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14話-3 いざ!山脈ダンジョンへ!

 なんてしている間に私たちはあっという間に四階層へ上がってきてしまった。ここまで体感2時間ほど。本当にお散歩コースだった。

 これなら思ったよりずっと早くゴールにたどり着ける気がする。


 ゴール。つまり魔女の住処への抜け道。簡単にはいかないだろうと思っていたダンジョン探索に、希望が見えてきた。


 四階層はやはり同じような石造りの通路に天井からカンテラが釣り下がるスタイルだ。このダンジョンはずっとこういうのが続くんだろうか。


 階層上がってすぐに隊が立ち止まる。フェグラスがエルダーに近寄り、何やら話をしたかと思えば隊はまたすぐ進み出した。しかし進むスピードは少し遅い気がする。

 はじめてくる場所だから、警戒をしているのだろう。


 私の横でエルダーが新聞ほどの紙を取り出し眺めはじめた。地図かと思い覗いてみると、なんと真っ白。


「エルダーさん、その紙はなんですか? 地図‥‥じゃないみたいですけど」

「いえ、地図ですよ。といっても、これから作るのですが」

「地図を作る?」

「ええ。ダンジョンは天然の迷宮ですから、通常地図などありません。しかし中へ入った者が地図を作成することにより、次の者が進みやすくなるんです。三階層までは団長が道を覚えているというのでそれを頼りましたが、本来ここは未踏破のダンジョン。情報もなく、安全確保ができない状況ですから、ここより先は地図を作成しながら進むことになります」


 地図を作りながら進む‥‥?

 衛星も機械もないのにどうやって。


 江戸時代に日本中を歩いて日本地図を作った、伊能忠敬を思い浮かべる。


 日本地図には何年かけたんだっけ。確か17年とかだった気がする。日本とダンジョンじゃ規模が違うけど、それでも‥‥。


「それって、大変なんじゃ」

「ですね。通常ダンジョンの地図を作成するというのは一つの仕事にすらなり得る行為です。それで生計を立てる人もいますから。地図がないダンジョンへ踏み入るというのは、規模にもよりますが命がけなんです」


 「本来なら」そう言ってエルダーは困ったように先を見た。地図もなく勝手に三階層まで進んだ団長のことだろうか。


「ここ、結構大きなダンジョンって聞きましたが、地図を作るなんてしたらそれだけでもかなりかかるんじゃないですか? 時間が」

「通常なら、そうですね。この規模のダンジョンであれば一階層の地図を作製するだけでもおおよそ3日間。三階層までなら半月はみますね。二階層と三階層も、通らなかった横道すべてを調べようと思えばそれ以上要すでしょう」

「けっこうかかりますね」

「地図作成は宝箱の探索や魔物討伐を目的とせず、作成者の安全第一で進めますからね。ですが、さすがに今回そんなにかけられません。なので、精霊を使いざっくりとした道を探ります」


 すると、エルダーの肩辺りに豆電球くらいの大きさの小さな光の粒が灯った。


「あっ、精霊」

「これは空間の精霊、スパティラ。彼女にこの階層を飛び回ってもらい、それをこの地図に写してもらいます。このように」


 どうやらこの階層に上がった時すでにエルダーは精霊を飛ばしていたらしい。


 精霊が点滅すると、エルダーの持った紙にじんわりと線が浮かび上がってきた。それは精霊が飛び回った経路と思われるぐちゃぐちゃの線の集合体で、おおよそ地図には見えない。


 しばらくすると精霊は先頭のその先へと飛んで行った。出来上がった地図を頼りに進み、また精霊が戻ったら紙に写す。


 それを繰り返し、ぐちゃぐちゃの線が紙全体に描かれる頃にはなんとなくその全貌が見えてきた‥‥気がする。線がない空間を壁だと思えば、確かに地図に見えなくもない出来になっている‥‥と思う。


 とはいえ、これを見て進めと言われでも絶対無理。完全に玄人向けだもの。


「本当に地図‥‥っぽくなりましたね。すごく‥‥専門的な感じの」

「これ地図なの? 僕にはぐちゃぐちゃにしか見えないよ」

「そうですよね」


 首をひねるリュカを見て、エルダーはふふっと鼻を鳴らし、微笑んだ。


「精霊と人間とでは物の見え方が大分違いますから、人間が見たような精巧な地図は作れません。ですが今回は行き止まりや同じ場所を回らなければいいので、これで十分なんです。それでは私はこれを団長へ渡して参ります」


 先頭へ向かったエルダーの周りを、精霊が点滅しながら飛び回っている。

 地図を見るのだろう。隊はその場で止まった。と思ったら団長がやってくる。


「閣下。よろしいか」

「なんじゃ」

「我々は最短距離で進もうと思う。すると五階層まではこの先の広間を抜ければすぐだが、どうだろうか」


 団長は魔人の空腹について配慮しているようだ。


「広間か。この階層は魔物の気配をほとんど感じんが、そこでなら空腹を満たせそうじゃのぅ。よかろう、行くがよい」

「では決まりだな」


 広間を目指して隊が動き出してすぐに、このダンジョンにきてはじめて魔物と遭遇した。


 それは前の方であっという間に倒され、何が出たのかどうしたのかは全く分からなかった。しかし魔人がつまらなさそうに口の端を下げているところを見ると、大した敵じゃないことが分かる。


 隊がまた進みだした先、こつんとつま先で石を蹴った。石が多いな、なんて足元を見ると、それはころころした白い塊で、なんだか長かったり細かったり太かったり短かったりしている。


 妙な既視感というか、これは、まさか‥‥。


「なんだろ、これ‥‥ぎゃ!」


 白い石の中に割れた人間の頭蓋骨が転がっていて、判明した石の正体に悲鳴を上げる。


「こ、これ‥‥。まさかここで死んだ人のご遺体じゃ」

「スケルトン、魔物じゃ。ついさっき騎士共が倒しておったろう。その亡骸よ。元は人間だったかもしれんが、そう新しいものではない。古い骨じゃ」

「ま、もの‥‥。この骨が?」

「ここはどうやらアンデッド系のダンジョンのようでなぁ‥‥。はぁ、スケルトンは肉も魔石もないからなぁ。ああ、つまらんのぅ」


 昨日からのテンションの低さの理由はそれだったようだ。


 言いながら、魔人は転がる頭蓋骨の破片をつまんで口に入れる。ガリガリ飴玉でも齧るみたいにして、食べてしまった。


「やはり、味気ない」


 渋い顔をするが、それでも魔人にとってこれは食べ物に違いないので、私は恐々骨を拾うと魔人へ渡した。少しでも魔石の節約になればいいと思って。


 その後、広間まで行く間に何度かスケルトンが襲ってきたが、4人の騎士がさくっと倒してしまう。だから骨の残骸は見るけれど、スケルトンが動いているところはまだ見れてない。


 というのも、魔物が出てくるたびに騎士が前に出るのだけど、私の視界のほとんどは後退した団長の大きな剣で遮られてしまっていたから。


 フェグラスがこうやって一歩引いて立ち尽くしているのは、きっとこの大剣のせいだろう。それを振り回せるだけの空間がこの通路にはない。


 魔人はといえば食べがいがないからと見ているだけ。


 私は目をキラキラさせるリュカと手を繋ぎながら、ほとんど何も見えない団長の後ろで首を傾げるしかできなかった。


 でもそれでよかったのかも。だって骸骨が動いているって大分ホラーだろうし。

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