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17話 魔石が底を尽きました

 予想通り、この階層にはいくつかのトラップがあった。


 一つは石畳に隠れたスイッチを踏んでしまうと発動する槍だ。

 階下で魔人を串刺しにしたのと同じ罠で、スイッチを押せば地面から天井から真横から、瞬きの間に数本の槍が飛び出てくる。


 二つ目は矢だ。

 こっちはスイッチを押して発動というよりは定期的に飛ばしているらしい。もしくは人感センサーがついてるか。


 カンテラもない真っ暗な通路奥から突然飛んできて、スケルトンが放ったものかと思えば壁に埋め込まれた装置が作動していただけだったり、実際スケルトンだったりする。


 この階層のカンテラは真下を通る時だけ明かりが灯る謎仕様になっている。だから基本的に廊下の向こうは真っ暗で、何も見えない。


 私にも騎士団の方々にも見えない通路の奥の闇の中が、リュカには見えているみたいなんだけど、まさか彼を先頭に連れて行けるわけもない。魔人も見えているみたいなんだけど、手伝う気はないらしい。


 これらのトラップや現れるスケルトンの対応は階下と変わらず騎士団の方々に頑張っていただいている。


 とはいえ魔物は音を立てるから、飛んできた矢が罠か魔物のものか、一応判別はつくらしい。さすが騎士団、プロの方々だ。


 問題は装置で、作動するまでなんの予備動作も音もないから、気が付けば矢が飛んできている。まぁそれも団長の反射神経で全て薙ぎ払われてしまうんだけど。


 スケルトンが潜んでいる時はフェグラスが先頭で盾になりつつ、弓を持つザギが団員にからかわれながらも一体一体確実に倒していった。


 暗闇の中のスケルトンの倒し方はこうだ。まず火のついた矢を放ってから、暗闇の中スケルトンの位置を確認し、改めて射る。少し時間はかかるものの、姿さえ見えてしまえばザギは外さなかった。

 彼が「これで30体目!」と叫び弓を放ったところで、トラップ位置の確認に行った精霊が戻ってきた。


 あらかた敵を倒したあとで立ち止まり、マップを覗き込む面々。確認しているのはフェグラス、レバネ、スベディアの3人。ザギとシントラスは周囲の警戒にあたっている。


 彼らの後ろで、エルダーと並んでその様子を眺める私はなにもできることがなく、ようは暇だった。


「団長さん、本当にトラップ平気なんですね。どこからきても全部壊しちゃう」

「でしょう。‥‥だから我々も感覚が麻痺してしまうんですよ」


 進みだしてからここまで1時間ほどだろうか。この間、フェグラスは凄かった。トラップが平気というか、ものともしないというか。


 槍が降ってくれば瞬きの間に破壊するか切り落としてしまうので、後方の私にはなにかの金属音しか聞こえない。みんな越しにちらりと見えた団長が何かを薙ぎ払ったと思ったら、進んだ先に弓が落ちている。


 皆さんが彼にトラップを任せてしまう気持ちが分かった気がする。魔人とは違う意味でバケモノ級に凄いんだ。


「赤い人、かっこよかったね。ガァン、ガァンって全部斬っちゃうの!」


 なんて言って、リュカはキラキラ目を輝かせてフェグラスを見つめる。


「僕、もっと近くで見たいなぁ!」

「え‥‥危ないからここからにしてよ」


 繋いだ手を強く握ると振り向いたリュカがにへっと笑った。危機感や警戒心の薄いその様子に、エルダーも苦笑する。


「そうですよ、リュカ様。ここにいてください。トラップや敵の攻撃は大丈夫でも、前方は団長の剣が飛んできて非常に危険ですからね」


 エルダーの言う通り、団長はたまに手にした剣を勢い余って手放してしまう事があるらしい。フェグラスの手からすっぽ抜けた剣があらぬ方向へ飛んでいくため、たまに前方から誰かの悲鳴が上がる。

 その度に「すまない。軽くて‥‥つい」などと感情を感じさせない彼の声が小さく聞こえてきた。


「エルダー」


 タイミングよくフェグラスに呼ばれ、一瞬表情をこわばらせた彼だが腕立ては命じられなかった。

 地図を確認する3人の元へ行ってしまったエルダーの背中を見つめながら、リュカが「それならしょうがないよね。危ないもんね」と少し不満そうに納得する。


 この階層のトラップの位置付き地図は完成した。

 これで団長が盾になる必要もなくなる‥‥と思ったが、進みだしたその後も、フェグラスは先頭で槍を斬り飛ばし矢を打ち払い、たまに剣を飛ばした。

 地図ができる前とほぼ変わらない彼のスタイルは、地図を読み上げるレバネの声をほぼ無視している。


「団長。それじゃせっかくエルダーが地図を作った意味がありませんて」

「いや、役には立っている。出てくるとわかっているからな。ほら、おかげで、この罠は根本から綺麗に斬れた」


 皆さんは呆れているけど、自慢げにトラップ発動の石を何度も踏んだりして、なんだか団長は楽しそうだ。


 根元から綺麗に切断され長いままの槍を、団長は通路奥へ勢いよく飛ばす。すると暗闇の向こうで槍が壁にあたって床に落ち付音と、その音に反応して動き出すスケルトンの足音が聞こえだした。


「ザギ、出番だ」

「はい‥‥」


 団長に呼ばれ、ザギがため息をつきながら前へ出る。騎士団の皆さんが「ザギー、頑張れー」などと言っているのを眺めていたら、肩を叩かれた。エルダーかリュカかと思ったら、魔人が立っている。


「チトセ、腹が減った。魔石をくれ」

「あ、はいはい」


 もうこの階層も結構進んでいる気がするのに出てくるのはスケルトンとトラップばかり。魔人が満足できるような肉付きの良い魔物は出てきていない。


 私とリュカは崩れたスケルトンを拾い上げて魔人にせっせと渡しているが、それしきの骨では空腹がまぎれないらしい。

 そろそろ本気でやばいかもしれない。もっと良い魔物が出てきてくれないと、困るなぁと思いながらバッグを漁る。


「あ、あれ‥‥っ?」

「なんじゃ、どうした」


 バッグの中は整然としていて、見間違いようがない。どこかの袋の下に隠れているとか、そういうこともないはずだ。


 あ、そうだよ、だってあれが最後の‥‥。


 言うのはこわいけど、言うしかない。


「前、おじいちゃんに渡したので、魔石最後だったのかも‥‥」

「なんじゃと!」


 魔人の目がぎらりと光った。声を荒げた魔人に驚き、騎士団の皆さんも振り返る。私はあわててもう一度バッグの中を漁ったけど、いくら探してもないものはなかった。


 我慢できないほどお腹が空いたら、騎士団の皆さんが危険にさらされることになる‥‥かもしれない。

 腹が減ったら皆さんを食べる、なんてあれは冗談だってわかってるけど、空腹で苛々した時の魔人はリュカも振り回すし移動に必要な馬だって食べると言い出す。


 正直、何をしでかすか予想できない。


「待って! もう一回ちゃんと探すから」

「くそ。罠など気にしてちまちまと進んどるのが悪い。この階層は魔物の数がえらく少ない。はようもっと魔物の多い階層へ行くぞ。でなければ貴様らを一人ずつ喰らうことになるからな」


 息を飲む騎士たちの向こうで、団長だけが変わらぬ態度でいる。


「エルダー。予備の魔石を閣下にお渡ししろ」

「はっ。ではこちらをどうぞ」

「い、いいんですか?」

「ええ、もちろん」


 バッグをかき回している私の前で、エルダーが魔人に小袋を手渡す。中身を確認した魔人が若干眉をしかめた。


「どれも小粒で少ないが、ま、次の階層までならもつかのぅ」

「申し訳ございません。生活魔法以外で魔石を使うことがないため、小粒の物しか準備がなかったのです」


 申し訳なさそうに頭を下げるエルダーは何一つ悪くない。


「あの‥‥おじいちゃんが失礼でごめんなさい。魔石ありがとうございます」

「千歳殿、礼には及ばん。喰われて困るのは我々だからな」

「団長の言うとおりです。気になさらないでください。我々も助力を乞うる身ですから、このくらいのことは致します」


 団長もエルダーもそう言ってくれるけど、そうだろうか。


 私が睨んでも魔人の態度は変わらない。「良い心がけじゃ」などと言いながら、頂いた魔石をポップコーンを食べるみたいにばりばりと口に運ぶ。


 あんな調子じゃすぐなくなってしまいそうだから、私は足元の小さな骨を拾い上げた。


「リュカ、小さい骨を拾うのを手伝って」

「いいけど、どうするの?」

「おじいちゃんに食べさせるの」

「更に食いでのないものを、貴様ら‥‥」

「人様にご馳走になっておいてまだそんなこと言うの? いいから、少しでも足しにしてよ」


 拾った骨は私の片手に乗るくらい。金平糖のような小さなカケラばかりだ。こんなものなんの足しにもならないことは分かってる。

 それでも拾った骨を渡すと魔人はそれを口にした。眉を顰めながら嫌々といった具合だが、食べてはくれる。小さな骨の屑はカリカリと軽快な音を立てた。


 今の骨は小さいから仕方ないけど、もっと大きな骨であってもスケルトンの骨を噛み砕く音はドラゴンの骨よりもずっと乾いた音に聞こえる。長年骨だけでさらされてきたから、水分が抜けているのだろうか。


「味気ないのぅ。なんの味もせん。せめてこやつらに肉がついておればなぁ。アンデッドなら腐肉も干し肉もおるはずじゃが、なぜここには出んのだ」


 ぶつくさ文句を言い続ける魔人には、ひとまずこれで凌いでもらうことにして、私たちは先を急いだ。

 地図のおかげで迷うことなく進めているらしいが、ここは今までより広いみたいでまだ階段は見えてこない。


 時折出てくるスケルトンの残骸を私とリュカはせっせと拾って魔人へ渡した。つまらなさそうな顔をしながらも、手渡した分はきちんと食べてくれる。


 だいぶ歩いて疲れてきた頃、やっと上へと続く階段が現れた。

 この階層には階下のような広間みたいなものはなく、通路の隅に上へと続く階段が設置されているのみ。


 また巨大スケルトンが現れたら、それを魔人に食べてもらうつもりだったので当てが外れる。

 戦闘がないならその方がありがたいけどね。でもそうなると魔人ははらぺこのまま。


 次の階層にはもっと魔物がいますように。けどあんまり出ませんように。

 真逆のことを考えながら、階段を上がる。

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