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21話-1 合流

 完全に霧が晴れる頃、レバネ達4人が迎えにきてくれて、私たちはやっと彼らと合流できた。


 私たちよりずっと先で戦っていたらしい彼らは全員無事で、しかしその顔には明らかな疲れが見える。

 倒れたエルダーを見て一瞬強張った顔をした彼らだが、ことの顛末を話すと心底安心したように笑った。


 ザギが気絶しているエルダーを担ぎあげ、レバネが団長が待つフロアの先へ進もうと言う。すると口の端を下げた魔人が騎士を睨んだ。


「待て。まだ喰い終わっておらん」

「ですが男爵閣下、‥‥うっ」


 腐った死体を齧る姿に全員が顔をしかめた。もちろん私たちも。


「ごめんなさい、皆さん。おじいちゃん、ここの死体を全部食べないと気がすまないみたいで‥‥」

「たわけ。当たり前じゃ。ここ2日、わしがどれほど空腹じゃったと思うておる! あともう少しで貴様ら全員喰っておったところじゃぞ」


 私は魔人を見ないように反対側を向いているけど、騎士の皆さんは失礼にあたると思っているのか視線を逸らしながらも魔人の方へ体を向けていた。


 後ろから熟れたスイカを齧るような音がする。今頭を食べたんだなと想像ができてしまった。


「こやつらが魔石を用意しておったおかげでなんとか足りたがな。しかし、じゃからといって未だ足りんものは足りんのだ。それにせっかくの肉じゃぞ。残してゆくのは嫌じゃ」

「けど、おじいちゃん。エルダーさんの治療とか、皆さんだって疲れてるんだよ」

「そやつはもう大丈夫だと言うたろう。せめてあと1時間は待て。この先にも主らが倒したゾンビ共の死体があるのじゃろう? 次の階層へ進むのはそれらを全て喰ってからじゃ」


 見えないが、魔人はがつがつと腐肉を食べ続けているらしい。その光景を顔を歪めて見つめているリュカのそばに行き、顔をそっと向こうに向かせる。

 嫌なら見なくていいんだよと言うと「ありがとう、そうする」と小さな声が返ってくる。


 魔人の意見を無視できないと4人はレバネを囲んで相談を始めた。


「レバネさん、どうします。この階層はもう安全と思いますから、一旦閣下の食事が終わるのを待ってから進んだ方がいいのでは」

「俺もスベディアに賛成です。ここの階層の魔物はおそらく、これで全てのはず。団長に言って待ってもらいましょうよ」


 スベディアともう一人に説得され、レバネはうーんと唸ったが、頷いた。


「だなぁ。エルダーの奴も次の階層に進む前に起こしてやらないといけないしなぁ」

「エルダーの傷、深いっすね。塞がってはいますが、それにこの痕。早いとこ教会へ行って浄化しないとまずいんじゃ」


 ザギが言うように、私もあの傷はやばいと思う。しかしレバネは「いやいや」と何でもないように手を振った。


「この程度なら問題にゃならないさ。もっとひどいのを見たことがあるからな。あん時も3日は大丈夫だった」

「それでも、だいぶ血が流れてますよ。落ち着いた場所でゆっくり休ませた方がいいと思います」

「まぁ、それはおじさんも賛成だけど。ゾンビ相手にして、疲れちゃったからなぁ。エルダーを休ませる間、おじさんも休みたいなぁ」

「またまた、先輩~」


 仲の良い人たちだ。疲れているだろうに、彼らのやりとりには笑顔が絶えない。


 それに彼らが笑ってくれるから、エルダーも大丈夫なんだと思える。


「おいおい、冗談じゃないんだからな? 年なんだよ、おじさんは‥‥」

「ならひとまず、分かれて行動しましょうか。ザギとレバネさんは団長と合流して、エルダーを休ませる。で、俺とシントラスがここに残るのはどうでしょう」

「んー‥‥。そうしてもらっても、いい?」

「いいですよ。レバネさんが動けないなんてことになったら、背負っていくの大変ですし」

「そりゃそうだ」


 楽しそうな相談は決まったらしい。


 レバネ、ザギはエルダーを連れて団長と合流。スベディアとシントラスがエルダーに変わり私とリュカの護衛をしてくれることになった。


 エルダーが心配だから私も先に行っていいか魔人に聞いたが、それは却下された。


「なんでよ。おじいちゃん1人がここに残って、ゾンビを食べながら私たちを追いかければいいじゃない。エルダーさんの傷だって、もしかしたら聖水とかもっと必要かもしれないのに」

「僕もエルダーが心配だよ、おじいちゃん」

「ならん。リュカはともかく、貴様はわしと契約しとるだろう。これは契約者の責任じゃ、決まりじゃ。わしを置いて行くことは許さん」


 自分は森で私たちを置いて行ったし、原っぱのダンジョンの時は地上に残して行こうとしていたのに。そう言おうかと思ったけど、これ以上揉めて時間を無駄にするくらいなら黙って待つことにした。


「仕方ないなぁ。けど、リュカは先に行ってもいいんだよね?」

「かまわん」

「じゃあ、リュカは先に行きなよ。これは私と魔人の問題だしさ。先に行って、エルダーさんについていてあげて。バッグ預けるから、必要なものがあれば」


 なんでも使って、と言ってバッグを肩から外していると、リュカは首を横に振った。


「ううん。チトセが残るなら僕もここに残る」

「え? そう?」

「うん。残る」


 とか言いつつも、リュカの視線は私とエルダーとの間を行きかう。


 優しいリュカの事だから、このグロテスクな現場に残される私を心配してくれているんだろう。けど、それはそこまで気にしてもらう必要はないことだ。ゾンビを食べる魔人の事なら、見ないよう目を閉じていればいいわけだし。


 現状一番心配なのはエルダーだ。

 レバネがああいうなら大丈夫なんだろうけど、やっぱり気になる。リュカがエルダーについてくれて、もし万が一黒い傷痕が進行するようなら聖水を使って欲しい。


 リュカだって本当はエルダーのそばにいたいはずだ。なぜならエルダーはリュカにとって特別に大切な友達の1人、なんだと思うから。


「いいんだよ、本当に。おじいちゃんいるし、私は平気だから。すぐ追いかけるし」

「ううん! 僕ここに残る」


 けどリュカはそう言って私の手を力強く握る。ので、私もそれ以上言うのをやめて頷いた。


「レバネさん、これ聖水です。もし必要なら使ってください」

「えっ、聖水? すごいねぇ、今時珍しいのに。ありがとう、持ってくね」


 そうして3人を見送った後、残った2人は私たちに軽く会釈をし、自己紹介してくれた。


「俺はシントラスと言います。こっちは」

「スベディアです。俺たちエルダーより3年先輩なんで、安心してくださいね」


 ここまで一度も直接会話をしてこなかった2人だけど、兜の前面を開けると優しそうなお兄さんたちが出て来た。スベディアは顔に傷があって少しいかついけど、気の良さそうな笑顔をくれる。


「チトセです。よろしくお願いします」

「僕、リュカ‥‥」


 リュカは人見知りでもしたのか私の後ろから不安そうに2人を見つめる。


 悪魔と呼ばれたあの夜から、リュカは騎士たちを警戒している節がある。


 自分を悪魔と呼んだエルダーとは和解したものの、自分に向けられた害意を忘れられないのだろう。剣を向けられ、睨まれ、リュカは相当恐怖したに違いない。

 それがあるから、きっとこんな風に私の影で小さくなっているんだろう。


 その様子にシントラスが膝を曲げた。リュカと視線を合わせて手を差し出して、笑いながら「よろしくね」と声をかける。

 それはまるで小さな子供に対する仕草で、少し驚いた。


 リュカは確かに子供っぽいところがあるけど、身長なら私と同じくらいある。いくらなんでもそらは子供扱いしすぎではと思ったが、効果はあった。


 差し出されたシントラスの手を、私の後ろからおずおずと手を伸ばしたリュカが掴む。スベディアも同様に手を出してくれて、2人と握手を交わしたあとのリュカには笑顔が戻っていた。

 その様子を見て、なるほど、と感心する。この2人も子供の扱いが相当上手いと見える。


 エルダーほどではないにしろ、リュカは2人の事を興味ありげに見上げ「2人もゾンビと戦ったの?」なんて質問している。騎士が返事をくれるとリュカは嬉しそうな顔をして次々質問を繰り出した。


 質問の多さを気にすることなく2人はリュカと話し続ける。時たま私にも会話を回してくれて、なんだか居心地がいいと感じた。


 そんな中突然背後から不気味な破裂音が響いてきて、和やかだった空気は一転する。

 溜まったガスが抜けるような音と、湿った何かがぼたぼた落ちる音。


 音に反応して顔を上げた2人は、私の後ろを凝視したまま顔を引きつらせた。魔人の食事を目の当たりにしたのだろう。


「い、いつも‥‥あんな感じなんですか?」

「ええ、まぁ‥‥はい」

「昨日もここの下見の時拝見しましたが、あの時はスケルトンでしたから‥‥」

「ゾンビは、なんと‥‥言うか‥‥」


 それきり言葉をなくす2人にリュカが助言する。


「あのね、嫌なら見なくてもいいんだよ」

「そう、ですね‥‥」

「そうします」

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