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時流の楽章:永遠者の輪舞曲  作者: 羅翕
第四節-魔女の呪い
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40話 人間種と非人種

 断崖の下に広がる氷壁のどこかに、隠蔽結界と空間結界によって固定され、姿を隠した小さな山小屋があった。そこでは、暖かな炉火が揺らめいている。


 ウテノヴァはオスツィペック(Oscypek)を小さく切り分け、火にかけてじっくりと温めた。次第に溶けていく表面が艶やかな光を帯び、香ばしい匂いが立ちのぼる。少し迷った末に、彼女はリフがいつも好む赤いベリーのジャムではなく、別の黒いベリーのジャムを選び、そっと塗った。


「そろそろお茶の時間だ。甘いものを食べて、元気を出せ。」


「うん……ありがとう、ウテノヴァ。」


 チーズを受け取ったリフは、小さく一口ずつ齧りながら、ゆっくりと食べ進めた。


 ウテノヴァは、村で保存食を選んでいた時の光景が思い返し。食欲旺盛なリフは、ジャムをたっぷりとかけた熱々のオスツィペックを一気に平らげ、それでも満足せず、きらきらした瞳でこちらを見上げながら「もっと買えないの?」と尋ねてきたのだった。


 そんなに好きだった甘いものさえ、今のリフの気持ちも食欲も取り戻すことはできない。それがウテノヴァをひどく案じさせ、彼女の眉間の皺を深くするのだった。



 これは、彼女たちが東の大山脈へ足を踏み入れて三日目のことだった。


 ウテノヴァの傍らを歩くリフは、結界に守られており、猛吹雪の中でも難なく歩を進めることができた。初めのうち、彼女はひどく興奮していた。空間感知を駆使しながら、霜雪に包まれた幻想的でありながらも危険に満ちた地形を観察し続けていたのだ。しかし、「狩り」の痕跡を目にした途端、彼女の表情から笑みが消えた。


 この大山脈の生態系は、驚くほど豊かで複雑である。比較的温暖な夏から秋にかけては、さまざまな動物たちが森を自由に駆け巡り、繁殖していく。だが、半年にも及ぶ冬が訪れると、多くの生き物は冬眠を選ぶか、洞穴へと身を潜め、活発化する氷の一族の脅威を避けるようになる。


 冬を無事に越えられなかった獣たちは、当然ながら獲物となるのだ。


 吹き荒れる猛吹雪は、氷の一族にとって自在に操る武器のひとつにすぎなかった。リフの視界に映ったのは、断崖の縁に串刺しにされた角鹿や雪熊、黒狼といった大型の獣たち。その身体からは大半の血が抜き取られ、無数の血氷柱となって凍りついている。それらは、氷の一族が手軽に摘むことのできる「間食」となっていた。


 氷の一族は、その姿形こそ異なるものの、雪白の爬虫類や翼を持つ人魚のような風貌をしており、ある意味では、リフが冱封コフウで目にした異人部族と通じる部分もあった。彼らは食事の際、風の魔法を用いて宙に舞い、鋭く頑強な爪で肉を引き裂き、大口を開けて喰らう。そして、食べ残した骨や肉片は、そのまま谷底へと投げ捨てられていった。


 飛び散る鮮血こそなかったものの、目の前で繰り広げられる捕食の光景は、まるで屠殺場を見学しているかのようだった。故に、平静を装いながらも内心で動揺を隠せないウテノヴァは、急ぎ歩みを止め、憂鬱な面持ちのリフを小屋へと連れ帰り、しばし休ませることにした。



 風雪に晒されることなく、断崖に張り付く木造の小屋は、なおも温もりを湛えた静寂の中にあった。


 いつもはリフの方から距離を縮めていたが、今日は違った。チーズを口にするのにたっぷり半刻をかけたリフの口元を拭った後、ウテノヴァは元の席には戻らなかった。


「気持ちが落ち着くまで、好きなだけ休んでいい。食べたいものがあれば言ってくれ。色々用意してある。」


「ありがとう、ウテノヴァ。狩りが自然の営みの一環だってことは分かってる。でも……今まで文字でしか知らなかったから、慣れるのに少し時間がいるの。大丈夫、明日にはまた一緒に行けると思う!」


「……分かった。無理はするな。」


「うん。さっきのオスツィペック、もう少し焼いてくれる?ウテノヴァと一緒に食べたい。」


「ああ。」


 ウテノヴァは腰を落ち着け、リフと肩を並べた。彼女の食べる速度に合わせるように、昼下がりの遅いお茶の時間から夕食まで、二人でたっぷりとした円筒形のオスツィペックを食べ尽くした。やがて、まどろみに誘われたリフが暖炉の前で時折うつらうつらし始めると、ウテノヴァは彼女を抱き上げて寝台へ運び、静かに傍らで眠りに就くのを見守った。


「ヴァンユリセイ。獣の亡骸を見ただけでこれほど影響を受けるのだ。リフには、これ以上無理をさせたくない」


「リフは無理などしていない。なぜなら、お前を受け入れているからだ。」


 少女は沈黙した。


 目に見えぬすべてを鎖に縛り付けた背中。その中で、ただ震える両手だけが彼女の心情を語っていた。かつての同僚たちの仕草を思い返し、不器用でぎこちなく、それでも驚くほど優しい手つきで、女の子の頬に落ちた髪を梳いてやる。


「どうしても、クルシフィア大陸でなければならないのか?遠流オンルとインヤが、穏やかな旅を共にしながら、彼女にレイとレアーティヌの記憶を一部でも取り戻させたのではなかったか?」


「リフにとって最も大切な記憶は、同時に最も残酷な記憶と結びついている。より強い刺激を与えなければ、彼女は大事な人々を思い出すことができない。」


「……ふっ。今のお前は、『幽界の主』としての立場で語っているのか?」


「その通りだ。」


 ヴァンユリセイが今、何を問われても答えるつもりでいることは明らかだった。だが、ウテノヴァの苛立ちは極限に達しており、それ以上問いを重ねる気にはなれなかった。


 リフへの愛情が深まるほどに、彼の裁定者としての冷酷さはより鋭く突き刺さる。リフが記憶を取り戻し、幽界へ帰る時には、存分にこの忌々しい上司を罵倒してやればいい——ウテノヴァは、心の底からそう願った。たとえ彼の行為が最終的にリフのためであったとしても、▉▉▉▉なろくでなしなのは間違いない。ウランが怒りを抑えきれなかったのも無理はない。


「リフが目覚めたら、茶を淹れてやれ。」


「……茶?」


 記憶の中から、茶にまつわる数々の騒動を思い返し、ウテノヴァの目元が引きつる。


「今度はリフに何をするつもりだ?どこがどうおかしくなる?」


「何も変わらん。ただ、飲めば精神力と体質が強化されるだけだ。」


「……分かった。だが、何か隠し事をしているのなら、自業自得でリフに嫌われるがいい。」



 翌朝、目を覚ましたリフに、ウテノヴァはヴァンユリセイの命令を伝えた。すると彼女は激しく抵抗し、鎖を睨みつける拷問官さながらの眼差しを向けたが、最後にはしぶしぶ頷いた。ウテノヴァは、上司が疎まれる様を存分に楽しんだ後、リフに茶を淹れた。そして二人は、すっかり機嫌を直し、新たな一日を迎えた。


 幾日も続いた吹雪はようやく収まり、雲間から覗いた陽光が、凍てついた森と雪に覆われた山道を白く照らし出す。


 天候の回復と同じように、リフの様子もすっかり落ち着きを取り戻していた。もう、氷壁に突き刺さる獣の亡骸に心を乱されることはない。半日かけて彼女を見守ったウテノヴァは、ようやく安堵の息をついた。


 昼食は木小屋ではなく、森の中で野営することにした。ウランから魔力を用いた簡易の家具作りを学んでいたリフは、即席で椅子と机を作り上げた。ウテノヴァはそれが十分な強度を持つことを確認すると、携帯に適した肉入りの薄焼きパンを取り出し、リフと並んで腰を下ろした。


 食事の合間、リフの視界には遠くを行き交う氷の一族の姿が何度も映った。彼らが通る跡は、瞬く間に氷の道と化していく。ウテノヴァは、彼らが狩猟道を作る習性について説明しながら、結界を張る際には「存在を妨げる」だけでなく、音や匂い、光、魔力の流れといった要素も併せて考慮するべきだと教えた。リフは熱心に頷きながら耳を傾けた。


 午後の陽光に包まれながら、二人は再び断崖沿いの道を進んだ。視界が開けたことで、これらの道が氷の一族によって創り出された狩猟道であることを、リフはより明確に認識できるようになった。冬が終われば、それらは融け、再び足場のない垂直の絶壁へと戻るのだ。


 彼女たちは空を漂う氷の一族を避けつつ、順調に南へと歩みを進めた。このままならば、旅路は予定通り進み、無事に夏の訪れとともに大陸中央へと至るはずだった。


 本来ならば――そうなるはずだった。


 だが、リフの視界に、それとは異なる命軌が入り込んできた。



 この細い線……命軌なの?でも、どうして黒いの?いつも見えるのは透明なのに……


 そこから、すごく深い悲しみと、どうしようもない無力さと、絶望が伝わってくる。男の子の泣き声も聞こえる。すごく、すごく悲しそう。


 線は、壁の残骸が落ちていったところから伸びてる。行って、見てみたほうがいいのかな?



「リフ、どうかしたのか?」


「ウテノヴァ。下に、男の子が泣いてるみたい……」


「おそらく、彷徨う執念の魂だ。少し待っていろ。」


 ウテノヴァは小屋を取り出し、数十メートル下の崖壁に固定した。


「中に入って座っていろ。私が回収する。すぐ戻る。」


「ウテノヴァ、私も一緒に行く!」


「駄目だ。新しい残骸が落ちてくる可能性があるし、下の空気も良くない。」


「一緒に行けなくてもいいんだ!ウテノヴァの背中にぶら下がって、飾りになってるだけでいいのよ!」


「……」


「ウテノヴァ~?また後ろ向いて聞こえないふりしてる!」


「一緒に行く。私が抱えていくから、決して地面には降りるな。」


「はーい!」


 ようやく口元の波打つような笑みを抑え、ウテノヴァは何も言わずにリフを抱え、そのまま下へ飛び降りた。風の魔法の補助で、二人は素早く、滑るように底へと降下し、地表から少し浮いた状態で飛行を続ける。


 崖の最底部には、窪地が広がっていた。凍りついた骨や肉塊、臓器が無造作に積み重なり、小さな丘を形成している。その屍の山々には、多くの猛禽が群がり、啄んでいた。下では穴鼠ケツネズミ尖口狐トガリグチギツネが隙間を素早く駆け抜け、上空の猛禽たちの目を避けながら、ちょうど良い大きさの肉片を巣へと運んでいる。


 リフは何も言わず、手元の黒い長衣をぎゅっと握りしめた。ウテノヴァは黙って瘴気と耳障りな音を遮断しつつ、魂の嘆きが聞こえる場所へ向かい、速度を上げて飛行を続けた。


 間もなく、彼女たちは新しく積み上げられた小丘の頂へと降り立った。


 そこにある魂の存在は、一目でわかった。他の獣の亡骸とは明らかに異なる、一つの小さな人間種の頭部。大半の髪と皮膚は剥がれ落ち、濁りかけた眼球には、なお微かに碧緑の輝きが宿っていた。


 この色を、リフは覚えている。村を離れる前、葬儀の席で目にした悲しみに暮れる黒衣の女と、彼女の傍らにいた子供たち。皆、美しい緑の瞳を持っていた。それゆえに、強く印象に残っていた。


「ウテノヴァ……どうして?」


「頭骨は硬く、食い破りにくい。だから比較的形が残りやすい。」


「そういうことを聞いてるんじゃなくて……」


「……」


 リフが身を寄せてくる力がわずかに強まるのを感じ、ウテノヴァは内心で舌打ちした。やってしまった、と。軽く背を撫でながら、彼女は鎖の力を用いて亡者の生前の記録をたぐる。過去を知った彼女は、僅かに眉を上げた。


「父親の代わりを務めようとしたが、自分の力を過信しすぎた。そういう例は珍しくない。毎年、何人もの人間種が氷の一族の領域で命を落としている。」


「……彼の家族、探しに来るのかな?」


「愚——賢ければ来ない。来ても獲物が増えるだけだ。」


 言葉を選び直しながら、ウテノヴァは内心安堵した。だが、気づいていなかった。リフの意識は、彼女の説明が終わるや否や、別の方向へと向かっていたことを。


 幽魂使には観測しえぬ視界の中で、リフは悲嘆に暮れる魂から伸びる黒い命軌を見つめていた。その線をたどりながら、彼女は空間感知拡張する。そして、崖道から数キロ離れた森の中、その線の終点を見つけた。


 村で見かけたことのある女が、枯れ木の間をふらつくように走っている。彼女は誰かの名を呼び続けていた。だが、その声に引き寄せられた有翼の人魚が、女の背後に迫り、鋭い爪を振り上げ——



「駄目!」


 その瞬間、リフは空間座標を固定し、局所的な重力を圧縮した。反転する力に押し潰されるように、有翼の人魚は雪へと叩きつけられ、鋭い悲鳴を上げた。気配に気づいた女が振り返り、恐怖に顔を引きつらせながら尻もちをつく。


 他の氷の一族が集まる前に、リフは空間を裂き、女を自らのもとへと引き寄せた。


「ウテノヴァ!小屋を!」


「チッ……!」


 すべては数秒の出来事だった。だが、天族の能力を熟知するウテノヴァには、リフの行動の意図がすぐに理解できた。


 山谷に響き渡る怒号が、次々と反響し合い、不気味な咆哮の連なりとなる。その中をウテノヴァは猛禽たちを蹴散らしながら飛翔し、小屋へと滑り込む。入るや否や、彼女は最も強固な結界を張り、彼女たちの痕跡を完全に隠した。



「さっきの声、すごく怖かった……もう大丈夫なの?」


「ひとまず大丈夫だ。」


 ウテノヴァは、木小屋の隅に放り出した女の方を一瞥した。分厚い毛皮の衣を纏ってはいるが、山岳探索には向かない格好だ。服や靴下に覆われた手足からは、微かに血の匂いが漂ってくる。未だ呆然としている様子の女を尻目に、ウテノヴァはまずリフを下ろし、厳しい視線を向けた。


「リリ。」


「ごめんなさい……彼女が殺されかけてるのを見て、だから……」


「責めているわけではない。次は私を呼べ。」


「ほんと?」


「ああ。ただし、注意しろ。もう彼女には私たちがはっきりと見えている。わかるな?」


「あっ……」


 幽界の力による遮蔽が失われたということは、運命の節点が生じたことを意味する。


 リフは、女の方を振り返った。彼女はすでに正気を取り戻したようで、混乱と警戒の入り混じった目で周囲を見渡し、自分と同じ空間にいる二人の姿を観察している。しかし、リフは自身の姿が幻惑魔法で偽装されていることを思い出し、少し安心した。


「ノヴァ、彼女を村まで送ってあげたいんだけど、いい?」


「好きにしろ。」


「ありがとう、ノヴァ~!」


 嬉しそうにウテノヴァに抱きつくリフ。ウテノヴァは少しぎこちない動きで、そっと抱き返した。


 子供の自分なら相手も少しは安心するかもしれない。そう考えたリフは、小さく跳ねるような足取りで女の前へ進んだ。ウテノヴァは距離を置き、リフの背後から二人を観察する。


「大丈夫?村の人たちがあなたのことを話してるのを聞いたことがあるの。ナタリーでしょ?私はリリ、こっちはノヴァだよ。」


「……あんたたち、よそ者だろう?なんでこんな若い子が山に?それに、この小屋は一体……?」


「旅の途中なの。ここは仮の避難所だから心配しないで。外の非人種には見つからないよ。」


「二人きりで旅を?危険じゃないの?」


「大丈夫、ノヴァはとても強いから!それに村まではそんなに遠くないし、あとで送っていってあげるね。」


「……あんた、あの女に連れ回されてるの?」


「うん、そうだけど……?どうかした?」


 リフの声色が徐々に戸惑いを帯びる。


 理由はわからないが、ナタリーから強まる敵意と恐怖を感じる。それは、自分に向けられたものではない。


「と、とにかく……座ってお茶でも飲んで、少し休もう?」


 ナタリーが自分に害意を持っていないと理解したリフは、そっと手を握り、その感情を和らげようとした。


 ナタリーはその手に引かれるように膝をつき——そのまま勢いよくリフを抱き寄せ、その首を押さえつけた。



「ナタリー!?」


「動くな、魔女め!さもなくば、この子の首をへし折るぞ!」


 ウテノヴァは、震える手足の女を冷ややかに見つめ、その芝居がかった態度に微塵も動じなかった。


「助けてもらった恩も忘れ、手を差し伸べた者を脅すとはな。礼儀作法が実に優雅だこと。」


「邪悪な魔女なんか信用できるものか!この子はお前にさらわれたんだろう!?村まで送り届けろ、さもなくば、お前が育て上げた後継者を今すぐ失うことになるぞ!」


「ま、待って!邪悪な魔女って何のこと?」


「不気味な魔法を使い、非人種が跋扈するこの山脈を平然と歩き回る……それが焱氷帯エンヒョウタイから来た邪悪な魔女でなくて何だ!」


「魔女は邪悪なんかじゃないよ!ちゃんと善人を守り、悪人を懲らしめる、真面目な裁き手なんだから!」


「魔女に騙されるな!あいつらが善良なわけがない!」


「そんなことない!魔女は外見こそ冷たく見えるけど、本当は恥ずかしがり屋で、不器用なだけ!それに、子供にはすっごく優しくて、私のために苦手なことも頑張って覚えようとするの!すごく可愛い人なんだよ!そんな魔女が私は大好きなの!」


 ——うわぁ……リフはナタリーの言葉に反論するためにウテノヴァをべた褒めしたわけだけど……ウテノヴァの性格を考えれば、むしろ逆効果だ。リフの言葉は的確すぎる上に、ウテノヴァの本質を見抜いていることが透けて見えるせいで、彼女の内心はすでに言語化不能な阿鼻叫喚状態。もし鎖がなかったら、絶叫しながら屋根を突き破って飛び去っていたに違いない……


 おお、それでもウテノヴァは一度崩壊した後、ちゃんと立ち直った!なんて強い子だ!どうやら、リフの前で醜態を晒したくないという気持ちが羞恥を乗り越える原動力になったらしい。その意地を尊重して、細かい観察はここまでにしておこう。



「う、うあっ……!?」


 魔力の干渉を受けて筋肉が麻痺し、身動きが取れなくなったナタリーは、膝をついた拍子にリフを解放した。


 リフは穏やかな魔力の流れに包まれ、優しく横へと移動させられる。その一方で、ナタリーは残されたまま、強烈な魔力の威圧を受けて床と親密な関係を築かされることとなった。もちろん、ウテノヴァは人間種の基準に従い、しっかりと手加減をしているし、彼女の身体に巻き付いた鎖が許す限り、相手を肉片に変えるような真似はしない。


 無表情のまま、ウテノヴァはうめき声を上げるナタリーへと一歩ずつ歩み寄った。しかし、心配そうな顔をしたリフがすぐに二人の間に割って入る。


「待って!」


「先ほどあれほどの仕打ちを受けたのに、それでも助けるつもりか?」


「彼女があなたを『邪悪な魔女』と呼んだ理由を知りたいの。何か誤解があるはずだわ。」


「誤……解、だと……? 私の、祖父と母は……魔女に迫害され、だから焱冰帶から逃げ出した……」


「逃げ出した?焱冰帶から?」


 言葉の意味は理解できるが、リフの認識では焱冰帶は平穏で安全な生活圏であり、なぜナタリーがそんなことを言うのかが分からず、頭に疑問符を浮かべる。


 この手の事情に慣れたウテノヴァは即座に記録を照合し、推測を確信した上でナタリーへの拘束を解いた。深く息を整えたナタリーは、恐怖と憎悪をない交ぜにした視線でウテノヴァを睨みつけたが、彼女は意に介さず、嘲るような色を帯びた目で相手を見下ろした。


「彼らは魔女のせいで、私が幼い頃に次々と病に倒れ、命を落とした……すべて魔女の仕業よ。それに、魔女たちは幼い娘をさらって、洗脳し、次代の魔女へと育て上げる!間違いなく邪悪な存在なのよ!」


「ならば、真実を教えてやろう。お前の祖父は罪人だ。焱冰帶が罪人を裁くために放つ暴風から逃れようとしたが、幽界では裁きを免れなかった。今もなお、幽界地獄の底で刑を受けている――それが彼にふさわしい報いだ。」


「嘘よ!祖父は善良な人だったはず!彼の魂は生命の女神の慈悲により、安らぎを得ているはずなのに!」


「ナタリー・ツィミナ。タルガット・ツィミンという名の男――お前の祖父であり、父親でもある。タルガットはドロディインの街で重罪を犯し、娘を無理やり連れ、イコノピアこの辺境の山村に逃げ込んだ。自らの過ちを認めず、存在しない物語を捏造して、自分自身と周囲を騙したのだ。」


「――何ですって?」


「マリアナ・ツィミナは、従順で穏やかな女性だった。彼女は『母を恋しく思いすぎた』という父親の言葉を信じ、あらゆる過ちを自分の責任だと思い込んでいた。だが、自らの娘にも手をかけようとする父親を見た時、躊躇なく毒殺した。マリアナは親を殺めた罪の意識に苛まれ、憔悴しきってこの世を去った。彼女は善でも悪でもなく、相応の裁きを受けた上で、幽界の中層で穏やかに過ごしている。」


「祖父と母を汚すな!魔女の言葉なんて、信じるものか!」


「信じるかどうかなど、どうでもいい。愚かな女め。」



 木造りの床に、一瞬で霜が張り詰めた。


 リフは大きく目を見開き、突如として凄まじい威圧を放ったウテノヴァを仰ぎ見た。そこに立つ彼女は、もはや偽りの「ノヴァ」ではない。夜に二人きりで過ごしていた時の、ありのままの姿へと戻っていた。


「幽界――いや、『死の神』と言った方が、お前の愚かな脳みそにも理解しやすいか。私は死の神の使者にして、焱氷帯を創り上げた大魔女ウテノヴァ。私は神の全知の眼を借り、浮界に生きる者どもの行いを見渡し、それをもって罪人を裁く。」


「そんな……大魔女なんて、何百年も前の御伽話の……」


「魔女が家族を迫害したと言いながら、今こうしてお前の目の前にいる私を疑うのか?滑稽だな。死の神の使者とは、生者ではない。ゆえに死すこともない。」


 リフの傍らを、長く伸びた鎖が鋭く駆け抜け、ナタリーを頭の先からつま先まで絡め取った。リフは慌ててウテノヴァの黒衣を掴む。ウテノヴァは静かに彼女の肩に手を置き、目線で安心するよう促した。


「よく聞け、ナタリー・ツィミナ。私は神の使者として、個人的な感情に流され、力を濫用することは許されていない。よって、今お前に下される裁きは、神の眼が示した公正なる判決だ。恩を仇で返したその卑劣な振る舞いは、死罪に値するほどではない。だが、お前に救いの手を差し伸べる価値はない。お前をもとの森へと戻す。そこで何が待っていようと、それはお前自身の運命だ。」


「そ、そんな……!」


 氷の一族の鋭き爪が今にも自らを引き裂こうとしていた記憶が脳裏をよぎり、ナタリーの顔は恐怖に染まる。


「わ、私はまだ死ねない!大魔女様、どうかお慈悲を!娘の……タチアナは、すでに父と兄を失って、また母を失うわけにはいかない!どうか、どうか……!」


 リフは二人を見比べながら、ナタリーの感情とウテノヴァの表情や仕草を注意深く観察する。そして結論を出すと、もう一度ウテノヴァの衣を引いた。


「ウテノヴァ。彼女は悪い人だけど、悪人じゃないよね?あなたの焱氷帯は、本当に悔い改めた人なら受け入れるんでしょう?」


「君は、この女に赦しを与える価値があると思うのか?」


「それは……」


 再びナタリーを見る。涙に濡れた顔は恐怖と後悔、そして深い罪悪感に満ちていた。最初にウテノヴァへ向けていた憎悪は、もうどこにもなかった。


「ナタリー。あなたは娘を大切に思っているでしょう?だったら、娘のために誓えますか?これからは善良で正直に生き、過ちを犯しても心から悔い改めると。」


「……誓います。死の神と、大魔女様に誓って。これからどれほどの苦難があろうとも、決して他者を害する道を選びません。娘と共に、良心に恥じぬ生き方を貫いてみせます。」


 リフの視界に映る感情は、紛れもなく真実だった。彼女は懇願するような目でウテノヴァを見上げる。ウテノヴァは何も言わず、そっとリフの頭を撫でた。


 瞬く間に、ナタリーを拘束していた鎖が光となって消え去る。彼女は崩れ落ちるように膝をつき、恐怖の余韻に震えながらも、呆然としたまま地に手をついた。


「ナタリー・ツィミナ。己の誓いを決して忘れるな。死の神はこの世の万物を見渡す。お前の善も、悪も、すべて神の眼に映っているのだから。」


「は、はい……大魔女様。誓いを違えることは、決していたしません。」


「リリ。彼女を送り返す前に、私は外で少し探し物をしてくる。戻るまでの間、君のしたいようにするといい。」


「ありがとう!気をつけてね、ウテノヴァ。」


「ああ。」


 ウテノヴァは再びリフの頭を撫でると、棕色の髪と瞳を持つ「ノヴァ」の姿に戻り、扉を開いて雪嵐の中へと消えていった。



「ええと、それじゃあ……」


 リフはウテノヴァのやり方を真似て、魔力を使いナタリーを椅子へと移動させた。


 まだ器具を扱う細かな技術には慣れていないため、水を温めることしかできず、お茶を淹れるのは自分の手で行った。ほどなくして、芳醇な香りのハーブティーと、水で湿らせた温かい布巾がナタリーの前に置かれる。


「ナタリー、手と顔を拭いて、それから温かいお茶を飲んでね。全身が震えてるし、手もすっかり冷え切ってるよ。」


「ありがとう……」


 顔をさっぱり拭った後、ナタリーの表情には少し落ち着きが戻った。慎重に茶碗を両手で包み込み、一口含む。温かなお茶が喉を潤し、豊かな風味が舌を刺激した。村で育った彼女にとって、それは今まで味わったことのない美味しさだった。


 空になった茶碗をそっと置くと、ナタリーの体はすっかり温まっていた。彼女は隣にいる、ずっと自分に優しくしてくれた小さな女の子を見つめ、目を潤ませる。


「……ねえ、あなたのこと、リリって呼んでもいい?」


「うん、いいよ!」


「リリは、どうして大魔女と一緒にいるの?」


「ウテノヴァがね、私を旅に連れて行ってくれてるの。クルシフィア大陸の景色を巡る旅なんだよ。これから山脈を越えて、中部の都市に向かうんだ!」


「私は北部から出たことがなくて、一番遠くてもイリペットの街までしか行ったことがないの。でも、中部は商業が発達していて、にぎやかな都市がたくさんあるって聞いたわ……旅の無事を祈ってる。それから、さっきはごめんなさい。」


「気にしないで!別に私を傷つけようとしたわけじゃないでしょ?だって、全然力入れてなかったもん!あ、そうだ——」


 リフは空間から彩色された木箱を取り出し、ナタリーの手にそっと乗せた。本当は最後の一つを数日後に食べるつもりだったが、ナタリーの母親の話を聞いて、これが贈り物として相応しいと感じた。


「これ、あげる!焱氷帯で大人気のお菓子なんだよ。娘さんと一緒に食べてね!」


「……ありがとう。タチアナも、きっと喜ぶわ。」


「それからね、焱氷帯はとっても安全で栄えている場所なんだよ。ナタリーのお母さんの故郷なんだから、いつか時間を作って訪ねてみるといいと思うよ。」


「焱氷帯……」


 ナタリーは箱の蓋を開け、見慣れぬ菓子をじっと見つめた。しばらく沈黙した後、そっと蓋を閉じ、それを慎重に上着の内ポケットへとしまい込む。


「本当の焱氷帯って、どんな場所なのかしら?母は話したがらなかったし、祖父は『魔女に支配された過酷な魔域』だと言っていた……ずっと祖父の言葉を信じていたけれど、今はもう、何を信じていいのか分からないわ。」


「大丈夫だよ!優しい人でさえいれば、焱氷帯の暴風に傷つけられることは絶対にないの!それにね、ドロディインの街から焱氷帯へ定期的に向かう車列もあるんだ。行くのはそんなに難しくないよ!」


「本当に……?」


「本当だよ!ガイドのおじさんが、いざという時に頼れる連絡先をいくつか教えてくれたんだ。それをナタリーにも教えてあげるね!道に迷った時、きっと役に立つよ!」


 興奮した様子のリフは、以前聞いた民家や商店の場所を詳しく説明し始めた。ナタリーは、一度にすべてを覚えられるほど記憶力がいいわけではなかったが、それでも駅や交通の要所に近いものをいくつか頭に刻み込んだ。そして、娘がもう少し大きくなったら、列車に乗ってドロディインの街を訪れてみようと考える。


 ふたりの会話が一区切りついた時、木の家の扉が開いた。ウテノヴァが宙に浮かんだまま入ってきて、テーブルのそばでふわりと着地する。


「おかえりなさい、ウテノヴァ!用事は終わった?」


「うむ。」



 ウテノヴァのそばには、ちょっと汚れた袋が二つ、ふわふわと浮かんでいる……。


 あれって、ナタリーが探してたものだよね?やっぱりウテノヴァはとっても優しいな!


 でも……なんだか少し焦ってるみたい……?気のせいかな?



「お前の息子と、近くで見つけた物を返す。大切にするがいい。」


 ウテノヴァは、丸い麻布の袋と粗末な羊皮の袋をナタリーの腕の中へと浮かせて渡した。羊皮の袋が息子の持ち物だと気づくと、ナタリーは慌ててもう一方の袋を開けた。中をほんの一瞥しただけで、堰を切ったように涙が溢れ出す。


「ユーリ……私のユーリ……!」


「時間がない。これから言うことを忘れるな。東の大山脈では、非人種たちが縄張りを侵され、獲物を奪われたことで狂乱状態に陥っている。村の者たちに必ず伝えろ。冬が明けるまで、決して大山脈へ足を踏み入れるな。命はないぞ。」


「え……わ、わかりました……!」


「お前と娘の安全のために、大魔女と出会ったことは口にするな。さあ、早く行け。」


 ウテノヴァは手を振りかざし、空間に裂け目を作った。その向こうには、夕闇に包まれつつあるイコノピア村の入口が見える。ナタリーの背を押して裂け目の中へと送り込むと、すぐさまそれを閉じた。普段の優雅な振る舞いとは異なる粗雑な動きに、リフは強い疑念を抱いた。


「ウテノヴァ——」


「すまない。逃げるぞ。これからの移動は快適とは言えない。」


「えっ?」



 次の瞬間、リフはふわりと体が宙に浮く感覚を覚えた。気づけば、ウテノヴァの魔力でその胸元へと引き寄せられていた。


 同時に、小屋の外から連続するざわめきと不穏な音が響いてくる。


 ウテノヴァはリフの頭を腕の中に押さえつけると、小屋から飛び出した瞬間に小屋を取り戻し、周囲へと強烈な魔力の波動を放った。小屋の外を取り囲んでいた氷の一族は吹き飛ばされ、四方へと散った。しかし、もともと強大な魔力を持つ人魚たちへの影響は小さく、すぐに怒りの咆哮を上げながら追撃してきた。


「見つけた!見つけたぞ!」


「天族の魂の臭いだ!」


「姫君を傷つけ、獲物を奪った賊め!」


「薬草園を荒らし、氷草を盗んだ泥棒!」


「許さぬ!許さぬ!」


「天族を引き裂け!たとえ山脈の果てまで追おうとも、決して逃がすな!」


 氷の一族が怒号と咆哮を上げ、山脈全体が震えた。各地で大小の雪崩が次々と発生する。


 包囲を突破したウテノヴァは猛然と飛翔する。しかし、氷の一族が谷間や空中に無数の魔法障壁を展開し、空間移動を阻んだ。やむを得ず、彼女はリフを抱えながら攻撃を回避し、隠れられる場所を探すしかなかった。


「どういうこと、ウテノヴァ!?もしかして、私があの人魚を傷つけたせいで——」


「違う、君ではない!私の後の行動こそが引き金となったのだ!迂闊だった、やつらが天族の魂の気配にここまで敏感だとは——くっ!」


 猛吹雪が無数の氷針となって襲いかかる。ウテノヴァは速度を落とさざるを得なかった。


 ふと見ると、要害を魔法で強化しながら、氷針が皮膚を貫いても構わず追いすがる人魚たちがいた。自らの傷を気にすることなく、仲間すら巻き込む魔法を次々と繰り出す。明らかに同士討ちを覚悟した上での、執念の追撃だった。


「……本当は使いたくなかったが、仕方ない……!」


 青き光の翼が瞬時に展開し、周囲の氷雪を吹き飛ばす。


 もともと荒れ狂っていた怒号は、一瞬で狂気と怨恨の呪詛へと変わった。


「青翼の天族——!」


「呪われろ、青翼め!呪われろ、エスカルチャ(Escarcha)!」


「我らの故郷と自由を奪った貴様が、今さら何をしに来た!」


「天族は滅ぶべし!ことごとく滅ぶべし!!!」


 実体化した呪詛の数々を無視し、ウテノヴァは地脈を操る。


 第一世代との繋がりを通じ、焱氷帯との繋がりを通じ——東の大山脈の天流が変動し、ウテノヴァの意思と同調し始める。


「今日の一件は私の過ちだ。どれほどの怨恨も、どれほどの呪詛も——すべて、この身に受けよう。」



 全力で翼を展開した瞬間、焱氷帯が創造されたときと似た波動が山脈を駆け抜けた。


 山林は完全に凍りつき、氷の一族も、森の生き物たちも、すべて霜に包まれる。しかし、命が失われることはなかった。肉体の動きも意識も、一時的に凍結されただけだった。


 ウテノヴァは、魂を縛る鎖の痛みに耐えながら、谷間を疾走する。やがて無人の獣穴を見つけると、そこに飛び込み、土石で入口を封鎖した。背後の光翼と地脈の制御を解き、ようやく身体を休める。


 一連の動作を終えた途端、ウテノヴァの膝が崩れ落ちた。


 懐から降りたリフは、慌てて腕輪の中を探り、いくつかの結界道具を取り出して洞窟の入口に設置する。そして、小走りでウテノヴァのもとへ戻った。


 少女の表情は、いつものように無機質で冷ややかだった。しかし、一年以上も旅を共にしてきたリフにはわかる——ウテノヴァの状態は決して良くない。


 リフは心配そうに手を伸ばし、ウテノヴァの頬にそっと触れた。


「ウテノヴァ、大丈夫? つらいの?」


「……すまない。ここは環境が良くないが、しばらく我慢してくれ。」


「私は大丈夫。でも、ウテノヴァのほうが心配。さっき、追ってきた者たちを全部氷に閉じ込めたよね? それって、幽魂使にはできないことなの? ウテノヴァが良くなるには、どうすればいいの?」


「少し休めば平気だ。心配なら、そばに座っていてくれ。」


「うん、わかった。」


 リフは洞窟の壁と床を軽く掃除し、柔らかいソファを取り出す。そして、ウテノヴァと自分をそっとその上に移した。



 しばらくすると、氷の封印が解かれた山脈から、再び怒声が響き渡った。遠く離れた場所からのものとはいえ、その響きにリフは思わず身を縮めた。


「外に出さえしなければ、天族の魂の気配を感知されることはない。ここでしばらく過ごす必要がありそうだ。中央部への旅程も遅れることになる……すまない。私が引き起こした問題だ。」


 リフはウテノヴァに抱きつき、波のように大きく首を振った。そして、手持ちの魔力灯を取り出し、自分とウテノヴァの間にそっと置く。


「そんなふうに言わないで。ナタリーを助けたことが、騒ぎのきっかけになったんでしょう? 洞窟での暮らしなんて、曜錐ヨウスイでは何度も経験したよ。それに、クルシフィア大陸ではすべてが新鮮で楽しいし! それに私は一人じゃない。ウテノヴァと一緒なら、怖くないよ。」


「……私……」


 魔力灯の熱源は、ウテノヴァの体温を上げることはできなかった。それでも、初めてリフと共に眠ったときと同じように、魂に届く温もりを感じることができた。


「ここでしばらく過ごすなら、たくさんおしゃべりできるね! 私、聞きたいことがいっぱいあるんだ!」


「……ああ。話せることは、すべて話そう。」


「じゃあ、まず氷の一族のことを教えて! 彼らが怒るのは理解できるけど、どうしてあんなにも狂ったように? まるで天族に特別な恨みを抱いているみたい……。」


「そのとおりだ。彼らは人間種を憎んではいるが、最も怨んでいるのは別の存在だ。」


 ウテノヴァは、そっとリフの頭を撫でながら、遠い過去の記憶へと意識を沈める。


「氷の一族が最も怨んでいるのは——彼らからすべてを奪った存在。クルシフィア大陸の地脈を永久に変え、イエリルの怒涛を引き起こした元凶——つまり、天族だ。」






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 スイーツ図鑑

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