表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/143

18話 おかえり、リュカ

 けど、飛び上がりたいくらい嬉しい気持ちだった。リュカが生き返るなんて夢のようだ。

 生き返ったリュカになんて言おう?


 ありがとう? それともごめんなさいが先の方がいい?


 色々考えを巡らせて、振り返った。噴水は中途半端に戻っているけど、リュカのお墓は私が土を掛けたままだ。


 リュカの姿は見えない。

 どこにいるのか、と考えてはっとする。


「埋まってる‥‥!」


 私は急いで穴に降りた。そして、自分が埋めたリュカを必死になって掘り返す。

 そう深く埋めたつもりはないけれど、掘ってみると案外と深くててこずってしまう。


 時計が戻し終えてからどのくらい経った?

 まだ十分も経ってないよね!?

 呼吸って、どのくらいもつもの!?


 土の中から出られずに、窒息死していたらどうしよう。


「だめ! 生き埋めなんてだめっ!」


 土は盛ったばかりなので柔らかいが、噴水の水が流れこんできて泥になってきているし、量が多い。必死に掘り進め、やがて指先が何かにあたった。

 必死にあたりを掘り進めると、ぼこっと土が跳ねて、中から動く腕が伸びてきた。


 ばたばたとして、その腕も自分で土を掘っている。息ができなくて苦しんでいるみたいだった。


「リュカ!」


 私は顔辺りと思われる土を優しく、けれど素早く掘った。やがて、人の鼻と口らしきものが現れる。


「ぷはっ! 死んじゃったかと思った!」


 顔中土だらけのリュカが、元気に言った。


「‥‥リュカぁ!」


 腕を掴んで土から引っ張り出すと、しっかり両目のついた顔を綻ばせてリュカが笑った。


「わぁ、チトセ、無事だったんだね。よかったぁ」


 生き返って早々私の心配をしてくれるリュカを抱きしめて、私は心の底から湧いてくる喜びをかみしめる。


「よかった! リュカが生き返ってくれた‥‥! リュカ、リュカ! 会いたかった‥‥! ごめんね、ごめん‥‥! 私を助けてくれてありがとうね! 本当に、ありがとう‥‥大好きだよリュカ!」

「えっ、えへっ? えへへぇ? どうしたのチトセぇ。て、照れちゃう‥‥えへ。僕もだよ、僕も大好き!」


 照れながらも抱きしめ返してくるリュカはえへえへと笑う。その声に妙な違和感を感じて、私は抱きしめていたリュカを離した。


「ぎゅってするのもう終わり?」


 寂しそうに言うリュカの声は、なんだか妙に高い。

 私はリュカの手をとる。その手もなんだか若干だけど丸みを帯びていて、柔らかかった。


 前に見た時はもっとこう、男の子って感じの手じゃなかったっけ。


「リュカ、なんか小さくなってない?」


 不思議な違和感の正体はそれだった。

 私の目にはリュカがサイズダウンして見えているのだ。具体的に言うと、年齢がいくつか下がったような気がする。


 リュカは首をひねった。


「えっと。僕が生きてるってことは、きっとキルターンが戻してくれたんでしょ? いつもねぇ、こうなるの」

「こうなるって?」

「キルターンとはじめて会った時の僕に戻っちゃうんだよ」

「‥‥え」


 つまり、やはり若返ったということなのだろうか。


「ちなみに、リュカってキルターンと会ったのは何歳の時?」

「うんと‥‥ごめん。わかんないや」


 まじまじと見つめる。顔つきや体つきの幼さは小学校高学年から中学生くらいに見えるような‥‥。


 死ぬちょっと前に戻せばよかったのに、なぜそんなに戻す必要があったのだろうか?

 これだけの時間を戻したから、時計があんな風に燃えたんじゃないのだろうか。


「リュカ、立てる?」

「うん」


 土の中から起き上がらせて並ぶと、思った通り今のリュカは私より若干背が低かった。それでも百六十ちょっとある私より少し低いくらいなので、小学生にしては高いが、高校生にしては低いくらいかもしれない。

 大体中学生くらいだと思っておこう。


「リュカ、体おかしなところはない? 若返っちゃったって、大丈夫?」

「大丈夫だよ。ほら、おなかも元通り」


 ぺらっと服をめくると、あばらが多少浮いているものの幼児体系的にぽっこり膨れた健康そうなお腹が現れた。内臓もきちんと入っているようで安心する。


 全体的には痩せているものの、よく見れば頬は前よりふっくらしているし、土で汚れているが目の下にあったくまもそこまでじゃない。


「よかった。とりあえず平気そうだね」

「だから、大丈夫だってば」


 そう言ってリュカは私に飛びついてきた。


「きゃ! どうしたの?」

「だってぎゅってしたかったんだもん」


 そう言って私の首元に泥だらけの頭をぐりぐり押し付ける。その様子は小さな子供そのものだった。


 中学生の時、小学校へボランティアで遊びに行ったことがあったが、低学年の小さな子たちがこうやって甘えてきたことがある。その子達よりもリュカはずっと年上のはずだけど、もしかしたら精神まで退行しているのだろうか。


「ねぇ、リュカ。泥を落としたら一緒にお菓子作らない?」

「え、お菓子? 作りたいっ! 僕お菓子大好き」


 にへっと笑うとリュカは私の手を引いて穴を駆け上がった。私も一緒になって走る。


 どんな姿でもリュカはリュカだ。それは変わらなかった。


 リュカがいてくれて嬉しい。生きていてくれて嬉しい。できればもっと一緒にいたいし、このまま一緒に行けたら嬉しい。


 けれど、私の中には迷いがあった。


 だってきっとリュカを連れて行ったら私の身代わりになって、私をかばってあの子は死んでしまう。それが簡単に想像できてしまう。

 そんなのは嫌だった。

 もう絶対にリュカの死体なんかみたくない。


 けど、きっとリュカは自己犠牲をやめないだろう。だって、人の役に立つことをとても嬉しく思うような優しい子だから。

 だから、置いて行くしかない。夢の国に帰ってもらうしかない。


 私は楽しそうに歩いて行くリュカに、どう切り出そうか考えた。

 リュカは素直に聞いてくれるだろうか。説得が無理でも、夢の国の誰かがどうにかしれくれないだろうか。


「あ、クッキー!」

「リュカ! 落ちたもの食べないで。まだあるから!」


 私が落としたクッキーをみつけて拾い食いするリュカに駆け寄る。私がクッキーの包みを拾い上げた時にはもうすでにリュカの口の中には何個かのクッキーが入っていた。


 呆れる私を前に美味しそうに顔を綻ばせるリュカを見ると、なんだか愛しくて、微笑ましく思ってしまう。

 やっぱりリュカといると楽しくて明るくなれる気がする。


 ずっと一緒にいたいけど、この子のためを思うなら私のこれはエゴなんだと自分に言い聞かせる。

 お菓子を作り終えたら、切り出そう。それまではまだ今を楽しもう。


 お城へ入っていくリュカを追いかけながら、私はぐるぐると考え続けた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ