とある乙女ゲームの殿下の“散歩”
なろうラジオ大賞用小説第六弾
「殿下、一人じゃ危ないですよ!」
私の名前はユリン・マッケンジー。
この乙女ゲーム『虹色クロニクル』の世界の主人公に転生した存在。
なんだけど、この世界はすでに、殿下と、悪役令嬢として生きるハズだった令嬢に転生した存在ことジュリアさんにいろいろと変えられていて、もはや純粋な乙女ゲームの世界ではなく。
私と殿下の関係性などの変わらない部分もあるものの……殿下は、世界を大いに変えたせいで、その際に排除した懐古主義者な勢力に狙われていたりする。
「心配いらないよ、ユリン」
なのに殿下は。
ジュリアさんの影響で、本来の設定からいろいろと乖離してしまった殿下は……護衛も付けずに一人で散歩に出てしまった。
「先日ジュリアが教えてくれた技術を試す、絶好の機会だ」
ごめんなさい。
何言ってるか全然分からないです。
「見つけやしたぜ殿下ァ!」
「隙だらけですぜ殿下ァ!」
「お命頂戴致すぜ殿下ァ!」
すると、その時だった。
なんと殿下の新たな政策の末に政治的・物理的に排除された大勢の人が賊となり私達の前に現れた!?
私は咄嗟に、殿下を守るため呪文を唱えようとした。
しかしその前に「ユリンは自分の身だけを護ってて」と殿下は言った。
そして――。
「百人組手・散歩ノ型」
――まず、賊の内の十人くらいがまとめて吹っ飛んだ…………は?
「百人組手・散歩ノ型。ジュリアによるとその起源は、ジュリアとユリンがかつていた世界で言うところの、カマクラ時代にまで遡るそうだ」
そして説明しながら、殿下は賊達をぶっ飛ばし続ける!?
「貴族の時代から戦士の時代となり、さらに国が荒れる中、敵の残党の報復に備えとある将軍が編み出した歩法であり、その技術を用いてその将軍は多くの敵の残党を、プライベートな趣味を楽しみながら返り討ちにしたという」
賊達が面白い感じで飛んでいく。
いや生物学的に見れば洒落にならない……けどなんか面白い。
中には、近くの建物に上半身だけ突っ込んだ賊もいる。
もはや、ギャグ漫画と言ってもいいくらいじゃないだろうか。
「ちなみに最初から技術に名前があったワケじゃない。敵を蹴散らしながら歩く、その様子から散歩と名づけられた。するといつしかその将軍の趣味が散歩とされるようになり、そして時代と共に散歩の本来の意味が失われた、という事らしいよ」
そして説明と戦闘を終えた殿下に。
私は笑顔を見せつつこう返答した。
「ごめんなさい。何言ってるか全然分からないです殿下」