第9章「ノネレーテの結論」【10】
そういった理由から、二人に来てもらう事は叶わない。
だがオパッセはともかく、シャラディーにはこの先も協力を願いたい所である。
しかし彼女もコルス軍の下請け業者であり、勝手に連れ出すと後々厄介な事になりかねない。
次の手があるかないかとなると、心当たり程度なのだが、ある。
「北に向かったというだけでは、雲を掴むような話ではないのか?」
ガーディエフは首を捻る。
「我々は北から下りて参りましたな」
ビルトモスが遠回しの助け船。
「いやだからといって…む」
何かが閃いたのか、ガーディエフは目を見開いた。
「まさか、エギロダか?」
「お見事です、ガーディエフ様」
リャガはビルトモスを尊敬しているが、世辞を飛ばす点は好きになれない。
「しかしそれこそ、北にいるというだけでエギロダを標的にするのは早計過ぎんか?」
「我々がユドリカに居候していた時、そこの住民に寝込みを襲われた事がありましたな?」
それなら確かにガーディエフもハッキリと覚えている。
自身はその騒ぎに気付かず眠ったままであったが。
翌日ビルトモスから顛末を知ったが、双方怪我人もいないと聞いて、ホッと胸を撫で下ろした。
ただ、それがどう関係するのかは、まるで分からない。
「夜襲を仕掛けた連中がまず向かったのは、クワンたちのねぐらでした」
兵士ではないから襲いやすいと思ったからだと、その時は考えた。
しかし始めから呪術師を狙っていたという見方も出来る。
「夜襲の時はユドリカの住民を使ったから失敗した。だから次は戦力を上げて兵たちを襲ったのでしょう」
もちろん現時点では、それがエギロダの仕業かどうかの確証はない。
「オパッセの目撃談、シャラディーの証言、それらを合わせると、別の仮説が立てられます」
今まで口を閉ざしていたテネリミが、低い声で語り出す。
「別の仮説?」
「その連中は、呪術師を兵士に育てようと目論み、クワンたちはその為に誘拐されたのだと」
仲間の兵を殺したのは、その成功例の、呪術師の兵士だとテネリミは言う。
「近寄っても呪術師だと知られなければ、相手も全く警戒しないでしょう。その上で術をかけて相手の動きを止め、殺す」
気付いた時には遅し。
「クワンたちには、そういった類の危険が差し迫っている可能性があるという事か」
いよいよもって早急に彼女らを救い出さなければならない、その考えで一致した。
「ただし、今のテネリミの仮説については、ここにいる者だけの秘密とする。特にクンザニや、ヌウラにも絶対知られんように」
ソエレを心配するあまり、クンザニが単独行動に出る危険性は非常に高い。
ヌウラを無駄に怖がらせる必要もない。
翌早朝、リャガやケベスを含む先発隊二十五名が選抜された。
兵士は五百人近くいるのだが、全員で動いては目立ってしまうので、小分けにする。
ガーディエフやビルトモスに見送られ、リャガ隊は北を目指して出発した。
「騒がしかったけど、また誰か出て行ったのね」
何が起きているのかをあまり知らされていないヌウラだが、異常を感じ取っているのか不安な面持ちである。
「そうだな」
ミジャルが彼女の近くにいる。
「誰に聞いても、何も教えてくれないの」
「仕方ない、きっと凄く重要な話なんだよ。終わったら教えてくれるさ」
「それで、リャガ隊長。これからまず、どうする気だね?」
ケベスは少し面白くない。
今回隊長に選ばれたのが、自分より年齢も経験も実績も全て下回るリャガだというのが納得出来ない。
思えばタラテラに行った頃から、リャガは少々生意気だったような気がする。
「困りました、ビルトモス様からは“お前に任せる”と言われて具体的な指示を頂けなかったのです」
それで困っているのか、いい気味だとケベスは心の中でほくそ笑んだ。
「私はまだ責任者の経験もなく、いきなり隊長というのはあまりにも荷が重過ぎます」
「それだけリャガ隊長に期待しているのだろう」
「出来る事ならケベス様に全てをお任せしたい所です」
そうだろう、そうだろうとケベスは心の中で何度も頷いた。