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1-3-1話 お城

 飛行機から降りたら、目の前にお城がありました‥‥。


 空には月が昇り、やんわりとした明かりで周囲を照らしてくれている。そのおかげで噴水があって、低木があるのまでちゃんと見ることができた。電灯とかの照明はないものの、目が慣れると案外普通に明るい。


 飛行機の出口、降り立ったここがこの庭のちょうど真ん中のようだ。そこまで広くはない庭を、私は物珍しさできょろきょろ見渡す。

 海外への修学旅行なら、こういうお城を見に行くっていう方が嬉しかったかもしれない。


 まぁ、一応昔の建物は見たけど、日本とそう変わらないつくりの建物だったから、目新しさは感じなかった。もちろん、建築方法は違うと思うよ? でもそういうことじゃなくてさ。

 なんていうか、こういういかにもな西洋風のお城のほうが、見慣れていない分なんだかわくわくするんだよね。


 レンガとは違う石を積み上げたような見た目の円形の塔。その塔をぐるりと囲むように同じく石で作られた壁があって、三階建ての母校より高そうだ。壁の向こうにもお城の一部が見える。

 壁には窓らしき穴が等間隔で並んでいた。窓は円形の塔にもあって、上に向かって斜めに窓が開いている。


 また庭を見渡す。四方を高い壁に囲まれた、ここは中庭的な場所だったらしい。


「あれ、飛行機は?」


 ふと気が付くと、私の前にも後ろにも、あるのはお城の景色だけだった。

 今しがた降りてきた飛行機の通路はおろか、飛行機自体が見当たらない。


「こことあそこは空間が違うから、もう戻れないよ。忘れ物した?」

「‥‥夢ってそういうものよねぇ」


 しみじみとそう感じる。


 さっきいた場所と今いる場所の連続性などまるでない。なのにそれを不思議に思うことすらない。それが夢の不思議なところだ。


 一人納得していると、肩の上のリュカがまるで言い聞かせるような口調で言う。


「チトセ? ここは夢の中じゃないよ」

「うんうん。リュカにとってはそうだよね」


 リュカは夢の中の住人だから、そうよね。

 さらに私が納得を重ねていると、リュカは不満げにうーんと唸る。


「そうだけど、そうじゃない‥‥。チトセはここを夢の中だって思ってる?」

「当たり前でしょ」


 私は言い切る。


「違うからね? ここは夢の中じゃ‥‥あ、だれか来るみたい。チトセ、噴水の陰に隠れるよ」


 軽く私の肩を蹴って飛び降りたリュカの重みに、なんだか違和感を感じた。噴水へ向かう背中を見て、あっと思う。


 てぽてぽ歩いていく人形はさきほどより大きくなっていた。

 手のひらサイズだったのが人間の赤ちゃんくらいの大きさになっている。さっきのぬいぐるみマスコットがそのまま大きくなったのではない。手足も伸びている。


 ‥‥というよりパーツ自体が変わっていて、両腕両足がアンティークのテディベアみたいに肩のところでボタンで縫い付けられている。

 さっきまでのぬいぐるみマスコットの時より格段に動きやすそうで、実際先ほどよりは素早く動けている‥‥ように見える。


 そうそう、本当に夢ってすぐ物のかたちが変わるんだ。


 私がそんなことを考えてのんびりしていると、リュカが急いでと言わんばかりに激しく手招いた。こちらを見るリュカの両目には黒い丸いビーズがついていて、つぶらで可愛い。


 夢の案内人のいう通り、私も噴水に隠れる。

 私が噴水の陰に猫みたいな体制で隠れると、リュカは両手を振っておまじないをかけるみたいに言った。


「呪術 かくれんぼ」

「なにそれ?」

「しぃー。姿は隠せるけど、声は隠せないよ」

「はーい」


 その、呪術ってのが気になったのだけど、まぁ魔法みたいなものだろう。夢の中なので魔法とかがあってもなんら不思議ではない。


 ただ、私ってそういう不思議な力が出てくるようなファンタジーな夢を見る人間だってことに自覚がなかったから、そこには驚いている。

 でも魔法じゃなくて呪術というチョイスには私の根暗さが表れてる気がして、やっぱり私の夢だなぁと悲しくも納得できた。


 呪術って文字からして呪いでしょ? 魔法少女を夢見たことはないけど、女の子の憧れって言ったら藁人形よりフリルドレスじゃない? 夢なんだから、可愛く魔法でいいのにさ。ほんと、私ってこう‥‥。


 そんなことを考えながら丸まっていると、噴水の向こう側の方で扉が開く音がした。


「あっちに扉なんてあったっけ」

「しぃ!」


 リュカに怒られつつ、噴水の陰からそうっと見てみる。


 塔から何人もの人たちがでてきたが、飛行機の乗客とは違うようだ。

 制服なのだろうおそろいの服を着て、ランタンを手に持っていて、腰には剣が下がっている。きっとこのお城の衛兵だのだと思う。衛兵は三人。


 今から休憩でもするのだろうかとみていると、どうやら何かを探しているみたいにきょろきょろしている。


「誰もいないぞ。あれで全員なんじゃないか?」

「けどヘリオン子爵は中庭で人の気配があったって言ったしなぁ」

「でも実際、誰もいないだろ」

「おかしいな。城主様の魔術に間違いはないはずなんだが」


 衛兵は中庭を回る。きっと私たちのことを探しているんだと思った。

 この人たちに聞けば、先に飛行機を降りたほかの乗客のところへ案内してくれると思うのだが、なんだか見つかるのはまずいという気もする。見つかったらまずいから、リュカは隠れたわけだろうし。


 それにしても、私たちは本当に見えていないようだ。


 衛兵の一人が私の方へ歩いてくる。視線は私を見ているというよりは、噴水を見ているみたいだった。そして私の頭の上から噴水をのぞき込んで誰もいないと鼻を鳴らし、他の仲間のもとへ戻っていった。


 リュカの呪術はすごい効果だ。


「ああ。いない。きっと間違えだ」

「しっかり探したか?」

「この狭い庭のどこに隠れる場所があるってんだ。そういうならお前も探してみろよ」

「魔術で姿を隠していたりして」

「んなわけあるか。魔法が使えない奴らを召還したんだろ?」

「まぁいい。子爵に報告しよう」


 衛兵たちはぶつくさ言いながら戻っていった。扉が閉まる音がして静かになる。

 塔を見上げると、衛兵が手に持っていたランタンの明かりが塔の窓から見えて、それが段々と上がっていって、最後には壁の向こうへ消えていった。


「危なかったねぇ。僕らも行こう」

「本当に隠れられたね。すごいね。魔法、じゃなくて呪術」

「そう呪術! 魔法とは違うよ。魔術に近い‥‥のかな?」


 子供の時に見たアニメのおかげで魔法には悪いイメージはないけど、魔術と聞くと黒魔術が思い浮かんで怪しいし、呪術と聞くと人を呪い殺すような悪いイメージが浮かぶ。


 リュカって目がボタンだったり、どこか不気味かわいいところがあるから、やっぱりホラー寄りの人形なのかな。呪いの人形だったりして。

 布と綿の詰まった体でてぽてぽと歩いているのを見ていると、呪いの人形というよりはかわいいマスコットキャラって感じだけど。


「呪術とか魔法とか、それってなんか違うの?」

「よくわかんない」


 なるほど。これが私の想像力の限界なのね。夢ってその人の知識以上のことは起きないって聞いたことがあるし。当たり前だけど。

 まぁ、この夢の中には少なくとも呪術、魔術、魔法が存在するのかぁと思っておけばいっか。


 そういえば衛兵がもう一つ気になることを言っていた。召喚とか、なんとか。リュカに聞こうと思ったけれど、さっさと塔へ歩きだしていたので慌てて追いかける。


 私たちは衛兵が出入りしていた扉をそっと開けて塔の中へ入った。


今日も読んでくださりありがとうございます。


話数は1-3-1で1章3話分割その1‥‥のつもりですが、まとまった話数上がったあと見た目とか並び方を見て整えるかもしれません。


明日も朝7:40に投稿予定ですので、読んでいただけますと嬉しいです。

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