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第10章「狙いは呪術師」【7】

「つまり私たちは、エギロダが恐れる相手の所へ連れて行かれるという訳ね」


 そうなったら、逃げられる希望はさらに薄れてしまうかもしれない。


「そこにも、こんな部屋があるのかしら」


 無機質な白い壁を見つめてソエレが呟く。


「あるに決まってる。きっとそこにいる連中が、この壁を作ったのよ」


 呪術師を研究している人物がいるともエギロダは言っていた。


「こんな物を作れるなんて、よっぽど研究したのね、学者さんかしら」


「時間とお金が凄くかかりそう」


「特殊な鉱石…だったっけ、そんなのを見つけるのだって、その辺の学者に出来るとは思えない」


 じゃあ、どういう事か。


「とんでもない大物が待ち構えていると考えて、間違いないわね」


 これが正解かもしれないし、違うのかもしれない。


 ただ、可能性の一つとしては大いにあり得るのではないだろうかとクワンは思う。






 ユドリカから馬で一日半、荒れ野の向こうに白くて四角い建物がリャガたちの目に入った。


「あれがエギロダの本拠地か、なるほどあれは要塞と呼ばにふさわしい」


 妙にケベスが感心している。


「窓らしいものは無さそうだが、等間隔に穴が開いているだろう? あそこから要塞に近づく者に矢を射るのだ」


 喜んでいるのか?


「ああいった堅固な要塞を攻略してこそ、兵士の真髄だぞ、リャガ」


「は、はあ…」


 数で押し込めばいいのではないかと思っていたリャガだが、違うのかと不思議そうに首を傾げた。


「隊長、何者かが近付いて来ます!」


 兵の声がする方へ顔を向ける。


 要塞とは別の方角から、砂煙と共に大勢の人間がやってくる。


 こちらより多い。




 彼らはリャガ隊の直前で足を止めた。


「五十はいるな」


 ケベスがぽつりと漏らす。


 兵の間を通り、リャガが男たちの前へ出る。


「我々に何か用か?」


「俺たちは、この一帯の治安を守る見廻り隊だ」


 そんな頼れる存在がいるとはユーゼフからは何も聞いていなかったが。


「先程、善意の一報が入った。バドニア兵の偽物が悪事を働こうとしていると」


「その“善意の一報”を寄越したのは、ひょっとしてエギロダか?」


 見廻り隊の男は、ギョッとした。


「治安を守るなどとほざいてはいるが、所詮はエギロダを守る為に作られた、言わばお前らの方が紛い物であろう?」


「エギロダ様を守って、何が悪い! エギロダ様は立派なお方だ、エギロダ様の支配を受ける事は光栄な事だ! だから俺たちは治安を守っているんだ!」


 見廻り隊の方が先に剣を抜いた。


「隊長殿、売られた喧嘩は買わねばなりませんな!」


 ケベスはやる気満々であった。


 無駄な争いは避けたいリャガではあるが、ここは彼の意思に乗ろうと決めた。




 数が倍以上であったとて、リャガ隊はバドニア正規軍の訓練を受けた元正規兵である。


 彼らの纏う鎧は本物であり、そこらの素人が振るう剣なら簡単に跳ね返す。


 みるみる数を減らしていったのは、見廻り隊の方だった。


 リャガも剣の腕前はそこそこあったが、ケベスは彼より一枚も二枚も上手であった。


 鬼神の如く見廻り隊を蹴散らしていく。


 残り一桁となった所で、ようやく見廻り隊は自身の危機を悟り、這う這うの体で逃げ出した。


 リャガ隊二十五名は全員無事であった。




「よくエギロダの手先だと分かったな?」


 これまでの鬱憤を晴らして満足げなケベスは、機嫌良くリャガに尋ねた。


「あれが真っ当な見廻り隊なら、ユドリカや他の集落の人々は苦しい思いをしていないでしょう。奴らの言う事など、ハナから信用出来ませんでした」


 増援が来ては面倒になると、リャガ隊は一旦その場から離脱した。


「しかしエギロダという奴は鼻が利くのだな。我々が来ていると知っていた」


「見廻り隊に我々を退治せよと命じたのはエギロダでしょうが、我々の事をエギロダに伝えた者がいるのでしょう」


 到着した途端に見廻り隊がやって来たのは、偶然ではないとリャガは言った。


「何、ま、まさか…ユーゼフか⁈」


「彼しかいないでしょう。我々が夜に休んでいる間、彼の使いが馬を飛ばして我々を追い越したという所かと思われます」

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