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14話-1 いざ!山脈ダンジョンへ!

 昼寝から起きて夕食の手伝いをして、まだ帰ってこない魔人を気にしながら夕食の片づけをしていると、テントの方がざわつく。ようやく魔人とフェグラス、騎士の数人がダンジョンの下見から戻ってきたらしい。


 彼らの夕食を準備し、食べている間どうだったのか話を聞こうとしたが、またあとで詳しいことを話すと言われる。


 その夜、明日のダンジョン探索について最後の作戦会議があった。私とリュカも同席しようかと思ったけれど、魔人がテントに残れと言うので大人しく待つことに。


 今夜も遅くなるんだろうかと明日の準備をしていたら、魔人はすぐ戻ってきた。あとは騎士団の人たちだけで話し合うらしい。


「ねぇおじいちゃん、どうだった? ダンジョン、どんな風だった?」


 目を輝かせて飛びつくリュカを払いのけると、魔人は退屈そうに椅子に腰かけた。


「どうしたの。なんだか疲れたような顔してさ。結構長い間入ってたけど、大変だった?」


 聞くと、魔人はそんなことないとでもいうように手を振る。


「ダンジョン自体はそう気負わんで良さそうじゃぞ。むしろあの程度なぜ封印されとったのかわからん」

「簡単なんだ?」

「そうだの」


 魔人はどうにも不満げな様子だ。簡単というなら、魔物がほとんどいなかったのだろうか。


「ちゃんと食べてきた?」


 すると、大きな口が不満げに山を描く。


「喰ったは喰ったが‥‥。まるで満足できん。ああ、肉が喰いたいのぅ」


 大きなため息をついて、それきり魔人は目を閉じた。


「足りなそう? 魔石まだある?」

「今夜は十分かのぅ。ほれ」


 すっかり軽くなった魔石袋を渡される。もしかしたら夜お腹が空いて大変なことになると困るので、それはそのまま魔人に持っていてもらうことにした。


 もっときちんとダンジョンについての情報を教えて欲しかったが、魔人はどうも喋りたくなさそうに思える。私とリュカは顔を見合わせ、首をひねった。


 明日はどんな感じで入るんだろう。


「明日の作戦は? どんな感じなの?」

「朝からダンジョンへ入る。あとは魔女の住処付近にあるじゃろう出口を探し上がるのみよ」

「えっと‥‥それだけ?」

「だの」


 それだけじゃ全然わからない。もっと教えて欲しいのに、なぜこうもテンションが低いのだろうか。


 ダンジョンがそう難しくなかったなら私としては万々歳だけど、だからこんなに不満げなのか。肉が食べたいと言っていたけれど、肉がないとはどういう意味だろうか。


 雪山だから、もしかしたら雪だるまみたいな魔物ばっかり出て来たとかだろうか。それなら、不満が残るのもわかる気がする。

 雪なんていくら食べてもお腹は膨れないだろうし。


 服装も考えたいから、そういう話を聞かせてほしいんだけどな。


「雪は降ってた?」

「雪? 何を言うとる」


 ああ‥‥もう。非常に聞きづらい。


「ねぇ、おじいちゃん。念のため聞くけど、ダンジョンで行くしかないんだよね」

「ないのぅ」

「だよね。ならもうちょっと教えてよ、どんなところか」

「話すことがほぼない。しかしまぁ、多少冷えるじゃろうて、着込んで行け」


 わかったのは、それだけ。

 けど、魔人がそれしか言わないのなら、本当にそれだけしか言うことのないダンジョンなのかもしれない。


 簡単だとしても、行きたくはない。覚悟しておけって言われたからもちろん覚悟はしてるし、行くけど。


「はぁ、行きたくない」


 小さく漏れた本音に魔人が反応し、首を傾げる。


「なにを言うとるか。貴様がいねば話にならんのだ」

「そりゃ、行かないなんて言わないよ。行くけどさ」

「ならばよい。貴様を餌に魔女に協力を求めるというのが作戦の一つだからの。ぬしはおらねばならん」


 初耳だ。


「えぇ!? 餌ってどういうこと!」

「召喚された者同士、何か通ずるもんがあるじゃろうと」

「通ずるもん!? あると思う‥‥? 召喚されたことしか共通点ないのに。向こうがどんな人かもわからないのに」

「怠惰の魔女なる者は乱暴で凶悪‥‥だそうじゃ。会ってすぐに戦いがはじまる可能性もある相手とか」


 そんな人の餌にされるの、私?


「わしは送喚術について聞ければ、あとは魔女など知ったことではないが、フェグラス、あやつはできるだけ穏便に済ませたいと言う。そこで、剣を携えた騎士よりは、丸腰の貴様の方が話ができるかもしれんと。そういうことじゃ」


 どういうことじゃ?


 同じような境遇の私の身の上に同情させて協力を仰ぐって?


 乱暴で凶悪で、会ってすぐ戦いが始まるかもしれないような人が、見ず知らずの私に同情なんてするのだろうか。しなくない?


 まぁ、確かに、剣を持った人達よりは私の方が敵意を感じにくいかもしれないってのは分かるけど。私には力も魔法もなにもないしね!


「おじいちゃん、私のこと‥‥守ってくれるんだよね?」

「当たり前じゃ。貴様が死ねばわしも死ぬのだから」


 だよね。お城でもダンジョンでも守ってくれたもんね。魔女に殺されそうになったら、助けてくれるよね。


 不安が増してきた。


「まぁ、明日は朝食を喰い終えたらば入るからのぅ。さっさと寝よ。ほれ、リュカもじゃ」

「えー、もっとお話し聞いてたかったのに‥‥。じゃあチトセ、手」


 素直なリュカは頬を膨らまし、それでも魔人の言う通り寝るつもりらしい。


 当たり前のように差し出された手を仕方なく掴んだところで気付く。そうだこれはリュカのためじゃなくて、私のためなんだと。

 私が悪夢にうなされるから、心配してこうしてくれているのだと。


 握る手が優しいからか、明日の不安もちょっと軽くなる気がした。


「ありがと、リュカ」

「え? えへへ‥‥。じゃあ、ぎゅってしながら寝てもいい?」

「それはやめて」


 隙あらば密着して寝ようとしてくるけど、いくらなんでもそれは私が自意識過剰で耐えられないから、無理。


 だけど、いつの間にか手を繋いで眠るのも当たり前になってきたから、そのうちそうなりそうだ。‥‥気をつけよう。


 手だけ繋いで、ベッドに並んで横になる。


 他人、それも男の子とこの距離で寝るのにもずいぶん慣れてしまった。もはや手を握るくらいなら特別気にせずいられる。


 目を閉じると、お昼寝もしたのにすぐ眠くなった。


 翌日の朝、私はリュカと一緒に朝食の手伝いをした。今日は私たち以外、ドゥアも他の騎士の人たちもそれぞれここを出る予定があるのでいつもより朝食の時間がはやい。それでも昨日と同じようにテーブルを6人で囲む。


 朝に弱い団長は相変わらず頭をぐらつかせながら座っていて、それをドゥアとエルダーが介護している。魔人は少ないとぼやきながらパンもシチューも一口で食べ終える。


 朝食後、団長、ドゥア、魔人はテントへ行ってしまうが、エルダーと私たちは後片付けのために残った。


 何度も手伝っていると勝手がわかってくるもので、手早く片づけを終わらせる。先にテントへ向かったエルダーを追うように私たちも急いで大きなテントへ向かう。


 テント前に来た時、ちょうど難しい話組が出てくるところだった。が、ドゥアはいない。一足先に森のダンジョンへ向かったらしい。


 今日はエルダーも鎧を身に着けているが、他の人と比べるとかなり簡素だ。精霊魔法でのサポートが主な仕事だという彼は、基本的に身軽な格好でいるらしい。


 エルダーの後ろに大きな荷物を背負った人たちがいるのを見ると、いよいよなんだと緊張してきた。そんな私を見つけるなり魔人は笑みを浮かべる。


 ああ、あの笑顔。本当にダンジョンに行くんだ。嫌だぁ。


 そんなことを考えながら着いていく。横穴の前に集まった団員は朝食の時の半分もいなかった。


 ここにいない小隊の半分、ドゥア率いる分隊はすでにヘリオン城の裏手の森へ向かって移動を開始していて、キャンプに残る10名弱の団員も村へ巡回に出て行った。


 数えると、この場には私たちを入れても9人しかいない。


 ダンジョン前で仁王立ちするフェグラスの背中には彼の身長ほどある大剣が背負われている。あんな大きなものをどうやって扱うのか想像できない。


「ではこれよりノウェンティス山脈のダンジョン攻略を始める。目的は踏破ではなく、この入り口とは別の入り口を見つけ、魔女の住処を探し出すことだ。しかし魔女と遭遇しても敵対はするな。助力を求める立場であると念頭に置いて行動しろ。パーティーは私をリーダーとし、エルダーを副リーダーとする。他団員は4名。今回、そのほかにこちらの男爵閣下とその契約者のチトセ殿、リュカ殿が加わっている。このお二方については戦闘力は皆無だ。護衛はエルダーに任せるが、皆、怪我をさせぬよう努めてくれ。あとは昨夜の作戦通りに。以上だ」


 それだけ言うと、フェグラスは踵を返しダンジョンへ向かい進み始めた。


 私達の紹介はあったけど、4人の騎士についての紹介はない。一緒に行く人のことを名前だけでも知っておきたかったんだけど‥‥アルバイトすらしたことない学生の身で考えるこれは、そう、学生気分ってやつなんだわきっと。


 私だって遊び半分て気持ちはこれっぽっちもないけど、騎士団の皆さんにとってこれは仕事。しかも命がけの。自己紹介なんてしてる暇ないんだ、きっと。


 私ももっと気を引き締めなきゃ。


 先を行く5人の後を追うように私とリュカは魔人の近くを歩く。私たちの後ろにはエルダーがいてくれる。


 ダンジョン入口につくと、昨日あった光る壁はもうなかった。あるのは壁画付きの大きな扉だけ。扉は大きい方は閉ざされているけど、潜り戸の方が開いている。そこを潜ると、もうダンジョン内だ。


 中に入ったところで護衛にあたってくれるエルダーが寄ってきた。


「チトセ様、上着の具合はいかがですか? リュカ様も」

「はい、いい感じです」

「ちょっと動きにくい」

「魔法陣を幾重にも重ねてますから、少し干渉しているかもしれませんね。リュカ様、腕は上がりますか? 走れそうですか?」

「それは平気!」


 私たちが挑むのは雪山のダンジョンということで、村長から譲ってもらった防寒着にエルダーが色々な魔術を施してくれている。防寒、防風の魔術とか矢をはじいたりだとか。ありがたい。


 おかげで山から吹いてくる冷たい風も、洞窟内の冷えた空気もなんてことない。だけど確かにリュカの言う通り、多少重たいし動きにくさはある。


 防寒着は生地が分厚いし、裾から風が入らない様各所が絞ってあるから、それが窮屈の原因だと思う。

 リュカは普段サイズに余裕のある服を着ているから、この上着はなおさらきつく感じるんだろうな。

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