表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
81/130

第9章「ノネレーテの結論」【1】

「ソイツはね、リグ・バーグで罪を犯したのさ。首都リグ・エ・バーグでも指折りの賞金稼ぎを、何と四人も」


「四人も…四人⁈」


「気が付いたかな? そう、コソ泥をノネレーテの部下に譲って、次に君らが目を付けた殺人犯だよ」


 そういえば目撃証言を聞きに行こうとして何者かに襲われて、結局そのままになっていたのをゼオンは思い出した。


「四人はそれぞれ別の賞金稼ぎ団に所属していてね、それら四つの賞金稼ぎ団も壊滅に追い込まれたのさ。重傷者は二十名近くに上り、その内の四人が帰らぬ人となった」


 ここまで派手に暴れた以上、リグ・バーグ軍も黙っている訳にはいかず、増員をかけて逮捕に力を入れた。


「だけどそんな捜査の網を潜り抜けて、ソイツはトミアへ逃亡してしまった。かといって知らぬ振りをするのも悪いと思ったリグ・バーグ軍は、トミアでも賞金をかけたという訳だ」


「指名手配をして、それで終わりか。リグ・バーグってのも無責任じゃねえか」


 ふと、トミア兵の目が鋭くこちらを睨み付けてきたように感じたが、すぐにいつもの目に戻っていた。


「まあ、そうだよね。そんな危険な奴を野放しにしておいたら、またどんな犠牲が生まれるか、分かったもんじゃない」


 ただし、あくまで標的は賞金稼ぎなので、一般人に危険が及ぶ事は少ないだろうとはリグ・バーグ軍の見解である。


 だから金だけ出して後は丸投げというのもいかがなものかとゼオンには思われた。


「それより、俺たちがその殺人犯を追っていると知った時も、あんたは何も言わなかったな。やっぱり俺たちを囮にしておびき寄せるつもりだったのか?」 


「コソ泥と違って、殺人犯はここには長く滞在しない。仮にいたとしても、せいぜい三、四日といった所だろう。ここが根城じゃないからね」


 その間隔は数十日だから、ゼオンたちが殺人犯と出くわす可能性はとても低い。


「俺は、例え君たちだって無闇に危険に晒すつもりは無いんだよ。それなりに動き回ってもらって賞金稼ぎが探してるぞ、と思わせたら成功だ。それでもバッタリ出会ってしまったら、よっぽど運が悪いと言う他ないね。だけど君らは強いから、あまり心配はしていないのも事実」


「あんた、いったい何者だ?」


 ゼオンの問いにも、“ご覧の通り、トミア兵だよ”と軽く返答するだけであった。







「勝つって言ったのか? 君が?」


 コソ泥は本気に受け取らなかった。


「僕は確かに怒ってました。一度しか会った事のない、しかも話した事もない女の人が怪我をさせられたくらいで、あんなに腹を立てるなんて考えもしませんでした」


「ヒトの感情なんて不思議なもんさ」


 エルスの言葉にも冷静に返している。


「そうですね、きっと理由は分からないままでしょう。だけど怒ってしまったせいで、僕の剣技は著しく低下したんです」


「ああ、熱くなってるなー、とは思ってたけど、そんなに変わってたのか」


「人からも言われています、これが僕の短所なんです」


「いやいや、自分の弱点を受け入れてるなんて大人でも中々出来る事じゃないよ」


「だけど、ようやく落ち着く事が出来ました」


 そこでコソ泥は首を捻った。


「なるほど、だから今までのは本当の実力じゃないって言いたい訳だ」


「ええ、これを言い訳にしたくないので、あなたに勝ちます」


「あっ、そう」


「だから名前を教えてください。僕はエルスといいます」


 コソ泥は少し考えた。


「いいだろう、どうせ殺すしな。俺はステム。よろしく、エルス」


「はい、よろしくお願いします、ステムさん」


 とんっ、とエルスが前に出た。


 また同じ攻めかと思った。


 だが咄嗟にステムは“大きく”避けた。


 違う、と直感したのだ。


 エルスは大袈裟に振りかぶったりしなかった。


 鋭い突きを繰り返してきた、ステムが驚くほどの速さで。


 少なくとも、さっきまではこんなに速くなかった。


 しかも、どんどん速さを増していく。


 “勝ちます”なんて子供の見栄だという考えを捨てなければならない。


 だが速さなら、こっちも得意分野だとステムは喜んで迎え撃つ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ