夢見がちな僕ら
僕らは吊るされた巨大鉄球の真下にいる。
空には色がない。
抉り取られたように荒野に空いた、行き場のない穴の中で、僕らはたまに鉄球を見上げ、眺める。
黒い太陽のように、遥か高いところにそれはじっとしているのだった。
「遊園地に行きたいなぁ」
テツオが言った。
「ミカと一緒にさ、色々なアトラクションに乗って回りたい」
僕は笑って聞いてあげた。
テツオなんかがミカとデートなんてできるわけがない。彼女はあまりにも高嶺の花だ。僕なんて、夢見る前から諦めてるってのに。
「サンドイッチ食べなよ」
カズオが言う。
「サラサラしてて、美味しいよ」
僕は受け取り、齧るように食べた。砂みたいな味がして、あんまり美味しくなかったけど、「うまい」と言って笑ってやった。
今日も風があたたかい。生ぬるいといってもいいほどに。それは眠気を誘うようでいて、でも僕らはとっくに眠っているのかも。
「コーヒー、飲みたいなぁ」
キミヤが呟いた。
「ミルクのたっぷり入ったコーヒーが飲みたい」
「コーヒーを飲む夢を見ればいいじゃないか」
笑いながら、僕は提案した。
「天気もいいしさ、ピクニックにでも行った夢でも見ようよ」
僕らは明るく笑い合った。
みんな顔は綺麗で、着ている服もとっても似合っていた。
ミカだけが地面の上に倒れて、傷ついた顔をしていた。
ミカの目が涙で潤んでる。
何かを見つけたようだ。
辛気臭い女だ。
嫌なものを僕らに思い出させるな。
「鎖が……」
ミカが怯える声で、呟いた。
「今にも切れそう。……早く、ここから出なければ」
空の上で、鉄の鎖がギシギシ軋むような音がしている。
出口なんてどこにあるって言うんだよ?
そんなことを考えるより、楽しく笑っていたいという僕らの気持ちが、どうしてコイツにはわからないんだろうか?
僕らはどこにもないコーヒーを酌み交わしながら、楽しい夢の話をしながら、よく似合う服の下の、骨と皮だけの互いの体は見ないようにしながら、憧れの美しいミカと遊園地でデートする日の夢を見るのだった。