表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
137/144

24話-2 穏やかな春の庭

 テントから出ると、辺りは薄暗くなっていた。ダンジョン内でこうやって朝と夜の演出があるのは珍しくないことらしい。ただ、念のためスベディアとシントラスが周辺の確認に向かう。昼間は安全でも夜になると魔物が出てくる、という場所もあるからだとか。


 魔人は相変わらずなんの気配もないと言い、やがて戻ってきた2人も異常はなかったと言った。


 それから、噴水を挟んだテントの反対側で夕食をとる。私達の分も用意してくれたのでありがたくいただくことにした。


 受け取ったのはレーションっていうカロリーメイトみたいな食べ物だ。ダンジョンに入る時なんかに持ってくる、手荷物を少なくするための携帯食らしい。


 はじめて食べるものだからわくわくしながら口に入れたけど、絶妙においしくなかった。


 食感は乾パンみたいに固くぼそぼそしてるくせに、咀嚼していると全体に妙な一体感が出てきて、粘土っぽくなっていく。あと増えるわかめみたいに一口がどんどん膨れてくる。


 味は甘い塊としょっぱい塊がまばらに混じっていて、これもまた両極端な感じ。砂糖と塩を直接口の中に入れるよりは香ばしくて美味しいけど、綿あめとポテトチップスを同時に食べている感じの甘さと塩辛さっていうのだろうか。


 魔人だけは物珍しそうに笑顔で食べていたけど、まるで足りないとお決まりのセリフ。魔石はないから困ったけど、今日は下でゾンビをたくさん食べたから魔力的には十分だって言うので安心する。


 リュカを見ると、あまり食が進んでいないみたいだった。まぁ、美味しいとは言えない味だもんね。


 けど、こんなバータイプのおやつみたいな見た目で、レーションには十分な栄養が詰まっているというから驚きだ。あんなに沢山動いた皆さんも、これを口にするだけで夕食がおしまいになるくらいだから、もしかするとカロリーおばけな食べ物なんだろうか。


 それでもカロリーメイトだけじゃお腹いっぱいにはならない。膨れるから変に胃は重たいけど、なんだか物足りない。

 バッグの中に村で分けてもらった食料があるのを思い出したが、それを言うと団長は首を振った。


「それは足りないと思った時、君たちで食べるといい。我々はこれで十分だ。その気持ちだけ受け取っておこう」


 他の方々も遠慮するので、私たちもそれ以上言うのはやめた。


 そのあと、体を流すためにガゼボの向こうにある小川まで行く。


 団長から、魔物は出ず安全な階層とはいえダンジョン内で1人になるのはやはりよくないと言われてしまい、それならとリュカがついて来てくれた。


 ガゼボからは小川が一望できてしまう。見ないでねと言ってあるから、リュカが覗き見するとは思えないものの‥‥その気になれば見える場所で裸になるのはさすがに勇気がいった。


 どうせならもうすでに裸を見られたことがある魔人が来てくれればよかったんだけど、体力と魔力温存のため無駄に動きたくないと言って来てくれなかった。


 我慢しようかとも思ったんだけど、次いつ水浴びできるかわからないし、何より全身にゾンビの臭いがついてる気がするから、どうしてもそれだけは洗い流したくて仕方ない。


 リュカがあっちを向いている間に手早く水を浴びる。何度かガゼボの方を見たけど、約束した通りリュカは向こうを向いてくれていた。

 だけどやっぱり恥ずかしいので、そそくさと体を拭いて、まだちょっと濡れてる感じはあるけど無視して服を着る。


「んん?」


 なんだか、お腹に違和感。お腹というか、腰というか。


 空気はあたたかいとはいえ、水は冷たかったから、ちゃんと拭かなかったしちょっと冷えたかもしれない。なんだかうっすら痛みを感じる気がする。


 もしくは、慣れないレーションを食べたせいだろうか。どちらにせよ、どうかこんな場所でお腹を壊しませんように。


「おまたせ。リュカもどうぞ。私、ここにいるから」


 ガゼボに戻り、じっと座り込む背中に声をかけたが返事はない。


 リュカはベンチに座って静かに俯いていた。寝ているのかと思えば目は開けていて、じっと床を見ている。


 いくら裸を見るなって言ったって、なにもそこまでしなくても良いのに‥‥と思ったがどうもそうじゃない様子。


 隣に座ると、不安そうな瞳がじっと見つめてきた。やはり、何かあるらしい。


「ねぇ、チトセ。エルダー平気かな」

「心配だよね。今日はちゃんと起きてようね」

「んと、‥‥うん」


 まだ何か言いたげに、リュカは目を泳がせる。言葉を待つ間、私は暗い庭園を見つめた。眺める庭はところどころ光っていて、神秘的な光景だ。


 夕食の時、階層が完全に暗闇に包まれると庭園には自然と明かりが灯った。それはぼんやりと光る花びらだったり、キラキラと光る水面だったり、蛍かと思ったらヒイラギの実だったり。一つ一つは小さく不安定な光だけど、そこらじゅうが光るから視界は悪くない。


 座るガゼボも蓄光のような緑の光を放っていて、ここにいるだけで疲れが飛んでいくような気がした。原っぱダンジョンの癒しの泉も入ったら疲れが取れたから、きっとここも同じような効果がある場所なんだろう。


 ここにいると、景色も温度も何もかもが穏やかだから、なんだか眠たくなってくる。まさに癒しの空間。癒しの階層。


 私はそんな景色を眺めて不安が灯る心を落ち着けながら、リュカが話してくれるのを待った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ