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第8章「満月と三日月」【4】

 アミネは眠っているところを叩き起こされた。


 彼女も現場にいたというので、同様に話を聞きたいとトミア兵が要請したのだ。


「私は見ていただけなので、何もしていませんけど」


 本当は何もさせてもらえなかったと愚痴の一つも零したいところだが、変な印象を正規兵に与えたくないので黙っておいた。


「いきなり襲われたという事だが、顔見知りという訳でもないのだな?」


 三人とも全く知らないと答えるしかなかった。


「心当たりは? 何か、恨みを買うような揉め事を起こしたとか」


「そんなもん、なあ?」


 ゼオンはエルスに振ってみた。


「この町ではゼオンさんも喧嘩なんてしてませんから」


「そうか。では、襲われた時は何をしていたんだ?」


 賞金首の殺人犯に関する目撃証言を聞いて、もう一つ別の人物のところへ移動していた時だと答える。


「ふむ…」


 するとトミア兵は険しい表情で考え込んでしまった。


「あんたこそ、何か心当たりがあるんじゃねえのか?」


「ああ、まあ…」


 口ごもり、迷っているようだった。


「いや、襲われたというなら、言っておくべきかもしれんな」




 宿の主人が気を利かせて朝食を運んできてくれた。


 焼きたてのパンの香ばしい香りが四人を包み込み、緊張感が少し和らいだ。


「賞金稼ぎは賞金首を狙うが、その賞金稼ぎを狙う者が現れたんだ」


「そんなの、今に始まった事じゃねえ。賞金首だって必死だから、抵抗してきたって不思議じゃねえぞ」


「そうだな。ゼオンが言っているのは、捕まらない為に反撃するという事だろう? だが私が言っているのは、賞金稼ぎを始末する為に賞金首になり、賞金稼ぎを狙うというものだ」


 ゼオンは首を傾げた。


 例えばゼオンたちが探しているような殺人犯は、個人的な恨みを晴らすとか欲しい物を奪う為だとかの動機がある。


 だがトミア兵が言うのは、賞金首になる為に人を殺めるという事なのだ。


「そうやって賞金稼ぎを誘い出し、始末する。そんな連中が確かに存在するんだ」


「どうしてそんな真似をしやがるんだよ?」


「賞金稼ぎに恨みがあるんじゃないの、単純に」


 きっとその通りなんだろうと、アミネの言葉にトミア兵も頷いた。


「馬鹿馬鹿しい! 悪どい真似をしたんだから、捕まったり殺されたりするのは当然の報いだ。いちいち恨まれてたらキリがないぜ」


 パンを口一杯に頬張りながら、ゼオンは文句を垂れた。


「さっき、あなたは連中と言いましたけど、そんなにたくさんいるんですか?」


 トミア兵は再び頷いた。


「ああ、いるね。もはや一つの組織と呼べるほどに人数が増えているという話だ。ほっておく訳にもいかなくなっている」


「それが、トミアにいるんですか?」


「元々はリグ・バーグで誕生し、勢力を拡大しているんだ。そして、とうとうトミアにまで手を伸ばそうとしているらしい」


「待って、という事は…」


 アミネはゼオンと目を合わせた。


「な、何だよ?」


 ゼオンはピンときていないらしい。


「分からないの? 私たちを襲った連中が、その賞金稼ぎ狙いの組織の一員だったかもしれないってことでしょう?」


「そ、それくらい俺だって薄々考えてた!」


 野菜が多く入ったスープも絶品である。


「だとすると、殺人犯を探している僕たちを狙ったのなら、この町にその殺人犯はいるって事ですよね?」


 詳しくは分からないとトミア兵は被りを振る。


「あんたらに脚を斬られた奴があまり喋らないのは、そういう訳かもしれないが、断定は出来ん」


「その連中は、強いのか?」


「残念ながら、かなり強いとの噂だ。一人で何人もの賞金稼ぎを相手に出来るらしいんだとさ」


 しかしエルスたちを襲ったのは、六人の集団であった。


「だけど、奴らはそれ程の強さじゃなかったよな。多少訓練はしているみたいだったが」


 分からない事だらけである。


「コソ泥…」


 エルスが呟いた。


「コソ泥だって、その可能性があるんじゃないですか?」


「ああ、そうなんだ。私も怪しいと睨んでいる」


 いくらかの空白が生まれた。


「はあ⁈」


 ゼオンが立ち上がる。


「おい、あんた! そう睨んでたのに、俺たちに丸投げしやがったって事かよ⁈」

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