第10章「狙いは呪術師」【8】
「それでは、一体あいつは何なんだ? 我々の事を告げ口して、エギロダのご機嫌を取っているだけではないか!」
つまりはその通りなんだろうとリャガも同意した。
「よほどエギロダを恐ろしく思っているのでしょう。忠誠を誓っているとエギロダに思ってもらえれば、これ以上酷い事はされないと願って」
「そういう奴は、きっとエギロダの前でもへなへなと弱気な振りをしているに違いない!」
はっきりと怒りの姿勢を見せるケベスを前にすると、こちらは冷静になれる。
しかしこうなった以上、エギロダは要塞の防御をより強固なものにするのは言うまでもない。
「この辺りに留まったままだと、また襲われる危険があります。ユドリカにも立ち寄る事は出来ませんしね」
先程までせっかく上機嫌だったのに、またイライラが募るケベスだが、今度は更に人数を増やして襲ってくるかもしれないとリャガに脅されれば、撤退もやむを得ずと決断する。
敵の規模が大きくなればなるほど、こちらにも犠牲者が出る可能性が高くなる。
「とはいえ、全員引き上げるなんて真似は出来ません。彼らの動きを監視しなくてはなりませんから」
現状では、あの要塞の中にクワンたちがいるのかどうかすら掴めていないのだ。
「エギロダ一味が犯人だという事が我々にバレているのは、エギロダの方にも伝わっているでしょう。とすれば、早い段階でエギロダも動くと思われます」
例えば本当にクワンたちが要塞の中にいるとしたら、いつまでも要塞に置いておくのは危険だとエギロダは思うはずだとリャガは推測する。
「うむ。さっきの見廻り隊に我々は圧勝したのだから、全軍で押し寄せればひとたまりもないとエギロダは恐れを抱いているやもしれんな」
とすれば、一刻も早くクワンたちを別の場所へ移動させようとする可能性だってある。
リャガはすぐに兵三人を選抜し、伝令としてルーマットへ出発させた。
「仮にだ、要塞にクワンたちがいなかったら、どうなる?」
そうケベスに尋ねられても、リャガは彼の方を見なかった。
「いたずらに時間を費やすだけ、となりましょう。だから今は要塞にいると賭けるしかありません」
「危険な賭けだ」
「分かっています」
「だが我々はユーゼフの言葉から確証を持ってここへ来た、というのも事実。危険ではあるが突拍子もない賭けではないと、私は信じているぞ」
「ケベス様、ありがとうございます」
リャガ隊一行は身を隠せる場所を探し、岩に囲まれた窪地を発見した。
そこから要塞を監視しつつ、再び見廻り隊のようなエギロダの手下が来ないか見張りも付けた。
ところが彼らは見つかってしまった。
エギロダではなく、ユーゼフに。
ユーゼフは共の者と二人だけでリャガ隊の元へ現れた。
「何をしに来た⁈」
いきなり怒りを爆発させたのは、もちろんケベスである。
ユドリカでは嘘をつかれ、エギロダに告げ口した為に襲われる羽目になった。
「ケベス様、お気持ちは分かりますが、一旦落ち着いてください!」
兵数人がかりでどうにか彼を止めた。
「数日前、あの中に女性が三人、連れ込まれました。おそらく、あなた方のお仲間でしょう」
ユーゼフはぽつぽつと語った。
「彼女たちはまだ中にいるのですか?」
「リャガ、…隊長、そんな奴の言う事を信じるのか?」
「話を聞いてみましょう。判断するのはその後でも出来ますから」
舌打ちをするケベスを他所に、リャガはユーゼフを促した。
「まだ中におります。三階のエギロダの部屋の中、特別に作られた部屋の中に閉じ込められているのです」
クワンたちはその中からは術が使えない事や、数日の後に他の場所へ移動させられる事をユーゼフは話した。
「ずいぶんと詳しいな。エギロダからそう我々に教えろと言われて来たのか?」
「そこまで言わなくてもいいでしょう! ユーゼフ様は危険を顧みず、ここまでやって来たというのに!」
ユーゼフの共の者が我慢出来ずに吐き出した。
またケベスが沸騰しそうだ。
「ユドリカで本当の事を言う訳にはいかなかったのです」