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10話-5 連邦騎士

 それきりフェグラスは黙ってしまった。ドゥアが小さく「街はやはり魔女でしょうか」と言う。


「閣下。街の方は何かご存知ないか」

「さっきも言うたろう。街は知らん」

「ではやはり」


 騎士3人は顔を見合わせ、小さな声で2、3話す。魔人の長い耳がぴくりと動いた。


「のぅ、連邦騎士よ。共に魔女の元へ行こうではないか。魔女なる者を交え、話そうではないか。聞くところによれば、魔女とヘリオンとには数百年も前からの因縁があるのじゃろう。恨みを持つ者の方が、ヘリオンには詳しかろうよ」

「それは‥‥ありがたい申し出ではありますが」


 魔人の誘いにドゥアはそう言いかけたが、フェグラスはそんな彼を止めた。


「いいだろう。そうしよう」

「よろしいのですか、団長」

「良い。魔女の話を聞き、その上で、貴方がたの協力を‥‥改めて願うと、しよう‥‥」


 フェグラスの決定にドゥアもエルダーもそれ以上は何も言わなかった。


「じゃのう。さすればわしらと貴様らとの折り合いも、もうちっとつくかもしれん。少なくともこのまま夜を明かすよりは良いじゃろう」

「我々も魔女含めてその話ができるならば、これ以上ありません」


 ドゥアは続けて「しかし」と顔を曇らせた。


「方法がないのです。山を登る魔法陣は使えませんから」

「それか。まぁ、方法ならば他に」


 2人が話を続けていると突然、大きな音を立てて団長が倒れた。その音にびっくりしてリュカが「きゃぁっ」と悲鳴を上げる。


「な、なに! 団長さん、どうしたんですかっ!」


 もしやと思って魔人を見るが、いつも細めている目を開き驚いた顔をしていた。おじいちゃんが何かしたわけじゃないようでほっとしたけど、念のため聞いてみる。


「お、おじいちゃんじゃ‥‥ないよね?」

「何もしとらんわ。突然倒れよったぞ」


 なら、一体何がと顔を上げると、そこにはテーブルに両手をついて起き上がる団長の姿があった。ひとまず、生きていて安心する。


「すまない。意識が、飛んだ。続けてく」


 そこで団長は大きなあくびを一つ。場に残っていた緊張の空気が一気に消える。


「団長」


 眉間に皺を寄せたドゥアが睨むと、フェグラスは眠たそうに目を歪めた。緊張感が緩んだせいか、表情も緩んで見える。


「すまない。‥‥少し、ねむた」


 それを最後にフェグラスは立ったまま目を閉じてしまった。眠って、しまったのだろうか。


 予想外の状況に、私も魔人もただじっと団長を見つめることしかできない。


「大変‥‥申し訳ございません」

「申し訳ございません!」


 ドゥアとエルダーが頭を下げた。


「良い良い。小娘はもう寝る時間じゃったか。では、残りは明日の朝話すとしよう。わしらも帰るかのぅ」


 立ち上がった魔人の向こうでエルダーがフェグラスに「団長! しっかりしてください!」と声をかけている。


 それでも団長は起きず、ドゥアが再び非礼を詫びた。


「閣下。本当に申し訳ございません」

「良い。わしも飽きておったところよ」


 彼が眠ってしまった以上話は進まない。


 魔人が行こうとしたとき、やっと目を開けたフェグラスがへろへろの声で「待て」と止めた。


 団長は眠気を飛ばすためか首を左右に振っている。一瞬しゃきっとした顔になったけど、すぐ目が半分眠たげに閉じられる。頭がぐらぐらしていて、見るからにだめそうだ。


「まだ何かあるのかのぅ」

「申し訳‥‥ないが。ここにいる間だけでも‥‥貴方がたの身柄を‥‥、騎士団で、保護‥‥、‥‥い」


 それっきり、言葉が消える。眠るフェグラスの隣で、眉間の皺を深くしたドゥアが代わりに頭を下げた。


「申し訳ございません。この土地は物騒でして、もしよろしければこの隣に別のテントを用意しますので、話が落ち着くまでの間だけでもそちらに滞在していただけないでしょうか」


 魔人は目を細めた。また目を開けたフェグラスが眠気と戦う姿をにんまり不敵に笑って見つめる。


「ほう。わしらを監視するとな。できると思うておるのかの」

「悪く‥‥受け取‥‥で、ほし‥‥」


 エルダーに支えられ、団長はぼやくように喋る。もはや会話にならない。


「我々にとってチトセ様は重要な証人ですから、なにかの間違いで無くすわけにはいかないのです。プライバシーなどはもちろんお守りします。どうか、お願い致します」

「はぁ‥‥。じゃと。どうするチトセ。気に入らんならば言え。嫌ならば‥‥どうとでもなる」


 にやり顔でそう言われたけど、これに至っては私の気持ちは即決だった。


「ううん、ぜひここで泊まらせてほしいです」

「なんじゃと」

「ありがとうございます。では、急ぎ用意致しますので、しばしお待ちを

「こちらこそ、よろしくお願いします」


 頭を下げると、魔人のため息が聞こえてきた。


 嫌な思い出の残る納屋に帰るなんて絶対に嫌。それなら監視付きだろうがなんだろうが、別の場所で眠れるならその方がいい。


 だけどおじいちゃんは心底嫌そうな顔をしている。まだ敵って決まってはないけど、敵陣地の真ん中で寝るってことだもんね。確かに私だって不安がないわけじゃない。

 けど、人を殺して埋めてたかもしれない人たちのそばで寝るよりはマシ。あんなことがあった場所へ戻るよりずっといい。


 魔人がいれば、どこだって安心とは思うけど。暗くて埃っぽい室内、冷たい地面にちらばる藁の感触、押さえつけられた恐怖‥‥頭を振る。


 やっぱり、あの納屋に戻りたくない。


「おいチトセ、本当によいのかの?」

「お願い、おじいちゃん。それに、ここにいた方が明日すぐ魔法陣見に行けるよ。だから、本当‥‥お願い」

「そんなに納屋に戻るのが嫌か」

「うん、嫌。‥‥だめ?」


 もしだめと言われたら、戻るしかない。その時は腹をくくるつもりだった。しかし、魔人は大きなため息をつく。


「致し方ない。しかし、あまりうろちょろするようなら喰ってしまうからのぅ。覚悟せよ、騎士共」

「もちろんです、閣下。一般騎士には近づかない様伝えます。エルダー」

「はい、お任せを」


 いつの間にエルダーと交代したのか、ドゥアは眠たい団長を連れて隣の部屋に入って行った。


 団長達がテントの幕の向こうに引っ込んだ後、大きな金物が盛大に倒れる音が聞こえてきた。おそらくも何も、フェグラスだろう。


「大丈夫‥‥ですか?」


 残ったエルダーに思わず声をかけると、彼は緊張した面持ちで苦笑いを返した。


「ご心配にはおよびません。‥‥いつもの事です。どうかお気になさらず‥‥」


 その後私たちは用意してもらったテントに入った。

 そこには大きな丸いクッション型のベッドが一つ。エルダーが防音の魔術をテントにかけてくれて、これで外の音は聞こえるが、中の音は聞こえなくなったらしい。


 嫌な思い出のない場所は魔人とリュカがいてくれるとさらに安心感が増した。それにふかふかのベッドの上は心底心地よい。


 もし可能なら、明日以降もこの村にいる間はずっとここにいたい。そんなことを考えながら天井を見ていると、いつの間にか私の意識は途切れてしまった。

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