第9章「ノネレーテの結論」【8】
「どうする? このままにしとく訳にはいかねえんだから、埋めるか、燃やすか…」
「どうしたら良いのだろう。私には決められない」
「決めてやれよ。頭領なんだからよ」
レザナムは家の外に倒れている部下たちに目をやった。
「あの数を一人では無理だから、誰か雇うとしよう。燃やすのが良いだろうな」
それから散々迷った挙句、ノネレーテもパレムらを燃やす事に決めた。
エルスの身体には更に力が戻ってきて、上体を少し起き上がらせる事が出来るようになっていた。
足も多少は曲げたり出来る。
「あー、ちくしょう! 俺は一体どうなるのかねえ?」
ステムのやけっぱちな声が聞こえてくる。
「トミア軍に突き出します」
「報酬貰って万々歳だよなあ」
「悔しいですか?」
ステムは何度も舌打ちをした。
幸運にもカーシャは一命を取り留めた。
アミネが付き添っている所へ、馬車に乗ったゼオンとエルス、それからステムがやって来た。
エルスは多少の打ち身や擦り傷はあるものの、特段怪我を負っている訳ではないようだ。
ステムも手足を受けるが、こちらはかなりの重傷である。
またゼオンはアミネに殴られるのではないかとひやひやしたが、今回はそういう事はなかった。
「ノネレーテさんは? カーシャが目覚めた時にいてあげないと、彼女が不安に思うじゃない」
ゼオンとエルスは顔を見合わせた。
「今はきっと、パレムさんたちの遺体を燃やしているんだと思います」
「それが終わったら戻るのね?」
「…それなんだが、多分、無理だ」
現場となった民家から離れた場所で、パレムたち、ロッグディオスの仲間、レザナムの部下数十名が焼かれている。
ホミレートの住人たちは報酬が出ると聞いて、喜んで手伝いに集まってくれた。
人の焼ける臭いは凄まじいので、皆鼻と口を布で覆って高く上がる炎を眺めていた。
ノネレーテとレザナムも同様である。
「これからあんたはどうするんだ?」
「うむ、他にやる事もないから、ロッグディオスを追ってリグ・バーグへ行こうと思う」
「相手は正規軍で、しかも騎士だぞ。あんたの強さは直に見たが、リグ・バーグ軍を敵に回すかもしれんぞ」
「奴がのうのうと生きているのを、黙って見過ごす訳にはいかん。あんたの部下にも示しがつかないじゃないか」
「さっき、ゼオンが俺に白状してきたよ。“俺たちもあんたの部下を斬った”ってな」
町中でエルスたちを尾行して襲ってきた連中は、レザナムの部下であった。
ロッグディオスがコソ泥になって賞金をかけられたと思い込んでいたレザナムは、賞金稼ぎである彼らを狙ったのだ。
「まさかトミア兵に化けてるとは思わなかった。任務の為にあれこれ頑張っていたんだなあ」
「理解してやるつもりはないぞ。部下の命の落とし前は着けてもらう」
炎がパチパチと燃える音だけが聞こえてくる。
「すまんな、あんたに言う言葉ではなかった」
ノネレーテに“私を斬るか”と聞かれたレザナムだったが、慌てて首を振った。
「俺はもういい、部下には悪いが、あんたに対して恨みや憎しみの感情は湧いてこないんだ」
まるでノネレーテの斬り様に魅せられたかのようにレザナムは続けた。
「あんたの剣技は独特だが、何と言うか、美しい。俺はそれを見て、しかも生きてるのだから、感謝しか思い浮かばん」
「おかしな男だな」
それより、と今度はノネレーテ。
「あんたこそどうするんだ? またリグ・バーグへ戻るのか?」
するとレザナムはひらひらと手を振るのだった。
「俺はリグ・バーグへは戻らん。ユドードへの忠誠もこれまでだ。別の国へ行って適当に過ごすさ」
「悪さを働くのだけはやめておけ」
「ああ、やめておく。出来る限りな」
「お互い、良い死に方はせんのだろうな」
後日、ホミレートの駐屯所にトミア兵がやって来た。
リグ・バーグの騎士に勤務を代わってやると言われ、大金を貰って長い休暇を取っていたのだ。
ところが戻ってみると駐屯所はもぬけの殻で、毎日作成しなくてはならない報告書も途中で終わってしまっていた。
これは大変だと慌てて仕事に戻る、本物のトミア兵であった。