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第9章「ノネレーテの結論」【3】

 同時に、殺気めいたものもほとんどトミア兵は感じなかった。


 とはいえ、全員が腰に帯刀しているので、油断はならない。


「驚かせてすまなかった。我々は怪しい者ではない」


 巨体の男が人垣をかき分けてトミア兵の前までやって来た。


 後ろのゼオンは両手に剣を握り締めたままである。


「あんたが責任者か?」


「その通りだ。レザナムという」


「レザナム…」


 どこか記憶をたどるようなトミア兵だったが、すぐに視線をレザナムへと戻す。


「武装した者が数十名といて、これを怪しくないとは中々信じられるものではない」


「まあ確かにそうだが、我々は人を探しているだけなんだ。何しろ町から町への移動が多い。自分の身を守る為には武装が必要だろ?」


 もっともらしい事を言う、とは思ったが、あまり疑いを露わにして彼らを逆上させるのは賢いやり方ではない。


「それで、尋ね人は見つかったのか?」


「いいや、この町にいると聞いて訪れてみたのだが、どうやら人違いだった」


「それは残念だが、ちなみにどんな人物なのか教えてくれ。私はここの駐屯所で働いているから、この町については知っている。力になれるかもな」


「ずいぶんと親切じゃねえか」


 ぼそっとゼオンが呟く。


 目の前の男たちよりもよっぽど殺気立っている。


「そ、そうか、それはありがたい。そうだな、どんな男かというと………」


 そう言ってレザナムは探し求める男の特徴を呼び起こす。


「………お………あ、あれ?」


「どうした?」


「あんた、トミア人じゃないな?」


「何だ、私の事などどうでもいいではないか」


「いいや、あんたはリグ・バーグのリグ地方の訛りがあるぞ」


 聞き耳を立てているゼオンも、どういう事かと首を捻った。


「ああ、なるほど。私にはリグ・バーグ人の友がいるからな。付き合いも長い。だから彼の訛りが移ってしまったのだろう」


 トミア兵は冷静に返す。


「それにその顔、特徴が全部一致する」


「何処にでもいる、よくある顔だ。思い込みでそう見えているだけではないかな」


「違う、あんたはロッグディオスだ」






 ステムの連撃には助走が必要だった。


 少しずつ加速しながら剣を振るい、やがて最高速に乗せてから一息に撃ち続ける。


 これなら勝てる、むしろ、これしか勝つ方法は残っていない。


 最高速に乗ったと確信し、ステムは一心不乱に剣を撃ち始めた。


 ーーどうだ、防戦一方じゃないか?


 ーー防ぐのに疲れて隙を見せた所がお前の最後だ!


「えっ?」


 自分の一撃と一撃の間から、相手の剣が飛んできた。


 もちろんそれは防いだのだが、ステムの中で混乱が起こる。


 ーーこいつ、俺の攻撃を防いでいる。


 ーーなのに、自分でも撃ってくるって、どういう事?


 攻めては防ぎ、攻めては防ぎを繰り返すようになっていた。


 ーーおい、ジリ貧かよ!


 ステムは自身の僅かな遅れを感じ、焦っていた。


 相手はステムの一撃を防いだ剣そのままの流れで一撃を放ってくるのだ。


 ステムもそうしようとするが、上手くいかない、追いつかない。


 ーー?!?!?!


 いつの間にか、ステムは防戦一方となってしまっていた。


 必死過ぎて、その事実に本人も気付いていない。


 十六回を超えて撃ち続けるなどと意気込んでいたが、そんなものは既に記憶の彼方であった。


 少年剣士はその倍以上を撃ち込んでおり、その勢いは止まる所を知らず、恐るべきは更に加速し激しくなるばかり。


 ーーいつになったら終わるんだよ⁈


 最早逃げる隙さえ見出せない。


 ーー永久に続くのか⁈


 速いだけじゃなく、重い。


 ーーじゃあ無理だろ!


 心がポッキリと。


 ーーやめてくれ!


 柄を握る力も消え失せ、ついにステムの手から剣が弾け落ちた。


 右肩。


「ひっ!」


 左太腿。


「ぐぇっ!」


 左上腕。


「がぁっ!」


 最後は右の脛からふくらはぎへと刀身が貫通した。


「………!」


 声にならない悲鳴を発し、ステムはよろよろと後退し、どすんと尻から崩れ落ちる。


 両手両足全てに激痛が走り、どこを押さえればいいのか分からない。


 こんな経験は今まで無かったのだから、当然対処の方法など知る由も無かった。

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