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第10章「狙いは呪術師」【5】

 それからエギロダは入れ替わりでやって来る部下にあれこれと指示を出す。


 クワンたちにはその声だけが聞こえてくる。


「私たち、どうなるの?」


 ソエレが震えた声で聞いてくる。


「それは分からないけど、このままじゃルーマットには帰れそうにないわね」


 クワンは静かに答えた。


「誰か助けに来てくれるかしら?」


 今度はルジナだ。


「ここに私たちがいるって分かっていれば、その可能性はあるわね」


 分かっていなければ、もちろん可能性は低くなる。


 しかも数日後には、別の場所へ連れて行かれるらしい。


 そうなったら、ますます助かる可能性は皆無に等しくなる。


「だからみんな、まずは心を平穏に保って。ここは自分で何とかするしかないわ」


「何とかするって、どうすれば良いの?」


「静かに。本城にいた時を思い出して。四人でよく訓練をしてたでしょ?」


 ここにいる三人と、バドニアに残ったエモーネを含めた四人。


「心と身体の調子を整えるのよ。いざという時、最大限の力を発揮出来るように」




 エギロダの要塞は夜の闇に包まれる。


 クワンたちの部屋はそれすらも分からない。


 だがエギロダが外へ出て行ったのは、扉の閉まる音で察知出来た。


 その後彼は戻らず、音の無い時間が流れるばかりであった。


「きっと今は夜ね。エギロダは寝室にでも行ったんじゃないかしら」


 ルジナがそう呟いた。


 どうやら、ずいぶんと冷静になっていると思われた。


「私たちも休みましょう。少しでも体力を溜めておかなくちゃ」


 お互いぐっすりと安眠するなどとは難しいが、浅い眠りを取る事は出来た。




 日が昇る。


 要塞の白い壁に朝日が当たるが、清々しい印象など見受けられない。


 三階のエギロダの部屋には、部下が十数名集まっている。


 クワンたちにも、人数までは把握出来ないが、人が集まっているのは分かった。


「みんな、準備はいいわね?」


 クワンの囁きに、ルジナとソエレは頷いた。


 三人は一枚の壁に向かって、それぞれ両の手のひらをかざした。


 そして目を閉じ、力を込める。


 術を、集まっているエギロダとその部下にかけるつもりなのだ。


 クワンとルジナが全員に、呪術師三人の存在を意識から消失させる。


 その後ソエレがそのうちの一人に、彼女らがいる部屋の扉を開けさせる。


 術がかかっている間は、彼女たちが部屋を出ても気に留める事すらしない。


 扉を開けてくれた者をそのまま操り、要塞の外まで案内してもらう。


 馬車か、馬だけでも調達出来れば、急いで要塞から離れる事が可能だ。




 果たして、扉が開いた。




 最初に目を開けたクワンは、全身が凍り付くような驚きを覚えた。


 扉の外にはエギロダが、にやにやとこちらを見つめていたからだ。


 エギロダだけではなく、彼の後ろには部下が何人も彼女らを覗き込んでいた。


 気付けば、真っ白だった壁が、赤く染まっている。


「残念だったねえ、お嬢様方」


 エギロダは何ら変わらずの猫撫で声をかけてきた。


「術をかけようとしたんだろうけど、無駄なんだよねえ」


 ルジナやソエレも愕然としている。


「この部屋の壁、実は皆さんの力を、外に出さないというか吸い取っちゃうというか、どっちだったっけな…まあいいか、どちらにしても無駄な足掻きだって事だね」


 壁が赤くなったのは、術をかけようとしている事を知らせてくれるのだとエギロダは説明した。


「どうだい、凄いよね? これって、呪術師の研究をしている人が特殊な鉱石を使って、この壁を作ったんだってさ。最新の技術がたっぷりと込められているって訳なんだよ」


 ソエレは両手をだらりと垂らし、ルジナはその場にへたり込んだ。


 脱出しようという意思を粉々に砕かれてしまった。


 ただクワンだけは、エギロダを睨み付けている。


 唇を噛み締め、肩を震わせながらも。


「いい顔だねえ。呪術師じゃなければ、俺のモノにしたい所だよ」


 扉が閉められた。


「無駄に体力を使わず、大人しくしておいでよね。変に疲れてたりしたら、こっちが怒られちゃうかもしれないからね」


 込み上げるものを我慢出来なかった。


 クワンは両手で口を両手で押さえ、声が漏れるのだけは必死に防いでいた。

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