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13話-2 騎士団と一緒に作戦会議

 広いテントの中、6人全員がしばし魔法陣と地図を見つめ、沈黙した。やがて魔人が顔を上げる。


「この山にダンジョンはないかのぅ」

「ありますが‥‥」


 訝しげな視線を向けるドゥアに魔人は笑みを返す。


「ではそこから行こう。雪山を登るよりは良いじゃろう」

「それは‥‥!」


 横から焦ったように声を上げたエルダーを手の平一つで制し、ドゥアは首を横に振った。


「閣下、ここのダンジョンは未踏破で、内部の地図がないのです。ですから、ダンジョンを踏破したからといって山を登るかどうかはわかりません」

「ヘリオンは冒険者を嫌うからな。未踏破ダンジョンなどあちこちにあるじゃろのぅ。しかし、近くにあるというのに気配が探れんとは。どうせ封印術でもかけてあるんじゃろうが‥‥どこにある」


 黒騎士の言葉など杞憂とばかりに話を進める。魔人はダンジョンへ入る気でいるようだ。これ以上の人外への提言を控えた彼は「こちらに」と大きな地図を指さす。それから「エルダー、説明を」と促した。


 エルダーはドゥアと入れ替わりに一枚目の地図の一点を指しつつ、もう一枚迷路のような地図を取り出す。


「入り口はこの地図の‥‥ここです。キャンプの奥に巨大な洞窟がありますが、その奥です。中は迷路になっていて、こちらへ行くと観測所までの魔法陣。こちらを進むとダンジョンへの入り口になっています」


 あの横穴にはまさかのダンジョンまであったらしい。


 魔人の様子じゃどうせ行くことになるんだろうけど、前のダンジョンを出てまだ一週間も経ってない。立て続けにあんな冒険したくないのが本心だ。


 でも私たちは国の騎士団が動いて状況が更にややこしくなる前にヘリオンを出たいし、魔女にも会いたい。騎士団にも急ぐ理由がある。となると、状況は差し迫っている。


 ダンジョンが嫌だから入りたくないです、なんて言っていられない。


 魔女の元へたどり着いて彼女の協力を得なければ、私は指名手配犯だし、元の世界に戻る方法についても手がかりを一つ逃すことになる。


 指名手配は連邦の裁判に協力すれば被害者ってことでどうにかなりそうだけど、考えてみれば国の裁判には年単位の時間がかかるはずだ。魔人が裁判への協力に嫌な顔をしたのは、そのためかもしれない。


 契約で、私は10年の間は魔人の人探しを手伝わなければいけない。つまり、裁判に時間をかけていられない。


 昨日も散々考えたけど、あれから何一つ状況が変わっていない今、何度悩んでも答えは同じになってしまう。


 私は、彼らに協力できない。


 でも、そうなると‥‥指名手配だ。

 ああ、もう!


 今すぐ解決できない問題が多すぎて落ち着かない。今すぐ何とかならないかと同じことを何度も考えてしまう。考えても仕方のないことが、頭の中を堂々巡りする。


 だから、魔女に会えれば何か変わらないだろうかと、知りもしない誰かに期待して、希望をかけてしまう。


 こんなことばかりしていたら他責思考になりそうで嫌だけど、今抱えている不安をどうしたら拭えるのかわからない。少なくともこの場ではそうするほかないと結論づける。魔女に期待だ。


「しかし、ようスタンピードを起こさんかったな。封印しとるからといって、ダンジョン内の魔物の増殖は抑えられんじゃろうに」


 魔人の声に顔を上げると、私がぐるぐる考えているうち話は先へ進んでいた。今はこっちに集中しなければ。


 それにしても、今聞いたスタンピードとはなんだろう。聞いたことがない。


「この山脈の魔女が魔物の数を調整しているんじゃないか、と予想しています。それもおかしな話ですが」


 ぽかんとする私に、エルダーがまたもや教えてくれる。スタンピードっていうのはダンジョン内で増えすぎた魔物がダンジョンの外に溢れる現象のことだと。


 それが起きるとそのダンジョン付近の村とか街が一晩で滅んだりするから、冒険者が定期的にダンジョンへ入って魔物の数を減らすのはとっても重要なことらしい。

 ここではそれを、魔女がやってたかもしれないって話。


「村ができるより昔、ここは高難易度のダンジョンとして有名だったそうです。冒険者を嫌煙していなかった当時ですら踏破する者も出なかったと」

「雪山のダンジョンだからな。攻略は難しくて当たり前だ」

「となると、少なくとも200年は手付かずだのぅ。ダンジョン都市と言われたシンに迫る勢いではないか。これは行くしかあるまいて。どんな魔物が、どれだけ詰まっとるんじゃろうなぁ」


 魔人は涎を垂らし、今すぐにでも入る気でいるみたいだ。エルダーが私たちを見てから首を振る。


「それは‥‥危険かと。ドゥア副団長も仰いましたが、入ったところで登るとは限りません。それにダンジョンとこの山脈は長い年月を得て同化している可能性があります。シンがまさにそれでしたから。もしダンジョンボスを倒し踏破などしてしまって、ダンジョン自体が消えたら‥‥最悪この山ごと崩れる可能性が出てきます」

「山脈の一つや二つ、どうでもよいではないか」


 こんなに高い山が崩れるなんて、どうでもいいわけないと思っていると、向かいに立つフェグラスが鋭い視線を魔人へ向けた。彼も私と同じことを考えていたようだ。


 というか、この場にいる魔人以外の全員が、山が崩れることをどうでもいいとは考えていないだろう。だって、エベレスト級の山が崩れるとか大災害じゃないか。

 庇いたくはないけど、一応、麓で生きてる人たちもいるわけだし。


 しかしフェグラスの第一声は「私も閣下に同意する」だった。


 えっと思って団長の顔をまじまじみるが、冗談を言っているようには見えない。

 ドゥアもエルダーも団長を睨むが、彼らの視線は無視し、団長は私を見た。それから「私個人としては、だがな」と付け加える。それを聞いて私も騎士2人もほっと息をついた。


 魔人と団長が2人して本気でダンジョンを踏破しようと言い出したら、きっと止められないだろうから。


 団長は魔人へ視線を戻す。


「ダンジョン都市シンのようになるくらいなら、ダンジョンなど早い段階で消してしまった方がいい。しかし、今回ばかりはダンジョンを進むというならば、できれば踏破せず進みたいのだ」

「なぜじゃ」

「ドゥア、説明を」


 フェグラスが冷静で安心したからか、眉間の皺が少なくなったドゥアが「はい、団長」と静かに地図の隅を指さした。


「この山脈は隣のグレイオン王国との境にあたります。山自体はヘリオンに属しますが、山脈に何かあり、もしもグレイオン王国に影響が出た場合、それが引き金となり戦争がはじまる可能性があるのです。今朝もお話ししましたが、ヘリオンの人攫いの件、その他でグレイオン王国とリベルディア王国は現在非常に緊迫した状況が続いています。できるならば事をこれ以上荒立てたくありません。どうか、ご理解賜りたく」


 なるほど、それならより一層山を崩すわけにはいかない。


 なんとか話を聞けている私の横で、リュカはちんぷんかんぷんといった風にきょとんとしている。それでも大人しく私とエルダーの間に収まって、テーブルの上を見つめていた。


 それからしばらく問答が続き、リュカがついにうとうとし出した頃、ようやく話し合いの終わりが見えてくる。


「であれば、ダンジョンへ入っても宝は持ち帰らず出ればよい」

「それで崩れないものでしょうか」

「ダンジョンにとっての核とはボスであり宝じゃろう‥‥おそらく。ダンジョン全体の生き物の総数やもしれんが。しかし、宝をとらず出ればおおよそ大丈夫じゃろう。貴様らの中にダンジョンへ入ったことがあるものはおるか」

「私はあるが」

「フェグラスじゃったな。ならば貴様も知っておろう。宝に手を付けるまではダンジョンの撤退は起こらんと」

「覚えていないな。ダンジョンを踏破したのなんて騎士団に入る前‥‥。随分昔の事だ」

「なんじゃ、つまらん。しかし、おそらくそれで大丈夫じゃろう。もしかしたら踏破する必要もないやもしれんしのぅ」

「というと?」


 能面をつけたかのように表情を一切崩さない団長を見て、魔人は耳まで裂けた唇の間から尖った歯をのぞかせている。


「それはまだ言えん。ひとまず現地に確認しに行かねば何ともじゃ。わしの予想が当たっておれば、話は決まりそうだのぅ。さぁ、ダンジョンの入口へ案内せい」


 覚悟はしていたけど、結局またダンジョンに入ることになるんだと憂鬱になる。しかもスタンピードっていうのが定期的に起こりかけていただろうってところに。随分と気が重い話だ。


 でも、ここを越えたらヘリオンをやっと出られるんだから、と自分に喝を入れる。


 目があったはらぺこ魔人はここ数日のうちで1番嬉しそうに見えた。そうだよね、お腹空いてるんだもんね、おじいちゃんは。


 昨夜も話し合いの席で空腹に苛々していたし、こうなったらダンジョン内でできるだけ沢山食べてもらおう。魔石も切れかかっているから、非常食用に入手できそうなのはありがたいことだしね。


 でもそうなると、また解体が待っているんだけど。


 この際蜘蛛以外なら我慢しますから、どうか蜘蛛だけは出てこないでください。

 誰に向かって願えばいいかわからないけど、とりあえずそう願わずにはいられなかった。

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