10話-3 連邦騎士
魔人とフェグラスの問答は一時間も続かなかった。2人は淡々と聞きたいことを聞き、話すべきことを話すだけ。
ヘリオンのしてきたことについては、私も知らなかったことが多いけど、どれもが悪辣で非情な内容であることに変わりはなかった。
ただ残酷に殺されるだけだと思っていた儀式も、もっと酷いことが起きていた。儀式とは名ばかりの殺戮もあったようで、そうなると無意味に殺されていった人が山ほどいることになる。
聞いていて気分のいいものではなかった。地下の会場で見た光景がフラッシュバックし、思わずしゃがみ込む。リュカが私の背を撫でてくれるが、立ち上がれそうになかった。
「閣下。これまでの話で貴方がたの事情は大体わかった。その上で我々は‥‥貴公らに協力を要請したい」
「ほう。協力とな。しかし、わしらについては話はしたが、貴様らについては聞いておらん。その上で協力など、してやると思うか」
「もちろん、我々の目的についてもお話をした上で考えていただきたい」
顔を上げる。フェグラスと目が合った。
「我々は長くヘリオンを探っていた。この土地のするところは他の国でも問題になっていてな。戦争が起こりかけているのだ。それを止めるため、我々は動いている。ヘリオンで行われている悪事は多岐にわたるが、そのすべての証拠を集め、連邦裁判にかけるつもりでいる。その際、証拠及び証人として出廷していただけないだろうか。特に、チトセ殿」
「わ、私‥‥ですか?」
突然言われ、思考が止まる。正直魔人がすべて解決してくれるかと思っていたから、自分に話がくるとは考えてもいなかった。頭が真っ白。
私が裁判に? 証人として? 被害者だから?
断片的な情報が脳裏をゆきかう。いい事なのかもしれない、と漠然と感じた。
これはヘリオンのしてきたことをしらしめるチャンスだ。ノイもこの土地は裁判にかけられるべきだったと話していたじゃないか。
だけど突然「本当にやるの?」という迷いが生じる。
魔人はつまらなさそうにフェグラスを見つめている。
「貴方はヘリオン城の一件については閣下同様加害者でもある」
団長の口から発された、加害者という言葉に心臓が跳ねる。
「しかし完全な加害者とは言い切れない。殺されそうになったのだから殺した。これは仕方のない事だ」
「仕方ない‥‥で、済まされるんですか?」
「済むも何も、仕方ないだろう? しかし、仕方ないと言うには本件は規模が大きすぎる。リベルディアの王は寛大なお方だ。情状酌量を望むだろう。しかし、国の上層部には納得せん者が現れるはずだ。そんな者共に貴方がたの存在が知れれば、消されるかもしれない」
そうなれば証拠がなくなってしまう。
「ゆえに、我々に協力してほしい。協力していただければ、貴方の身柄を連邦騎士団で守ることが出来るのだ。チトセ殿」
守ってくれる。それは魅力的な提案だ。‥‥魅力的、だったろう。ここに来たばかりの頃なら。
魔人を見ると愉快そうに笑っていた。
私を守るも何も、ここまで来て今更だ。私は魔人と契約をして、彼らと進むって決めた。今更そんなことを言われても困る。
けど、裁判はもうちょっとだけ考えたい。
リュカに手伝ってもらって立ち上がり、そう言おうとした時、私の前に魔人の手が伸びてきた。『喋るな』と言わんばかりに。
「やめよ。こやつの身の安全ならばわしがおれば十分じゃろう。見てわからんか」
「ですが、万が一ということもある」
「なぜそこまでこだわるか」
「人間を召還するという行為が禁忌そのものだからだ」
「ああ、ここではそうじゃったな。忘れておったわ」
人の召喚が、禁忌?
「しかし、もはやその禁忌は意味を成さん。神は死んだ。そうじゃろう、精霊騎士」
「確かにそう唱える者もおります。しかし、教会は認めていません。神がお隠れになりもう300年が経ち、新たな救世主も現れなくなった。しかし、その奇跡はまだこの世にあるのです。皆、信じています。神の存在を」
「はっ! 残り滓の奇跡など信じとるとは、愚かなものよ。精霊と契約しておればわかるじゃろう。神の恩恵などとうになくなっとるはずじゃ」
「私は精霊とは契約しておりません‥‥それゆえ」
「なに? 精霊騎士を名乗りながら契約をしていないだと。半端者めが。それでよく他人を悪魔だなんだと言えたもんじゃ」
「言葉もありません」
エルダーを苛めるだけ苛め抜き、魔人は「つまらん」と腕を組んだ。
「しかし、今更こやつがどう証拠になる。貴様も言うていたがな、この村のほとんどが”そう”ではないか。村の中から適当に一人選んで持っていけばよい。”証拠”としてな」
「嘘はつかん。‥‥困ったな。本当に」
私を見る団長の目がこわい。まるで逃げるなと言われている気がする。




