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隣の幸せ  作者: 入水中
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出会いと転換


ふと画面の右下に目をやった

「もう10時過ぎか…」

そうぼやきパソコンを閉じ必要な資料を鞄に押し込んで

椅子に座りすぎて感覚が麻痺した足と、明るい画面を見すぎてチカチカする目を何とか直して階段を降り、駐車場に停めておいた中古の軽に乗り込んだ。

またいつものファミレスに寄ろうかと、流れゆく人気のない街を横目に見ながらそう思った。

最近では働き方改革とかで深夜近くまで営業しているレストランが減ってきている中、あそこはまだ遅くまでの営業をしているのでこちらとしては助かっている。

私の会社もそのレストランもそうだが今この世の中の流れがあっても、今だにこの労働環境が改善されないのは如何なものかと思う。そんな考えてもどうしようもないことをダラダラと考えていたら目的のレストランに着いた。

「いらっしゃいませ〜」

気の抜けた軽い声が聞こえてくる。

まあそうだろうな。こんなもう10時とは言えずもう11時になろうかとしている時間に来る客に丁寧なもてなしをするかと聞かれれば答えはノーだろう。

店員側からすれば幸いなのがタブレットによる注文なのでわざわざ足を運んで聞きに行かなくてもいいことが不幸中の幸いと言ったとこところか。

またいつものように非健康的な料理ばかりを頼んで、

注文が来るまでの間ダラダラとくだらない考えを走らせる。こんな時間でも店の中にはチラホラと人影や些細な音が聞こえる。もし私にもっと前向きでポジティヴでへこたれないメンタルがあったら残業終わりの疲れた体を引きずってここに来るのではなく、誰かと、あるいは誰とでも居酒屋にでも行って一日を締め括ろうとするのだろう。だが現実はそう理想的にはいかない。

恋愛とかでもしていればもっと希望が見出せたのだろうが、社内恋愛は禁止されているし、他人と多く関わるような趣味も持っていないので、運命的な出会いをすることもないだろう。それに今のご時世でも私の価値観は到底受け入れられそうにないから…。

「お待たせいたしました。こちらミラノ風ドリアとコーンスープになります。注文は以上でよろしいでしょうか」

こんな深夜のレストランの照明でもわかるような透き通る肌と柔らかな声優しさを感じる眼差し。

滅多に見ないような美人だったので思わず見入ってしまった。

「…お客様、大丈夫でしょうか」

「あっはい。大丈夫です」

あんな人でもレストランで働くんだなと偏見混じりの驚きを隠せなかった。

食事中にもそのことがちらついて仕方がなかった。

驚きと、自分がまた新たな恋を、あんな人と、と考えている自分に対しての呆れがずっと片隅にこびりついて。


「ピピピ、ピピピ、ピピガチャン」

今は何時だと思いまだ慣れていない明るすぎるスマホの画面を覗き込む。

「ヤバいッ」

驚きのあまり心の声が出てしまった。

時間はもう7時をすぎたところ。

いつもだったら家をとうに出ている時間だ。今から言っても一時間近くは遅れてしまう。今から半休を取るか、頑張って出勤するか。そんなことをうだうだと考えているうちにも時間は溶けるように過ぎ去り、取り敢えず急いで家を出ることにした。その際焦り過ぎて手から鍵が滑り落ちてしまった。

「あっ、やべ…」

拾おうとすると前からスラッとした綺麗な手が。

「鍵落としましたよ」

そう言い拾い上げたのは昨日のファミレスで働いていたお姉さんだった。

「あ、ありがとうございます」

昨日のお姉さんが今ここにいることの驚きとその顔に見惚れてしまっている面食いな自分に驚いてしまった。

「私の顔に何かついていますか…」

あまりに綺麗なのでしつこいくらいに見つめてしまったらしい。

「あっいえ、ここで働いていたんですねっ…」

あっっ、焦って思わず考えていたことを口走ってしまった。

「えっ、すいません私たちどこかでお会いしましたか」

唐突におかしなことを言われ驚いているようだった。

それもそうだろうな突然鍵を拾った相手がそんなことを口走ったらストーカーの類としか見えないだろう。

「あっへ、変なこと言ってごめんなさい。拾ってくださってありがとうございます。私時間があれなんでも、もう行きますね」

何だよもう行きますねって。

そう自分に突っ込みながら騒がしく走っていった。

思えばあの時ちゃんとしておけばあんな出会いも印象も持たれなかっただろうと思った。

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