前編 第一章 モニター室 / 第二章 突然の誘い
さやかは電話を切って、苦笑いする。
「仕事場から、もう嫌になるよ」
「そうか、さやかも休みの日なのに、朝から大変だな」
さやかはすっと立つ。
「準備終わったんでしょ。行こうか」
「おう、どこに行くんだ」
さやかはスマホを指でなぞりながら、迷っているようだ。
「どこ行こうかなぁって思ってたんだけど、見たかった映画あるから、それに行こうかなぁって、あ、あったあった」
画面の中に移ってたのは、海をモチーフにした恋愛映画だった。
「隆志ってこんな感じの映画あまり見ないよね?」
さやかが隆志の方を確認するように見る。
「まぁ、見ないかな、でも最近映画館に行ってないし、これでもいいよ」
さやかが指をパチンと鳴らして喜んだ。
「本当?よし決定」
二人は家を出て駅に向かった。
目的の映画が上映している映画館は、電車で二十分ほどの所にあった。
「そういえば、久しぶりだね、二人で出かけるの」
「そうだな。まぁ、お互い仕事が忙しいからな」
さやかが近くに引越して来たことが分かった当初は、たまに遊びに行ったり、飲みに行ったりしていたが、考えてみたら一年ぶりぐらいだった。
「さやかは、彼氏はいないのか?」
「仕事が忙しくてそれどころじゃないよ。いたら隆志を誘ったりしないよ」
隆志の予想は当たっていたようだ。
「隆志もどうせいないんでしょ」
「悪かったな」
隆志は拗ねた態度をとった。さやかはあっと言って隆志を指さした。
「何だよ」
「その態度、昔からやるよね。まだ治ってないんだ」
「悪いか」
「子どもっぽいからやめたほうが良いって」
さやかが皮肉っぽく指摘する。
「あいにくこれで嫌われた事はないです」
隆志はさやかから視線をそらした。その態度が面白かったのか、さやかはケラケラと笑った。
話していると映画館に着いて、ポップコーンと飲み物を買って中に入った。映画の内容は主人公の幼馴染の恋人が記憶を亡くして、記憶を取り戻す為にいろんな場所に行き、徐々に記憶を取り戻していくという話だった。
映画は海辺のシーンが多くてとても綺麗だった。最後は二人が手を繋ぎ、海に夕日が沈んで行く所を見ているシーンで終わった。
「結構良かったね」
簡単な話だったが、綺麗にまとまっていて、隆志もそれなりに面白く感じた。
「そうだな」
素っ気ない隆志の前に、さやかが急に飛び出した。隆志はびっくりして、おもわず立ち止まってしまった。
「ねぇ、これから海に行かない?」
さやかはニコニコしながら隆志を見る。隆志は軽く睨みつけるようにさやかを見た。
「映画の影響か?」
隆志は睨みつける。
「いいでしょ。ねぇ、駄目?」
隆志は腕時計を見る。時計の針は一時を過ぎたくらいだ。
「さやかは昔からすぐに影響うけるな」
隆志は深いため息をついた。
「まぁ、良いよ。今日は付き合ってやるよ」
「やった」
さやかは今にも飛び跳ねるくらいに喜んだ。隆志はさやかのたまに見せる無邪気な姿が、昔から好きだった。
「ただし、飯食ってからな」
「そうだね。お腹空いたもんね。よし今日は付き合ってくれたお礼に私が奢ってあげよう」
さやかが胸をはって言った。
「お。マジで、サンキュー。場所はあそこで良いよな」
「うん。隆志はホント、レッド好きだね」
レッドと言うのは、この映画館の近くにある小さいレストランだった。二人が遊んでいる時に見つけて以来、行きつけになっていた。レッドの扉を開くとカランカランとベルがなった。
「あら、二人して来るの久しぶりだね」
マスターが元気良く挨拶してくる。二人は空いている席に座ると、マスターがメニューを持ってきてくれた。
「こんにちは。そろそろ結婚でも決まった?」
「だから、私達そういう関係じゃないですよ」
始めの頃、良く二人で来ていたので、マスターは二人を結婚していると勘違いしていた。しばらくして友人だと告げると、マスターは驚いていた。今でも二人で来ると、からかわれてしまう。
「そうか。残念」
マスターは笑った。
「注文はなんにする」
「私はエビフライ定食で、隆志は?」
隆志は、メニューを一通り見ると、
「今日はハンバーグにしよう」
「エビフライとハンバーグね。分かった。ゆっくりしていって」
メニューを待っているとさやかのスマホが鳴り、さやかは少し席を外す。戻ってきたときにはもう注文が届いていて、隆志は先に食べ始めていた。戻ってきたさやかの顔は少し暗い顔をしていた。
「どうした。何かあった?」
さやかは慌てて、笑顔を作る。
「あ、ごめん。ごめん。気にしないで。さ、私も食べよう」
さやかは何事も無かったように、食事を始めた。
「そういえば昨日会った時に、変わった事あった?」
急な質問に隆志は考えたが、何も思いつかない。
「何がって何が?」
「別れた時さ、今日の事を誘おうと思って、電話したら繋がらなかったからさ」
「そうなのか?じゃ、その頃からスマホの電源落ちてたんじゃないか?悪かったな」
一瞬さやかの表情が曇ったかに見えた。
「さやか?」
隆志はさやかの表情を覗き込む。
「ごめん、ごめん。気にしてないよ。早く食べて行こう」
不思議の間が空いたが、特に隆志は気にしない事にした。
「そうだな」
二人は食事を終えると店を出た。
謎のモニター室ーそこに映し出される無数の画像と言葉、これは何なのか?
やがて主人公は衝撃的な真実を知ることになる。
モニター室は、一体何なのか?主人公は一体、何に巻き込まれたのか?
お読みいただきありがとうございます。
ご感想お待ちしています。