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10話-2 悪夢の城からの脱出計画

 階段は長かった。


 高校の校舎の感覚だともう五階以上は降りてる気がするのに、一向に一階に辿り着かない。窓から見える景色もずっと星空だ。なんだか、同じところをぐるぐる回っているような気がしてくる。


 そういえば、こんなことはここにきてからずっとだったなと思い出した。けれど進めばいつかはたどり着くって話だったよね。少なくとも今まではそうだった。


「はぁ、は‥‥」


 階段を下りているだけなのに、段々と息が上がっていく。空気が重たくなっていく気がする。

 足がおぼつかないのは、疲れているから?

 今日さんざん寝ていたというのに?


 これ以上リュカに心配されたくない。私が悪いのに、優しくされたくない。


 これ以上、自分の嫌なところをみたくない。自分がとても自分勝手で嫌な奴だったことを知るのがこわい。


 黙って歩き続けた。


 しかし、妙な疲労を感じてから更にどのくらい降りた頃だろう。

 階下に行くにつれて重たい空気が増し、それは私の両足に、肩に、全身に鉛のようにまとわりついてきた。地面に近づいているはずなのに、まるで登山をしているように空気が薄くなっていく。


 リュカに気づかれないよう、私はできるだけ小さく呼吸をしたが、そのせいで少し酸欠っぽくなってきた。


「はぁ、はぁ‥‥きゃっ‥‥!」


 酸欠のせいだろうか?

 視界がくらみ、足がもつれ、私は前のめりにつんのめった。なんとか壁と階段に手をついて転げ落ちることだけは阻止したものの、膝と脛を思いっきり階段の角にぶつける。


「あッ!」


 あまりの痛みに悶絶していると、すぐにリュカが駆け寄ってきた。よくみえないが、音と黒いシルエットがなんとなく見える。


「だ、大丈夫!?」

「だ‥‥だいじょうぶ‥‥。痛っ! つ‥‥ぅ」


 立ち上がろうとしたものの、ぶつけた個所の痛みがひどくて再度しゃがみ込む。動けなかった。

 痛む足をゆるゆると伸ばし、具合を見てみるが暗闇で見えない。ただ、血は出ていないように思えた。


 ひどい痛みに触れるのがこわく、どうしようか悩んでいると痛ましいものを見る声が聞こえてくる。


「ああ‥‥痛そう‥‥」


 リュカには私の足の様子が見えているようだ。


「足、どうなってる?」


 両足の指は曲がるので、折れてはいないみたいだ。だけど、リュカの手が私の脛に触れるとずきんと痛んだ。


「ここが青くなってる。腫れてる‥‥のかな? あと、こっちの足は膝が擦り剝けて少しだけ血が出てる」

「そっか‥‥。けど、折れてるわけじゃなさそうなの。大丈夫。歩けるよ」


 割と涙がにじむくらい痛いのだけど、今はそんな弱音を吐きたくなくて私は嘘をついた。


 さっきの痛み具合だと、脛の方はあまり使えそうにない。膝の方はまだマシなので、多分片足でけんけんすればなんとか階段を降りることくらいはできるだろう。


「なんだかチトセ、顔色が悪いみたい。それにはぁはぁしてて苦しそうだし。ほんとは凄く痛いんでしょ?」


 リュカにはこの暗闇の中でも私の顔色まで見えているらしい。暗いから隠せると思っていたのに、とんだ誤算だ。


 けれど、こうなった以上、少しだけ本当のことを言った方がいいかもしれない。その方が、リュカも心配しないだろう。


「ううん、大丈夫。けど、ここ酸素薄いのかな‥‥。ちょっと息苦しいの。でもそれだけだよ。歩くのに問題ないから、心配しないで。‥‥リュカは平気? 疲れてない?」

「うん。僕はぜんぜん平気。‥‥けど、チトセが苦しいならもしかしたらここってやっぱり何かあるのかも。ほかには何か変なことない?」

「‥‥何かって?」

「例えばここ、階段がずっと続いてるでしょう。登ってくるときはこんなになかったのになぁって。不思議だなって思ってたんだけど、もしかしたら魔術とか、呪術とかが仕掛けてあるのかも。お城の廊下とかもそうだったよね。‥‥ごめんね。もっと早くに気づけばよかった」


 やっぱりそうなのか。それならもう十階以上は降りている気がするのにいまだに一階に到着しないことに説明がいく。それに、確かに外に繋がるかもしれない場所になんの罠もないなんておかしい。


 私は唇を噛んだ。


 私がもっと早くに異変を口にしていたら、リュカだってきっとすぐに気づけたのに。

 だとしたら、もう遅いかもしれないけれど包み隠さず言った方がいい。


「‥‥私こそごめん。もっと早くに言えばよかった。‥‥実はね、ちょっと体が重いの‥‥。疲れてるのかなって思ってたんだけど、それも関係ある‥‥かな」

「かもしれない。これが呪術なら僕にはあんまり効かないから。けど、そうだとして‥‥僕は平気なはずのに、僕も階段を降り続けてるから‥‥えっと‥‥」


 リュカは混乱しているようだ。

 この現象が呪いだとして、呪いが効きにくいリュカは私みたいに息苦しさや体の重たさを感じていない。なのに彼も永遠に続く階段を降り続けている。


「両方なのかな」

「え?」

「私が苦しいのは呪術で、階段が続いているのは魔術‥‥とか」


 暗闇でリュカが手を叩いた。


「そっか。そうかも!」


 謎が解けた解放感からか、その声は明るかった。しかし、すぐに声のトーンが落ちる。


「僕、魔術って解き方を知らない‥‥どうしよう‥‥」


 これが脱走者を逃がさないための魔術だとしたら、当たり前だが私にはそれを解く術などない。リュカも知らないというなら万事休すというやつだ。


「僕‥‥なにもできない‥‥」


 目の前の人影からしょんぼりした声がする。必要以上に落ち込んでいるリュカを励まそうと思うが、どう励ましたらいいかわからなかった。


 魔術が解けないといけないなんてことはない。魔術のことよく知らないけど、それがこの世界のあたりまえだとして、例えば私の世界で言うと車の運転とかに該当するのだろうか? ‥‥だとしておこう。

 ‥‥だとしても、免許がないといけないわけがないし、ペーパードライバーだって普通にいるし。


 私なんか魔術も呪術もできやしない。リュカが落ち込む理由なんてない。だけどそういうのを上手く言えない。


 ただ一つだけ確かなのは、リュカが私を守るってことに責任感を感じてくれているってこと。責任感の強さ故に、私が困るとそれも自分のせいだと感じてしまうのだろう。真面目でいい子だ。


 ‥‥人のことばかり考えて、いい子すぎない?

 私とは正反対だ‥‥。


「ありがとう、リュカ」

「え? ‥‥僕、何もしてないよ」

「そんなことないよ。リュカ、一生懸命私を助けようとしてくれてる」

「そんなの‥‥。だって、約束したじゃない」

「だからありがとうって言ってるの」

「え、えへ‥‥。なんだか、よくわかんないけど‥‥」


 遠慮がちなリュカが自信を持ってくれると嬉しいなと思う。だって私、リュカがいてくれて本当によかったって何度も思ってるし。

 そこで、一つ思い浮かんだ。


 魔術“は”解けないってことは、呪いは解けるってことかな?


「えっと、とりあえず、私にかかってる呪術は解けるんだよね?」

「あっ! できるよ」


 リュカも忘れていたらしく、言われて思い出したようだ。


 やっぱりね、ほら、役立たずなんかじゃないじゃんと言おうとしたけど、その前にリュカが焦ったように呪文を唱えるものだから、私は口を挟むことができなかった。


「呪術 幻惑の踊り子」


 それを聞いた途端に私の視界はぷつんと消えて真っ暗になった。

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