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第1章「ユドリカの苦難」【8】

 ビルトモスは複雑な心境ながらも、ガーディエフの乗る馬車に付き従う。


 道中ルジナはテネリミに近寄り、何故ユドリカを助けるのを頑なに拒んだのかと尋ねてみた。


「勝てるかどうかの不安なんて全く感じなかったわ。そりゃあ、勝てるわよ。正規兵が五百もいるんだから」


 烏合の衆と思しきエギロダが、部下をこちらと同じく五百も持っているとは考えにくい。


 ただエギロダは要塞を建造した。


 その要塞がどれくらいの大きさなのかは見ていないので分からないが、中にはそれなりの人数がいる事は想像に難くない。


「極端な話、五人や十人だなんてのはありえないって所でしょう? だとしたら百や二百、ひょっとしたら三百いるかも知れない」


 五百はいないにしても、それなりにはいるだろうとテネリミは言う。


「相手が素人だろうと、それだけの数とやり合えば、こちらに犠牲が出る可能性は低くない。それが嫌なのよ」


 それこそ極端な話、一人や二人ならとルジナは考えてしまった。


「まさか、不謹慎な事考えてないわよね?」


「え? そ、そんな事…」


 顔が赤くなった。


「私は一人でも失いたくないのよ。特に、私たちの目的と直接関係ない争いでは尚更ね」


 ガーディエフ軍の目的が何なのかをルジナは教えてもらってないのだが、その時は犠牲が出るという事だろうか。








 荒野の要塞。


 石造りの立方体を三重の防御壁がぐるりと取り囲み、人の侵入を阻んでいる。


 三階建ての一階は主に武器や食料等の倉庫、二階は部下が寝泊まりする広い空間、三階には会議室や頭領エギロダの部屋がある。


 現在ここにエギロダがいるのかと思いきや、どうやら外出中らしい。




 彼の姿はユドリカにあった。


 集落に住む人々より多くの部下を引き連れて乗り込んできたのだ。


 住民たちは各々の家に鍵をかけて、その中に身を寄せ合って息を殺していた。


 長であるユーゼフは自らの家にエギロダを招き入れた。




 茶褐色の髪と目付きの悪い乱暴そうな人相、高い身長は筋肉の鎧で覆われている。


 一対一でも自分に勝ち目はないとユーゼフは確信していた。


 妻のルスネは奥の部屋に隠れている。


 長椅子にふんぞり返って座るエギロダは、正面のユーゼフをにやけた顔で見つめながらしばらく黙っていた。


「あの、今日はどのようなご用件で…?」


 押しつぶされそうな空気に耐え切れず、ユーゼフが口を開いた。


「何だ、用事が無けりゃ来ちゃいけないのか?」


「い、いえ、決してそのような事はありませんが…」


 するとエギロダは徐に両肘を両膝の上に乗せて身を乗り出した。


「で?」


「…はい?」


 また沈黙が生まれた。


「どこに隠した?」


「何の事でしょうか…」


 チッ、と舌打ちが響く。


「とぼけるなって、あいつらは何処かって聞いてるんだよ」


 ユーゼフの脳裏にはテネリミたちの姿が浮かんでいた。


 彼女らがここへ来ていた事はエギロダの耳にも入っていたようだ。


「ああ、あの連中でしたら、ここを引き払って別の地へ向かいましたが」


 はあー、と今度は長い溜め息で圧力をかけてくる。


「みなまで言わせるなよ、どうせ俺たちを襲わせるつもりなんだろう?」


「断られました」


「!」


 ユーゼフの返しに、エギロダも驚いた。


「情に訴えてみたのですが、余計な争いには巻き込まれたくないと言って、出て行きました」


 下手に取り繕って後でバレたりしたら、その方がエギロダを怒らせると考えたユーゼフは正直に告げたのだ。


「そうかよ、それは残念だったな」


 思惑通り、いやエギロダは笑っていた。


 それ以降も、ユーゼフはガーディエフ軍について知っている事を全て語った。


 バドニアから来た五百人は正規兵である事や、人を待っている事、金はあるが食料はぎりぎりだとか、女の中には呪術師もいるとか。


「呪術師がいるのか?」


 エギロダは妙な所に食い付いてきた。


「え、ええ…三、四人はいましたかな」


「ほう」


 するとまた、で?、と聞いてきた。


 しかし今度のはすぐに分かった。


「おそらくは南を目指したかと」


 エギロダがガーディエフ軍に興味があるのは明白だった。

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