5/6
商品番号005:『それでも空は青かった』
私は、スーパーでトマトがちょっと高くなったのを気にした。
カップ麺の味が変わったことにイラついた。
仕事の帰りにTikTokを見た。
駅の構内に平和な音楽が流れていた。
遠くの国で戦争が起きて人が大勢死んだらしい。
でも私は、
一度も、誰かの名前を知ろうとも思わなかった。
ある日、画面越しに泣いていた女の子が言った。
「もしも私が貴方のそばで泣いてても、きっとあなたに私は映らない」
彼女の目は、私を見ていた。
でも私は、
見なかった。スマホを閉じた。夕飯の支度をした。
夜、ベランダで空を見た。
澄んでいた。静かだった。
銃声は、なかった。
私は安心した。
世界のどこかで空が黒く焼けたとき、
君の空が青かったなら――
それは“幸運”じゃなく、“無関心”の恩恵かもしれない。