どれだけ金が必要になるんだよ。よそ者泣かせの土地ってのは本当だな」

「まぁまぁ、ここが最後だし。あとは街の番所くらいだから、そういうなって」


 通常領地内には例え簡易であっても関所があるなど稀なのだが、ヘリオンはかなり警戒心の高い土地のようだった。

 どんなに小さな村や町でも必ず番所があって、立ち寄るには身元の照会と高額な通行税や滞在税を払う必要があった。


 もちろん、村や町に滞在しなければ支払う必要はないのだが、ヘリオン領はどこもかしこも魔獣だらけなので、安全を考えるなら魔獣除けの施されている門の中へ入る必要がある。

 普段は交代で周囲の警戒をしながら順番に睡眠をとったりするが、冒険者だって休める時にはしっかりと休まなければ体がもたないものだ。


 この街道は月に数度ヘリオン城主の元へ送られる積み荷や物資が通るため、魔獣除けが施されていて比較的安全と言える。魔獣除けを施した装備で身を包めばさらに安全だ。

 領民は日中なら護衛なしでも無事に城までたどり着けるだろう。


 街道沿いで寝泊まりすれば多少安全が約束されるが、夜間はそれでも完全とは言えない。それに多少安全だと今度は野党に遭遇する可能性も出てくるので、金があるうちは村でも町でも入るのだった。


 入った村に稼げそうな依頼でもあれば受けるところ、なぜか目立った討伐もなく、あっても薬草採取などの依頼のみ。極わずかな収入になるだけだった。

 おかげでヘリオンへきてから金は減る一方だ。


 いよいよ関所をくぐる。握った財布が心もとない音を立てるのだった。


「お前ら、鎧もなくよくここまでこれたな。本当に冒険者か?」

「おいそこの子供はフードをとって顔を見せろ」


 関所の門番達は二人の格好を鼻で笑ったが、若い冒険者が見せたギルドカードを見て表情を変えた。


「フードをとる必要はないだろ?」

「え、ええ‥‥はい。十分、です。どうぞお通りください‥‥」


 二人が通り過ぎた後、門番は顔を見合わせる。


「おい見たよな。S級なんて久々じゃないか? 荷物は収納魔法ってやつかもな。見たことないからカバンの中を確認すりゃよかった」

「やめとけよ。若いったってS級にそんなことしてみろ。首が飛ぶかもしれねぇぜ」

「だよなぁ。街のギルドへ行くつもり‥‥だよな。まさか知らないのか? あそこじゃろくな依頼は受けられないぜ」

「だろうな。こんな高い通行料払って、きっと明日には肩を落として帰ってくるぞ。それにしてもあの装備みたか? 収納魔法っても、鎧くらい普段から身に着けとくだろ。街道は安全ったって完璧じゃない。魔獣が出たらあの小さな短剣でどうやって戦うんだ? 街の向こう側はS級魔獣がうようよいるって噂の森だぜ?」

「いくらなんでもあの装備じゃ戦えないだろ。カバンに入ってるか、街で装備をそろえるんじゃないか。それとも戦士じゃなくて魔術使いか」

「どう見ても魔術じゃないだろ。あの街で装備なんか揃える金があったら‥‥ヘリオンの外で豪邸が建つんじゃないか」

「なんにせよ泣いて戻ってくるだろうな。なんてったってあの街は一番安い昨日のパンですら銀貨1枚だ」


 門番たちはその日一日中、物珍しい通行人の話をああでもないこうでもない、こうなるああなると好き勝手に続けた。


 冒険者達は関所を抜け丘を越えると、一面に広がる草原を進んでいた。


 人目がなくなったところで、目深にかぶったフードを取り払った子供は大きくため息をつく。その手には軽くなった財布が握られていた。


 子供の体は全身がふわふわとした灰色の体毛で包まれ、頬と額から後頭部にかけて黒の縞模様が入っている。頭の上には天に向かって尖った耳があり、大きな瞳にもちもちと丸い口元。

 彼は、子猫のような外見をした獣人だった。


「ノイ! ここの通行料さらに高くないか!? 前の街もだったけど、絶対にぼったくられてるよ。もう路銀が全然ない! きっとヘリオンの街についたってぼったくられるんだ。やっぱり噂通りじゃんか。なんたってそんなところにわざわざ行くんだよ!」


 獣人は怒ったような焦ったような口調でわめくが、その声も子供のように高い。ノイと呼ばれた男はあきれたように頭をかいた。


「キャット、それもう何度目だよ。何度も言ったろ? ヘリオン城の悪評を確かめるんだって」

「あのさぁ! 悪評なんか本気にして嘘だったらどうするんだよ! ‥‥あぁあ、おいらの金が‥‥」

「悪評そのいち。ヘリオン城へ近づくにつれ通行料やら物の値段が以上に高くなる‥‥は本当だったじゃないか。噂じゃパンを買うのに銀貨が必要だとか」

「確かにそれは本当だった。けど、それはほかの噂とは全然関係ないじゃんか」


 二人が向かっているヘリオン城には悪い噂が山ほどあった。大きく分けると二つだが、一つに物価が高いこと、もう一つは人攫いが多いこと。

 特に人攫いはヘリオンの悪評のほとんどを占めていると言っていい。ノイは人攫いの噂の真偽の方を確かめたくてここに来た。


 人攫いの噂は、ヘリオン領のとなりの領地にいたときから耳にしていた。最初は人を集めて何かしているらしいという話からはじまって、ヘリオン領に近づくごとに人を攫っているという話に変わり、やがて身内が攫われ死んだと証言する者まで現れた。


 しかもそれが一人や二人ではない。そのうちの一人に多少の恩があり、近くまでいくことがあれば街の様子をみてみると約束したことを、ノイは気にかけている。


「お金のことなら安心しろって。城周辺にはダンジョンボス並みの魔獣がうようよいる森があるらしいし、そこで一晩も過ごせば路銀なんか問題なく稼げるよ。その財布を金貨でぱんぱんにしてやるから」

「‥‥そうしてくれ」


 最後に立ち寄った村で一晩の宿に一人一枚の金貨を払う羽目になった。

 それは決して豪華な宿なんかではなく、ベッドなんて板張りの上に薄いシーツがしかれただけの本当に質素なものだった。その上、狭いベッドに二人で寝たのにも関わらずその料金だったのだ。普通なら銅貨数枚で泊まれる程度の宿だ。


 それが村唯一の宿‥‥というか村人の家の空き部屋‥‥だったのだから仕方がないといえば仕方がないが、あまりにもおかしい話だったのでキャットは宿の主人に食って掛かった。


 それをノイがとめて、なら村の隅で寝ようと提案したキャットを「税が高くてみんな困っているんだよ。これも人助けさ」などと説得して高額な宿代を文句も言わずに払ってしまった。

 いくら人助けとはいえ、それはないだろうとキャットは今も不満で仕方がない。


 事実ノイたちはぼったくられたのだが、宿の主人が貧相な身なりをしていたのは本当だし、村全体が困窮していて活気がなかったのも事実だ。


 だからか、ノイはいつもほとんど使わないポーションを買い込んだり、魔法のスクロールまで購入した。曰く自分たちが金を使えば彼らが助かるという。

 そう言って質の悪い干し肉でさえ、高額なのに買ってしまった。


 あんなものはすべて偽善的な無駄遣いだとキャットは今も怒っている。


 というより、なぜあんなまともな宿すらない小さな村に高価なポーションやスクロールがあったのだろうかと疑ってさえいる。きっと、貧相な身なりや困窮した態度は、ノイのように人のいいバカな冒険者や旅人から同情を得て金を巻き上げるための嘘に違いないと。

ここまで読んでくださりありがとうございます。


幕間は一人称視点ではなく第三者視点で書いてみようかという試みです。

チトセ視点が少女漫画なのでこっちは多少少年漫画っぽく書けないかなとそれも試してみたり。

幕間一週間くらい続きます。

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